BYPASS03  
 
『とやま保険医新聞』のコラム「バイパス」など、機関紙誌に発表した雑文を掲載しています。


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あけましておめでとうございます   2003.1.1



富山発・出前説明会

月刊保団連1月号にレポート「富山発・出前説明会」を掲載しました。サイズが大きいので別ファイルにしました。掲載誌とはレイアウトが若干異なります。
出前説明会(PDFファイル約400KB)


国民の痛みを知る政治に


労働団体の集会で挨拶した。初めての経験。その要旨を収録する。
2003.02.20 

 富山の医療と福祉と年金をよくする会、長い名前ですので、通称「よくする会」を代表して、連帯の言葉を申し上げます。
 4月から健保本人の医療費負担が3割に引き上げられようとしています。97年、健保本人の負担が2割に引き上げられたとき、厚生大臣だったのが小泉純一郎です。このとき、健保本人は2割に上げるが、将来、家族や国保は2割に引き下げる、と言っていました。
 これ以来、働き盛りの国民の有訴率は年々増加し、いっぽうでは受診率は低下し続けています。体の調子が悪いのに我慢して働きつづけている人が増えているのです。
 医師会・歯科医師会・薬剤師会・看護協会、これをあわせて「四師会」といいますが、共同して新聞の意見広告や、街頭でのビラ配りなどにとりくんでいます。こんなことは、はじめてのことです。各地の地方議会での3割負担反対の意見書採択が、自民党本部から反対するようにとの指示が出されたあとも続いています。
 マスコミは、これらの動きを利益団体・族議員などの抵抗勢力による醜い行為として描こうとやっきです。2〜30年前だったら、医療団体が矢面にたつことはありえません。労働団体がまっさきに立ち上がって、国会上程すらできなかったでしょう。
 時間がかぎられていますので、いろいろと話したいことがありますが、省かせていただきます。今日は、せっかくの機会ですから、3つの数字を覚えていってください。むずかしい数字ではありません。5%、10%、15%、この三つです。
 これらは障害者の頻度です。日本の最新の統計では、4.7%、すなわち5%弱としています。20年余まえのWHOの推定値は10%です。これは控えめな数字でして、発展途上国などが、自国の障害者数を概算するために利用されています。
 いっぽうオーストラリアは15.6%としています。アメリカは17%です。先進国の最近の統計からは15%以上というのが妥当な数字といえます。
 15%のはずが5%、日本の政治は、国民の痛みをたいへん低く見積もっていることを申し上げたいのです。
 もうひとつ例をあげます。「リストラ」されたら失業するのかと思ったら、違うのだそうです。それは「失職」であって、たとえば30人がリストラされると、半分の15人は再就職する。内容は問いません。さらに、残りのうちの5人は就職をあきらめる。最後に残った10人、3分の1だけが失業者です。国の統計や推計は、このように、国民の痛みを3分の1にまでサバを読むのです。
 結論を急ぎます。小泉純一郎の「純」の糸へんは金へんにして、「鈍一郎」と呼びましょう。国民の痛みに鈍感な人なのです。
 国民の痛みを直視するような、15%のものを15%と認識できるような、まともな国にするために、お互いに協力してがんばりましょう。


バレンタインデーの夜

「核兵器廃絶をめざす富山医師・医学者の会」
ニューズレターに掲載 2003.02

 バレンタインデーの夜、なにげなくテレビをつけたら、国連安保理の中継場面だった。国会中継なんかよりよほど面白くて、3時過ぎまで見入っていた。
 フランスの外相が、自国は長い歴史の中で多くの戦乱を経験し、なによりも平和が大切であることを知っているのだ、と語った。アメリカが仏独に浴びせた「古いヨーロッパ」という悪口を皮肉ったものだ。中国の外相もまた、自国の長い歴史を誇る言葉を枕に置いて演説した。イギリスの外相は、自分も古い国からやってきた、わが国はフランスによって建国された、とジョークを飛ばす。アメリカの国務長官は、わが国は新しい国ではあるが‥といいわけがましく口を開く。
 このやりとりは翌日以降の新聞やテレビでも報じられた。が、報じられなかった発言のなかに大切なものがある。
 ひとつはフランス外相の発言。
 査察は遅々として進まない、いつまで待てというのだ、とアメリカは非難する。戦争は、もしかしたら短期間で終わるかもしれない。しかし、戦争で破壊された国土を復興するには途方もない時間がかかるのだ。時間がかかることで査察の継続を批判するのは当たらない。

