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 機関紙誌等に発表した雑文等を掲載しています。


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あけましておめでとうございます   2014.1.1



霞ヶ関文学鑑賞  「医療・介護法案」可決に思う 2014.07.01


6月18日の参議院本会議で「医療・介護法案」が自民・公明両党などの賛成多数で可決され、成立した。「地域医療・介護総合確保推進法案」とも呼ばれるが、正式名は「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」である。
このやたら長い名称は初っぱなから正体をぼやけさせる。

めざすところは国の財政負担の軽減である。
この法案のいちばんの目玉は介護保険を利用する際の「一部負担金」を1割から2割に引き上げることだ。「長瀬の回帰式」にあてはめると、1割負担→2割負担により、およそ16%の給付削減が期待される。

→「数字でウソをつくな!(その26)」

ある新聞は「高所得者の介護保険の負担割合を引き上げる」と報じていた。法案には「一定以上の所得を有する第一号被保険者の介護給付を引き下げる」と記述されている。新聞記者を手玉に取る「霞ヶ関文学」の真骨頂…お見事!!  それにしても記者の純朴さには形容する言葉もない。

「一定の」とは、無限大からゼロまでの間の任意の値であって、都合によりどうにでも「変更する」ことの、霞ヶ関文学的表現である。なお、法の趣旨にうたわれている「効率的」とは「予算の削減」を効率的に美化する常套句である。

従来より、社会保障、社会福祉関連の分野では、「平均値」を絶対視し、「平均値」を「上限」とするような、見事な霞ヶ関レトリックがまかり通っている。「一定の所得」は、「高所得者」どころか「平均」さえも通り越して、「保護の必要なレベルの低所得」といったあたりに本音があるような気がしてならない。

→数字でウソをつくな!(その11

法律の名称にもある「総合的」なる言葉が、法文のなかに、じつにたくさん(40ヵ所以上!)使われている。現場の意見にとらわれず、世論に惑わされず、官の意志を貫く決意をあらわす霞ヶ関文学の表現法のひとつである。官の情報収集&情報処理能力は絶大であり、一般人の批判意見などというものは、すべからく一面的で視野の狭いものである。ただし、聞く耳は持たない、などとハシタナイ言葉は決して使わない。

とにもかくにも、お見事……ため息しか出ない。

参考

地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案



汚染地下水の放出  トリチウムをみくびるな 2014.08.08

反核医師の会MLへの投稿を収録しました 


2014年8月8日の新聞各紙は「汚染地下水を浄化し海へ放出」と報じています。
福島第一原子力発電所から海に流出している汚染された地下水を、くみ上げ浄化したうえで海に排水する計画を立て、地元の漁業関係者に了承を求めている、との内容です。

昨年(2013)8月21日に日本原子力学会の「福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会」が報告書「福島第一原子力発電所の汚染水の処理について」を出していて、その内容に沿った「放出案」です。

以下、報告書をざっと眺めてみます。

日本原子力学会「福島第一原子力発電所の汚染水の処理について」
http://www.aesj.or.jp/jikocho/documents/press20130821.pdf

多核種除去設備ALPSの除染係数は約600,000で、処理水の放射能を充分に低減できるが、トリチウムについては除去する能力はない。
トリチウム(3HまたはTと表記)をどうするかが問題となる。

「報告書」のポイントは、以下のとおり。
@トリチウムは「トリチウム水 」(HTO) として水に混在している。
Aトリチウムは自然状態(バックグラウンド=BG)でも0.01Bq/g 程度存在する。
Bトリチウムは半減期が12.3年で、ごく弱いβ線を放出する。
C体内にとどまりにくく、生物学的半減期は12日。
D汚染水からの除去は難しく、専用の装置を開発しても除染係数は10程度。

報告書では、これらを勘案して、トリチウムを「希釈して海洋に放出」することを提言している。

いちばんの争点は、トリチウムの放出をどう考えるか、です。東電の資料では汚水中のトリチウム濃度は100万〜500万Bq/gと見積もっています。
トリチウムは「三重水素」とも称されるように、水素の同位元素です。

バックグラウンドで存在するのだから大丈夫、などと主張する「学者」がいますが、問題外です。ケタがまるで違います。0.01Bq/gから換算するとBGは10Bq/Lです。放出の法的な規制値は60,000Bq/Lとなっています。ずいぶんと高い数値まで認めています。海水で薄まることを期待しての数値と思われます。飲料水中トリチウムの水質基準は米国で740Bq/L、EUでは100Bq/Lとなっています。カナダ・オンタリオ州飲料水諮問委員会は20Bq/Lを勧告。(WHOの飲料水水質ガイドラインは10,000Bq/L)。
100倍くらいに薄めれば放出でき、さらにそれを1000倍薄めれば「飲んでも大丈夫」ということでしょうか。なお、東電の資料では排出規制値と飲料水基準値を混同しています。
これで通ると思っているのでしょうか? 海は世界とつながっています。地元の漁業関係者だけ説き伏せればいい、というものではありません。

