BYPASS96

 


諌鼓を打て

 
『とやま保険医新聞』のコラム「バイパス」など、機関紙誌に発表した雑文を掲載しています。


〈サブメニューに戻る〉

199319941995|1996|199719981999 |2000




バイパス 1996-2

 「住専」救済は、借金棒引、いってみれば現代の徳政令みたいなものだろうか。
 「徳政」のほんらいの意味は「人民に恩徳を施す政治、すなわち租税を免じ大赦を行い物を賜うなどの仁政」(広辞苑)だそうな。
 鎌倉時代末期、元寇の戦役で経済的に疲弊した武士らを救済するために発布されたのが徳政令のはじまりとされている。室町時代には徳政令を要求する農民の一揆がたびたびおこり、じっさい、徳政令はたびたび出されている。正長(ショウチョウ)の一揆、嘉吉(カキツ)の一揆は、幕府の存立を脅かすほどであったという。いちばん被害を被るのは土倉(ドゾウ)と呼ばれる倉庫業兼金融業者や高利貸を兼ねる酒屋である。だから、当時のこれら金融業者は、武装したり政治献金をしたり、と自衛に努めた。そのかいあって、都市の金融業者には適用されないなどの除外規定により、徳政令が骨抜きにされることもあったという。
 金融破綻の防止、景気の回復などの大義名分を掲げてはいるものの、現代の徳政令は、どうも国民のほうを向いていないようである。仁政とはほどとおい。金融業者からの政治献金は今も昔も有効に働いているようだ。
 政党法によって税金から政治資金が支払われていることを忘れられては困る。こんなことでは「平成徳政一揆」がおこりかねない。

バイパス 1996.7

 「橋本行革ビジョン」によれば、国民負担率を最大でも五〇パーセント以下に抑えるらしい。
 最近の統計では、日本が三九・六、イギリス五〇・六、ドイツ五〇・八、フランス六一・八、スウェーデンはダントツの七八・四パーセント。数字のうえではたしかに日本の国民負担率は低いけれども、単純に比較するには問題がある。
 西村周三・京大教授は「ナンセンス」と言い、隅谷三喜男・東大名誉教授は「インチキ」と言う。分母になる国民所得の統計の取り方からして差異がある。分子になる税金や社会保険料は、社会保障・社会福祉の水準の差を考慮していない。
 生命保険や火災保険に加入するとき、保険料だけを見て選ぶだろうか。保険料に見合った給付があるかどうかを見るはずである。
 さきごろ発表された「医療保険審議会」中間報告は驚くべき内容を含んでいる。「軽」医療の給付除外、変動給付率の導入など、医療費抑制を給付の面から見直した総集編といった趣きである。
 最近、大蔵省幹部の対談記事を読んだ。「冷酷軽税」か「親切重税」かを真剣に考えずに、政治家たちは「親切軽税」と言いつづけてきた。これからは、「冷酷重税」というシビアな社会になる、とのことである。
 国債残高二四三兆円が重くのしかかっている。しかし、その大半は土建屋財政の結果だ。失政のつけをこんな形で回されたのではたまらない。

〈PageTop〉 

新宿西口 96-12-1




 新宿西口、小田急百貨店前にて。生まれてはじめて「街宣車」の上で演説するハメになりました。前の日に電話でその旨を伝えられ、あわててメモしたのが下記の草稿ですが、実際には緊張してしまって、そのとおりには喋れませんでした。
 この日、日本海側各地で雪が降り、東京は雪こそ降らなかったものの、寒風の中での街頭宣伝活動でした。