 もうひとつはシリア外相の発言。
 イスラエルは150余の国連決議と31件の国連安保理決議を無視し、核査察を拒否している。それでもお咎めなし。決議を受け入れ、査察を受け入れているイラクを「不十分」だとして責めるのはダブルスタンダードだ。
 もっとも、アメリカの国益に沿うものが正義だと考えれば、シングルスタンダードなのかもしれない。
 それにしても、これらの発言がまったく報じられないのは不思議‥‥いや、不思議を通り越している。


バイパス(コラム) とやま保険医新聞  2003.3.15 第254号

 健保本人三割負担をめぐって、土壇場の攻防が繰り広げられている。四師会が街頭行動を行い、地方議会がつぎつぎに反対決議を採択する。ここにきてマスコミは小泉擁護の姿勢をいっそう明らかにしている。
 国民の健康と生活を守る運動の高まりを無視できなくなると、それを利権政治・族政治に矮小化し、ことさら醜く描き出そうとする。
 三割負担反対に同調する者は「小泉改革を批判する資格はない」(毎日新聞社説)とまで言い切る。小泉批判をするのに「資格」が要るとは恐れ入る。思い上がりも極まった感がある。
 ジャーナリズムは「第四の権力」とも称される。立法権・行政権・司法権の三権に対峙し、その誤りや行き過ぎを監視する、というのが本来の意味である。が、世の中は変わった。メディア産業の「勝ち組」を気取るマスコミが、小泉改革に迎合する。
 三割負担で音を上げるような国民は、労働市場の「負け組」だ。社会保障原理にこだわる医師らは市場原理主義の天敵である。
 福祉の「福」と「祉」はともに「しあわせ」を意味する。人間を「ふしあわせ」にしない社会を目指すことが、不況下の今だからこそ強く求められている。

    毎日新聞社説 03.02.08  医療費3割負担 族政治に加担する野党の愚
    野党が目先の選挙にとらわれ、族政治に加担する愚を犯せば、小泉改革を批判する資格はない。

バイパス(コラム) とやま保険医新聞  2003.4.15 第255号

 フォトジャーナリスト森住卓氏が撮影した少女の写真がある。名はサファア。白いショールをまとってにっこりしているのは、退院して家に帰ることになったからだ。病気が治ったのではない。病院に薬がなくなったのだ。
 サファアの頭には髪がない。病名は白血病。イラク南部では、湾岸戦争で使用された劣化ウラン弾のために、小児白血病が10倍に増え、奇形児の発生は3倍に増えたという。
 劣化ウラン弾は湾岸戦争で初めて実戦に使われ、その後、ボスニアやコソボでも使われた。
 劣化ウランはウランを濃縮する過程で生まれる放射性廃棄物である。比重が大きく貫通力が高い。着弾時に発火して、放射能のチリをばらまく。
 いままた、イラクで劣化ウラン弾が使われている。米軍は「疾病との因果関係は証明されていない」と言い張る。そもそも戦争自体、因果関係がはっきりしない。
 「我々が国連を傷つけたとは思わない。国連が無能さを露呈したのだ」─米国政府の物言いは神々しいほどに傲慢だ。
 ひるがえって日本。サルのようにアメリカをまね、イヌのようにアメリカについていく。せめて「劣化ウラン弾を使うな」と言えなかったのか。

    劣化ウラン弾による放射能汚染で問題になるのはウラン238である。
    @比重が鉛の1.7倍あり、弾頭として用いると貫通性が高まる。
    A着弾時の衝突エネルギーにより発火し、直径5ミクロン以下のエアロゾルを生じる。
    Bアルファ崩壊によりアルファ線(陽子2個と中性子2個のヘリウム原子核)を放射する。
    Cウラン238はアルファ崩壊を繰り返して、最終的には鉛になる。
    Dウラン238の半減期は45億年である。
    Eアルファ線は空中で2〜3cmしか到達せず、紙1枚でも遮蔽される。
    Fアルファ線は外部被爆では問題にされす、内部被爆が問題となる。
    G「空中放射線」測定はガンマ線を測定しており、アルファ線は対象となっていない。
    H体内に吸収された放射能のアルファ線の計測は難しい。