トリチウムはβ線を放出して崩壊し、ヘリウムになります。このときのβ線のエネルギーが非常に低いことをもって、「心配ない」とする主張があります。
経口摂取の「実効線量係数」を見ると、
 トリチウム(水)は  1.8×10-8 であり、  セシウム137の 1.3×10-5   と比べると1000分の1ほどです。(成人、mSv/Bq)
ただし、ここで示される「国際標準」とされる内部被曝の評価方法には問題があります。すなわち、透過性の低い(エネルギーの低い)放射線は、線源からごく狭い範囲に被曝が集中するので、その範囲の生体細胞には大きな影響を及ぼす可能性があります。しかし、「実効線量係数」では臓器全体の平均値で被曝を評価しています。 内部被ばくの評価方法について、こちらを参照してください→田崎晴明(学習院大学理学部)「内部被ばくのリスク評価について

被曝に加えていまひとつ、大きな問題があります。
たしかにトリチウムが水の分子を構成している状態であれば、体内に滞留せず、排出されていくかもしれません。しかし、有機化合物に取り込まれ有機物結合体(OBT)となれば長く滞留します。さらに、トリチウムが崩壊してヘリウムに変わってしまったら、その有機物の分子はどうなるのでしょうか。高分子結合が破壊され、細胞が損傷されます。そしてそれが染色体で起こったら、どうなるのでしょうか。放射線による被ばく以上に影響を受けるでしょう。

重水を用いたCANDU 炉(カナダ型重水炉)では、トリチウムが多く生成・放出されます。カナダの調査では、ダウン症の増加、新生児死亡の増加、小児白血病の増加などが認められています。

トリチウムに関する規制値や基準値は、たいへん甘く設定されています。除去が難しいから厳しく設定できないという事情があります。本末転倒としか言いようがありません。

日本原子力学会の報告では「自然界のBG レベルに近い濃度になるように希釈して、海中へ放出する」ことを推奨しています。しかし、「BG レベルに近い濃度」が、どの程度の濃度を意味しているのか不明であり、東電などの計画では、「BGレベル」をはるかに超えているが、法定レベルである60,000Bq/Lを想定しているようです。濃度ばかりが関心を引きがちですが、おそらく放出「量」は膨大なものになるでしょう。

参考資料

トリチウム(原子力資料情報室)
福島第一原発のトリチウム汚染水(「科学」掲載論文)
原子力発電所でのトリチウムについて(東電)
福島第一原子力発電所のトリチウムの状況について(東電)
食品中の放射性物質Q&A(厚労省)
トリチウムの生物影響(高度情報科学技術研究機構)
トリチウムのオンタリオ州飲料水質基準に関する報告と助言
トリチウムとは?危険性は?海洋放出量の基準値は?
トリチウム(三重水素) 浄化水を放出するな!(食品と暮らしの安全)
トリチウム研究会〜トリチウムとその取り扱いを知るために〜(JAEA)



イタイイタイ病を語り継ぐ シンポジウム 2014.08.30

新日本医師協会」機関紙へのレポートを収録しました
2014年9月20日 「新医協」 第1781号 掲載

8月30日、富山市で「イタイイタイ病を語り継ぐ会」の発足を記念するシンポジウムが開催されました。イタイイタイ病は、日本の四大公害病のひとつであり、日本で初めて公害病と認定されました。2008(平成20)年6月21〜22日に富山で開催された「新医協越中路学術集会」のメインテーマでした。このとき、賠償金の一部を出し合ってつくられた「清流会館」を訪れ、イタイイタイ病対策協議会初代会長の小松義久さんに講演をしていただきました。

イタイイタイ病は、神岡鉱山からのカドミウムが神通川を流れくだって、農作物や飲料水に移行し、それを摂取することによって発症します。著しい骨軟化により容易に骨折し「痛い痛い」と訴えます。天井から竹竿をつるし、布団をそれに掛けることで体にかかる重みを軽減しなければ眠れないほどだったといいます。1911(明治44)年ころから患者が発生していました。

新医協の集会から6年がたちました。その間に、小松さんは2010(平成22)年2月に85歳で死去されました。2012(平成24)年4月、富山県立イタイイタイ病資料館がオープン。2013(平成25)年12月には被団協と三井金属鉱業との間で「全面解決の合意書」に調印。このように、「片付いた」「終わった」と受け取られそうな展開のなかで、100年かかった公害事件を風化させてはならない、との問題意識から「語り継ぐ会」が設立されました。