     −=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−
 ご通行中のみなさん、こちらは全国保険医団体連合会です。医療保険の改悪に反対して活動しています。
 みなさん、空を見上げてください。お金は降ってきません。足元をみてください。そんじょそこらにお金はころがっていません。厚生省の岡光前次官は、おもしろいことをおっしゃいました。お金は天からふってこない、国民が汗を流して手にするものだ、というのです。まったくそのとおりであります。
 ところが、ご立派なことを言っていた本人がワイロを受け取っていたとはおどろきです。ソデの下からお金が入ってくるという、まことにベンリな服を着ていらっしゃいました。こんな連中には社会保障制度を云々する資格はありません。
 岡光前次官はこんなことも言っています。医者に金をやっても、奥さんの毛皮のコートに化けるだけだ、というものです。この「医療費毛皮論」でもって、厚生省は医者を締め付けました。おかげさまをもちまして、日本中の病院の半分が赤字になるという、かくかくたる成果をあげました。彼はその成果をもとに出世街道をまっしぐらに走り、次官にまでのぼりつめました。
 そればかりではありません。徹底した医者いじめは、たいへんな悲劇をうみました。3年前、富山で、僻地医療に熱心にとりくんでいた若い開業医が自殺しました。40メートル以上もある谷に身を投げたのです。医療費抑制のための行きすぎた行政指導が原因でした。同じ頃、九州でも自殺した開業医がいます。その後も、北海道で、愛知県で、愛媛県で、開業医の自殺があいついでいます。
 もう、医者を締め付けるのは限界にきています。厚生省はホコ先を変えてきました。こんどは国民にホコ先を向けてきました。
 みなさん、いま、健康保険の自己負担が何倍にも増やされそうとしています。健保本人が1割だったのが2割に、老人も定率1割または2割に、薬代は3割から5割にといった調子です。病気になったら、保険証を持ってサラ金に行かなければならないような世の中になりそうです。
 ご通行中のみなさん、国民あっての日本国です。病気になったら身上がつぶれるような国でいいのでしょうか。長生きすることを喜べない国であっていいのでしょうか。
 元気に歩いているオトーサン、あしたも元気である保障はありません。さっそうと歩いているお嬢さん、人間はかならずトシをとるのです。
 いま、お配りしているビラをお受取りください。ちょっとだけ足をとめて署名にご協力ください。
よろしくご協力をおねがいします。
     −=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−
付記: ビラや署名にたいして、若い人はほとんど協力しません。まるで無関心といった表情で通り過ぎていきます。街頭宣伝というオールドファッションなプロパガンダの方法そのものに問題があるのか、それとも、若い世代の社会的関心が低いのか、いずれにしても、いらだちを感じました。 (小熊記)


12月12日、永田町で「とんび」になった

 朝、ホテルから乗ったタクシーの運転手の話。
 いまどきは陳情シーズンで忙しいけれども、接待関係はぱったりなくなったとのこと。手土産を持った人も少ない。いっときだけだろうけどね、というベテラン運転手は、いままで何度もそんなくり返しを見てきたのだろう。
 永田町でタクシーから降りると、すぐ近くでがなりたてる拡声器の声が聞こえた。歩道に、ハンドマイクを持って演説する初老の男がひとり。「代議士のバカヤロウども、よく聞けよ」と、民の声というには下品であるが、政治にたいするいらだちの表現か。
 議員会館は衆議院第一と第二それに参議院と、三つがそれぞれ別棟になっている。建物はかなり古い。それぞれの会館にはいるには所定の申し込み書を窓口に提出する。記入台がならび、窓口がならんでいる。ひとむかし前の国鉄の切符売り場のような印象だ。
 薬包紙のような四角い許可証をもらって、階段をのぼると、警備員が仁王立ちになっている。そこで映画館の「もぎり」の要領で許可証の端を切り取られる。入り口が厳重な割には、中にはいってしまうとフリーだ。申し込み書に記入した以外のところへは行かないことが建前のようではある。
 各階のエレベータと階段のスペースをはさんで廊下が2本あり、それに面して議員の部屋がならんでいる。手前に秘書の机がいくつかあり、簡易間仕切りをはさんで議員の机と来客用の応接セットがある。さして広くもないし豪華でもない。防音はしっかりしているようで、隣の物音は聞こえない。テレビがおいてあって、あれこれの委員会などの開催状況の一覧が表示され、中継がはいる。国会専用のCATVのようだ。
 どういう順番で部屋がならんでいるの知らないが、地元議員を訪ねようとすれば、上にいったり下にいったり、ぐるぐるまわったり、各会館を移動したり、けっこうな運動量になる。
 議員会館内の食堂で昼食。席数が多い。学生食堂を思いだした。食事の値段は学食並みだが、メニューはちょっとしたファミリーレストランよりも豊富かもしれない。味のほうもまあまあである。
 官庁と出向と天下りと福祉ブローカーと・・・利権のリンクがつながっていく。大事なものが抜けている。永田町だ。天下りに対して昇天というかどうかは知らないが、官僚出身議員を中心とした「族議員」の存在抜きにして利権のリンクは完結しないのではないか。「廊下とんび」の真似事をしながら、永田町と霞ヶ関をむすぶミッシングリンクを思った。ときには怪しげな「とんび」が飛び交うにちがいない。


〈PageTop〉 

表紙 Top Page 総合目次 Menu 更新情報 What's New 諌鼓を打て