    参考資料(サイト)
    2000.4〜200.7、中国新聞(広島)に連載された特集記事「知られざるヒバクシャ」
      http://www.chugoku-np.co.jp/abom/uran/
    文部科学省の委託を受けて科学技術振興事業団(JST)が運営している「原子力図書館」
      http://sta-atm.jst.go.jp/
    敦賀原発・原子力環境監視センター
      http://www.houshasen.tsuruga.fukui.jp/

 消費税と医療費財源 とやま保険医新聞 2003.5.15 第256号

 表記のお題を頂きました。また財源論ですか。いささか食傷気味です。「構造改革」が掲げられてからというもの、社会保障の理念抜きで、財政難による「痛み」の分配ばかりが論じられます。
 改革なくして成長なし。成長なければ社会保障どころじゃない‥‥のでしょうか。不景気だとはいえ日本のGDPは500兆円。イギリス、フランス、ドイツの合計額に匹敵する経済大国です。
 500兆円だと社会保障に回す金はなくて、どれだけあれば余裕がでてくるというのでしょうか。問題は、富の分配のあり方、国のかたちです。GDP比で欧米先進国の3倍の公共投資、半分の社会保障給付、この構造こそが改革を求められます。

 図をご覧下さい。日本の消費税は見かけの税率は低いのに、国税に占める比率が高い。生活必需品等に対する減免措置が講じられていないため課税対象が広く、「逆累進性」がとりわけ強いことを物語っています。換言すると、経済格差を拡大する税制です。ところが、これを公平だと称する者がいます。
 竹中平蔵氏によれば、「累進課税を廃しフラット税制を」、「もっとも公平な税制は人頭税」─つまり、所得税は勝者の足を引っ張る「不公平」であり、人頭税に近い消費税が勝者を賛える「公平」なのです。経済を活性化すために格差の拡大を利用しようとします。
 格差の拡大は「富者の傲慢と貧者の絶望」を生み、紛争、犯罪、戦争などで社会全体が混乱に陥る。この歴史的な教訓から導かれたのが社会保障であり、それを地球レベルに拡大した「人間の安全保障」です。
 格差を是正するはずの社会保障のために、格差拡大の増税をするのは自己矛盾です。増税が必要だとしても別の方法によるべきです。

 日本の社会保険制度は、官吏と軍人を厚遇し士気を高めることから出発し、のちに殖産興業のため労働者、兵卒の供給のため農民に拡大し、戦後10年余たって国民皆保険が確立しました。
 歴史の残渣を含みつつも全国民をカバーし、社会の安定に寄与してきました。良質な勤労者と消費者によって産業界はおおきな恩恵を受けています。消費税を上げるよりも、外形標準課税を社会保障財源にあてるほうが、ずっと正当性があるのではないでしょうか。


 
バイパス (とやま保険医新聞コラム) 2003.05.15 第256号

 イラクの復興支援のために法人税の一時引き上げを‥‥奥田碩(ひろし)氏の提案である。
 この人は、トヨタ自動車会長、日本経団連会長そして経済財政諮問会議議員である。
 日本経団連が発表した「日本社会の将来展望」(奥田ビジョン)は、社会保障給付を20兆円減らし、消費税を16%にするよう提案している。毎年1%づつ引き上げれば消費は増大する、と強気だ。いっぽうで法人税は大幅引き下げ。企業あっての国民、企業あっての国家だという。
 「奥田ビジョン」の第1章第1節で、「本来、社会保障制度は‥」と定義を試みている。その文末は「セーフティネットである」と結ばれている。だから、最小限の給付に絞らねばならない、と主張する。
 セーフティネットは、社会保障の機能のごく一部にすぎない。競争社会から落っこちた人を助けるだけではなく、落っこちないようにすること、そもそも人の意志に反して危険な目にあわせないこと、それが人権に根ざした社会保障の考え方である。
 アメリカへの忠義立てのためなら法人税を差し出す。日本国民よりもブッシュのご機嫌のほうが大事だとみえる。

