数字でウソをつくな!(その26)
患者負担増で医療費抑制
「長瀬指数」(長瀬の回帰式)というものがある。
Xは負担率、Yは医療費の抑制効果を表わす。
自己負担を引き上げると医療費が抑制される。その関係を2次関数で表わしている。この数式は戦前の内務省時代から厚労省に至るまで連綿と使われているという。
負担率は0(無料)から1(全額負担)までの値をとり、医療費は、無料のときを1として全額負担なら0.2となる。
たとえば2割負担から3割負担に変更すると、約17%の医療費抑制効果(100x(0.712-0.592)/0.712)が期待される。
医療費抑制効果は主に受診抑制による。
しかし、実際には重症患者には「金より命」という心理が働くであろうし、高額医療費の償還制度があるので、単純にあてはめることはできない。病気の重いほうから1%の人が全医療費の4分の1を使い、上位10%が6割強を使っている。これらは高額医療費の対象になるだろうから、医療費抑制の効果は及びにくい。
医療費の点数順位別構成割合
データ年次は1993年度
池上直己『ベーシック・医療問題』(日経文庫)
より引用
受診抑制が強く働くのは軽症の場合、そして経済的に余裕のない場合である。
長い眼でみると、早期治療の機会を逸して重症化を招き、かえって医療費総額の増大を招く恐れがある。金銭で受療機会を制限することは、社会の格差を拡大する方向に働き、社会保障の理念とは逆行する。
最近、住民検診などの公衆衛生分野でも「受益者負担」と称して健康保険なみの自己負担を求める方向にある。これらも、もっとも病気になりやすい層が検診や予防処置を受けなくなるという矛盾を含んでいる。
患者負担増で医療費を抑制しようとするのは、効果よりも逆効果の危険が大きい方策である。
有訴率が高くなる一方で
受診率は低くなっている。
健保本人負担の推移:
1984 1割負担
1997 2割負担
2003 3割負担
参照⇒富山県保険医協会
「グラフでみる医療改革」
なお、医療費抑制政策の検証については大和総研が意欲的な仕事をしている。
(「社会保険旬報」2003年、2189号〜2193号)
→ 間違いだらけの「医療改革」
2003-12-23 UP