主催者側はどれだけ人が集まるのか心配していたようですが、当日は約150人が集まり、急きょ椅子を増やすなど、大賑わいでした。四日市や大阪から市民団体のメンバーが参加され、終わりのほうで発言されました。

シンポジウムの前半は「父、小松義久を語る」と題して、次女、小松雅子さんの講演。後半は、イタイイタイ病に医師として取り組む萩野病院院長・青島恵子さん、法学者として取り組む富山大学准教授・雨宮洋美さん、ジャーナリストとしてイタイイタイ病を追及し続け、「語り継ぐ会」代表を務める向井嘉之さんを加えて、パネルディスカッションが行われました。

小松雅子さんは、県立イタイイタイ病資料館で「語り部」として活動しておられます。しかし、このような公開の場で父について語るのは初めてとのこと。時に引き伸ばしたお父様の写真を示しながら、時に涙をこらえながらのお話でした。

1968(昭和43)年〜1972(昭和47)年のイタイイタイ病裁判は、公害病裁判の先駆例として知られていますが、その苦労は並大抵なものではありませんでした。「コメが売れなくなったらお前が買いとれ」「ヨメに行けなくなったらどうする」「ヨメが来なくなったらどうする」「死ね」…などと夜中に電話がかかってくる。たまたま電話を受けた雅子さんは、怖くて眠れなくなったと語ります。「裁判に負けたら、ここにおれん、戸籍をかけた闘争だ」と義久さんは決意を語っていたそうです。

昨年末の「全面解決」については、不十分かもしれないが、国が認めていない「カドミウム腎症」を補償の対象にしたことは評価されていい、とパネラーから指摘がありました。国はカドミウムによる骨軟化症を認めているが、世界的に認められているカドミウムによる腎障害については、かたくなに認めようとしません。これは他の公害病や原発事故にも共通してみられる姿勢です。

「語り継ぐ」ことの重要性について、繰り返し発言がありました。水俣や四日市などの公害関連施設の担当者が集まって「語り部」活動の交流の機会がもたれるとのことです。大学と連携した「水俣病大学」の事例も紹介されました。同じ過ちが繰り返されないように、人間の人間たる智慧を働かせなければならないことを痛感します。

資料

清流会館の紹介
富山県立イタイイタイ病資料館
水俣病大学


歴史に「学ぶ」‥ 2014.11.25

富山県保険医協会総会での発言より

 ずいぶんと昔のことになってしまいましたが、私が大学にいたころ、先輩や指導教官から、歯科は平和の医療だ、歯科医学は平和の学問だ、と教えられました。戦争ともなれば、かえりみられなくなる。平和だからこそなりたつ仕事だ、という意味です。
 しかし、これは歯科だけのことではありません。在宅医療や終末期ケアなどは、歯科よりも風当たりが強くなりそうです。そもそも医療人は、人の命を守ることを使命としていますから、戦争を放棄し、平和を希求する憲法の精神に近い職種と言えるかもしれません。

 しかし、第二次世界大戦のとき、ドイツでは多くの医師がナチスに協力させられたという、忌まわしい歴史があります。
 障がい者をガス室に送った「T4作戦」では27万5千人が殺されたと言われています。このとき、政府は、医師や助産婦に新生児の障害の有無や程度を報告させました。報告すれば報酬を、しなければ罰金が課せられました。
 こうして選別された命が、「安楽死」と称して、抹消されました。やがて、障がい者だけでなく、精神病者、治癒の見込みのない病人へと対象が拡大されました。さらには、ユダヤ人などを対象にしたホロコーストへと発展し、600万人をこえる犠牲者を出しました。

 戦争協力への反省から、戦後、世界医師会は「ジュネーブ宣言」を採択しました。「たとえ脅迫されても市民(患者)の不利になるようなことに協力しない」と書かれています。

 昨年の夏、副総理の地位にある人が、「ワイマール憲法がナチス憲法に変わった」と発言して話題になりました。ナチス憲法なるものは歴史上存在しません。ワイマール憲法のもとでナチス独裁が実現したのです。発言の趣旨は「憲法を変えるなんて面倒なことはしなくていい。運用次第で何でもできる。ナチスを見習おう‥」ということだったのですが、マスコミは「歴史知識に乏しい政治家の早とちり」として片付けました。

 その後はご存知の通りです。閣議決定で憲法の解釈を変更して「集団的自衛権」の行使を可能にする。特定秘密保護法によって医師が適性評価(調査)に協力させられる。‥‥といったふうに戦時体制が着々と築かれつつあります。

 ナチスドイツをお手本にして国を操ろうとする勢力に対して、憲法の掲げる平和主義に立ち返り、ナチスドイツの歴史を教訓として、ストップをかけましょう。

 それにしても ‥‥ 歴史からの学び方にも、いろいろあるものですね ‥‥



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