    イラク復興費用の企業負担
    奥田碩日本経団連会長は定例会見でイラク戦後の復興費用について「個人的な見解だが、個々の企業もそれ相応に負担すべきだ」と語り、‥‥「世界第二位の経済大国が人も金も出さないというのでは責任を果たしていない」と指摘。日本の負担規模については「湾岸戦争時の例をとって考えれば良い。日本経済の情勢を考えれば(当時と同じ規模は)苦しいが何も出さないというのはまずい」と強調した。 日経新聞(2003.03.24)報道
    03年6月10日、日経新聞社説
    「イラク復興支援は日本の国際責任だ」と題した社説のなかで、「 世界第2位の経済力を持つ国が当然期待される責任だ・・・」と 奥田氏の発言のフレーズをそっくり使っている。さすが日本経団連のメディアにたいする影響力は絶大だ
    時事通信社主催講演会における 奥田会長講演  2003年1月20日(月)
    「消費税を上げて法人税を下げる。これは、企業エゴではないか」との声も聞こえて参ります。しかし、企業は事業環境の悪い国からは逃げ出してしまいます。それがグローバル競争というものだと思います。企業が強くならなければ、個人の生活も、日本の経済も決して良くはならないわけであります。法人税率を思い切って大幅に引き下げることにより、国内の事業を活性化させ‥‥

バイパス (とやま保険医新聞コラム) 2003.06.15 第257号

 「セクハラ」がセクシュアル・ハラスメント(性的いやがらせ)だと知らぬ人はいないだろう。いわゆる「男女雇用機会均等法」の99年改正でセクハラ防止のための雇用管理上の配慮が義務づけられるようになった。
 ほかにもいろんなハラスメントがある。「ドクハラ」はドクター・ハラスメント。なにげないひと言が患者さんの心を傷つけ恨みを買っているかもしれない。
 「アカハラ」はアカデミック・ハラスメント、「アルハラ」はアルコール・ハラスメント、「スモハラ」はスモーク・ハラスメント、「パワハラ」は地位や権力にもとづくパワー・ハラスメント。
 宴会で異性の部下に酒を強要し、酒ぐらい飲まなきゃ一人前じゃない、などとのたまえば、アルハラ+パワハラ+セクハラだ。
 日本経団連は、政党を独自の基準で考課評定して、それに応じて政治献金をするという。さっそく与党の有力政治家たちが「日本社会の将来展望」(通称、奥田ビジョン)引き写しの主張を唱和し始めた。機を見るに敏なのはさすが。奥田語録をかざして文化大革命だ。
 金をちらつかせて政治をひきまわす。これは「ゼニハラ」とでもいうのだろうか。

    経団連、来年から政治献金再開
    日本経団連は12日、会長、副会長会議を開き、企業が政治献金する際、政党の政策評価を示す「政経行動委員会」(仮称)の設置を決めた。04年から政策評価に基づく献金を再開する。今回の献金再開は、今年1月に発表した日本経団連の新ビジョンで提唱した。奥田碩会長は昨年5月の就任以来、「口もだすがカネも出す」と、政治への影響力の強化策を探ってきた。(03.05.12 朝日新聞)

 
バイパス (とやま保険医新聞コラム) 2003.07.15 第258号

 拓殖大学教授・井尻千男(かずお)氏によれば、わが国は二つの原理主義に挟撃されて解体の危機に瀕しているという。ひとつは言わずと知れた市場原理主義、いまひとつは人権原理主義である。
 いずれも米国由来であって、敗戦後の占領政策が人権原理主義の源であり、マネー敗戦による「第二の占領」が市場原理主義の揺り籠だと分析する。米国の戦略に踊らされているだけだ、と。そして日本古来の文化が崩壊していくことを嘆く。
 市場原理主義は、「構造改革」というカバータイトルと小泉純一郎という広告塔を得て、日本を席巻している。改革はグローバル企業に貢献し、グローバル企業は米国に軸足を置く。人より金、円よりもドルなのだ。
 いっぽう人権原理主義なるものが、憂国の士を嘆かせるほどに力をもっているとは思えない。世界人権宣言を引くまでもなく、人権尊重は二度の世界戦争からの歴史的教訓による。貧困・格差・差別が世界に混乱を招く。「イラク解放」云々とともに語られる米国流人権とは別物だ。
 ともあれ、「市場」の対極が「人権」だとは貴重な示唆である。胸を張って人権原理主義者になろう。

    井尻千男「二つの原理主義に挟撃される日本」、月刊「草思」03年7月号
    同氏は元・日経新聞編集委員、現在は拓殖大学教授(日本文化研究所所長)。季刊「日本文化」を主宰。三島由紀夫に傾倒し、「憂国忌」の常連。文化保守を掲げる「チャンネル桜」で「行動する保守文化人」として紹介されている。


 
バイパス (とやま保険医新聞コラム) 2003.08.25 第259号

 百姓の真似事をしているが、なかなかうまくいかない。曲がったネギやキュウリなどはいいほうで、虫食いで網のようになった菜っ葉、ねじれてひび割れた大根などを収穫している。
 おびただしい数の種を播き、芽をだしたら間引きしなければならない。間引きを繰り返して優良な株を残す。伸びてくれば摘心といって成長している茎の先端を取り除く。余計な成長は、図体ばかり大きくして実入りを悪くする。花が咲けば摘花、果実をつけだしたら摘果だ。実がたくさんつくと栄養が行き渡らず大きくならない。
 何段階もの淘汰をへて、やっと商品価値のある作物になる。が、出荷の心配をしなくていいシロウトの気楽さで、見栄えの悪い作物をいとおしんで食べている。ときに自慢げに人にくばる。
 畑の土をいじりながら考えた。「構造改革」なるものは、人間と人間の営みを、ことごとく作物とみなす。商品にならないものは容赦なく斬り捨てる。自立せよ、痛みに耐えよ─と叱咤激励の言葉をかけるのは、肥やしのつもりか。
 人間は作物ではない。みずからの意志で考え主張し行動するキュウリや大根があったとしたら作物になりえない。


 
バイパス (とやま保険医新聞コラム) 2003.09.25 第260号

 玄関先で大きな泣き声が聞こえる。ややしばらくして子供をつれたお母さんが疲れきった顔で受付にやってくる。ときどき診療室で目にする光景だ。
 医療費を窓口無料にすると受診率が高くなり医療費が増える。だから国は市町村に対して国庫負担の減額というペナルティを課す。その論法には「無駄な医療費が増える」という行政側の思いがこもる。
 しかし、好き好んで医療機関へ行こうとする子供や親がいるだろうか。やむにやまれず、子供をなだめすかし、時間をやりくりして受診している人がほとんどだろう。必要な医療を受けないでいるケースのほうを、私達は心配する。
 親が子の医療費を払うのは当然だ、と言う人がいる。心構えとしては、そのとおりかもしれないが、さまざまな「当然」のしがらみが、少子化に拍車をかけ、女性の社会進出を妨げ、消費を抑制し、社会の活力を殺いでいる。
 子をもつことがハンディとなり、女性であることがハンディとなり、歳をとることがハンディとなる。それら一切合財を自己責任の呪文に閉じ込めてしまうことはできるだろうか。国や自治体が国民・住民を守ることは「当然」ではなかったか。

    ○03年8月1日、森雅志富山市長は「富山市財政危機回避緊急プログラム」を発表し、現在窓口無料としている福祉医療費助成制度を「償還払い」に変更する方向で検討することを明らかにした。
    ○国のペナルティによる損失が約1億1千万円になり、それを回避するためと説明している。
    ○9月7日の「タウンミーティング」で、森市長は、償還払いにすることによる受診抑制を「もともと必要がなかった受診」と答えている。
    ○富山市の福祉医療費助成の対象は約3万5千人。助成の件数ベースでは障害者関係が38%、乳幼児が50%であるが、金額ベースでは、それぞれ53%、36%となる。他に妊産婦、ひとり親が助成対象。H14年度助成実績は、総額20.6億円。
    ○9月29日、富山市医師会が、10月8日、富山市歯科医師会が、それぞれ現行の福祉医療費助成制度の維持を求める要望書を市長宛てに提出した。
    ○市長は10月11日、市南部のタウンミーティングで「医者が反対するのは、患者が減って収入が減るから」と発言した。


 
バイパス (とやま保険医新聞コラム) 2003.10.25 第261号

 1枚のポスターがある。表題は「あなたの負担」。1人の青年が天秤棒をかついでいる。棒の両端には人が座っていて、いかにも重そうだ。青年の顔は苦痛にゆがむ。ポスターにはこう書かれている‥「1人の障害者を60歳まで養うには5万マルクかかります」
 ナチスがユダヤ人虐殺に着手する2年前、障害者安楽死計画が始まった。作戦本部の所番地からT4作戦と呼ばれる。ポスターは当時のものである。
 各地の福祉施設に赴き障害者を移送したのは「公共患者輸送会社」の灰色のバスだった。あるときは「ピクニックだ」とだまし、あるときは無理やり押し込んだ。ノンフィクション「灰色のバスがやってきた」(草思社)には、生命の危険を冒して抵抗する人々と、それが打ち砕かれていく切ない物語が綴られている。
 ニュールンベルグ裁判によればT4作戦の犠牲者は27万5千人にのぼる。
 競争原理を生命の淘汰にまで拡大し、役に立たない者は切り捨てる。人権よりも効率を優先する政治の行きつく先を示している。
 ナチズムは一種の構造改革であった。そしていま、日本中を灰色のバスが走り回っている。

    ○1939年5月、内務省第4局に「遺伝性および先天性重症患児の登録に関する帝国委員会」が設立された。
    ○シャルロッテンブルグ・ティアフルデン4番地から「T4」作戦と呼ばれる。
    ○40年1月、安楽死計画の一環としてガス室の試運転(安楽死実験)が行われた。
    ○同時に生体実験や遺体を用いた研究が数多く行われた。このことへの反省が戦後の「ニュールンブルグ綱領」や「ジュネーブ宣言」(1948)「ヘルシンキ宣言」(1964)につながり、現在の「インフォームドコンセント」の概念形成につながる。



「富山個別指導事件」10周年の集い

2003.11.01 名鉄富山ホテルで表記の集会が開催され、「富山協会が事件から学んだこと」と題してパワーポイントを使ってプレゼンテーションしました。PDFファイル化したものを収録します。なお、事件当時の「とやま保険医新聞で事件を振り返る」など、他の資料を収録したCDを作成しました。詳細は富山県保険医協会事務局へ。

富山県保険医協会
〒930-0004 富山市桜橋通り 6-13 フコクビル11F
TEL(076)442-8000  FAX(076)442-3033
toyama-hok@doc-net.or.jp
http://tym-hok.cool.ne.jp/

富山協会が事件から学んだこと(PDFファイル約550KB)

参考資料 →93年当時の「とやま保険医新聞」から


 
バイパス (とやま保険医新聞コラム) 2003.12.25 第262号

 10年ひと昔という。
 「富山個別指導事件」から10年が経った。11月1日、「10周年の集い」に全国から100人が集まった。参加者からの要望で、当初予定していなかった芳見橋への「献花ツアー」を急遽行うことになった。
 事件は決して風化していない。風化させてはならない。気持を新たにして、仲間たちは各地へ帰った。
 事件直後に成立した「行政手続法」は、とうぜん個別指導にも及ぶものである。しかし、それを厚労省が正式に認めるまで10年かかった。日本国憲法が海外派兵を認めている、と強弁する首相のもとでは、法律は有って無いようなものかもしれない。
 事件後、「新指導大綱」「新監査要綱」(いずれも局長通知)が定められ、のちに厚生省監査室長の「内翰」によって、指導・監査の方向は大きく変わった。
 個別指導の選定理由や指導後の措置を経年的に並べてみると、あきらかな変化を読み取ることができる。いま富山では歯科の監査が続発しているが、背景にある変化は医科も共通である。
 10年1日ともいう。
 慣れと惰性で年月を過ごせば、手痛いしっぺ返しにあう。油断めさるな。


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