BYPASS00  
諌鼓を打て

 
『とやま保険医新聞』のコラム「バイパス」など、機関紙誌に発表した雑文を掲載しています。

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2000-12 囲み記事 -- 平均と平均的

 恥ずかしながら、大学に入って真っ先に単位を落とした科目が統計学だった。もともと数字に弱い。家族の生年月日はウロ覚え。電話番号は自宅と実家と協会事務所しか覚えていない。
 さいわい、統計学によらなくても見抜けるようなゴマカシが世の中に溢れている。マユにツバして身構えるだけでいい。
 模範的なモデルにもとづく年金生活者の空想的「平均像」、平均値を上限にしてしまう介護給付の不思議、平均点数をもとにした個別指導、などなど枚挙にいとまがない。
 高齢者の所得は、まさに模範的なゴマカシだ。グラフをみると平均値と最頻値がおおきくずれている。「平均的」とは「他の大多数と同等であるさま」(広辞苑)だという。多くの人の生活実感は最頻値の付近にある。にもかかわらず、平均値をもとにして制度が設計され、政策が決定される。いくら数字のツジツマがあっていても、そこにはリアリティがない。ゴマカシをごまかすために、仕組みはやたら複雑になる。
 そもそも平均以下の弱者に配慮するのが社会保障の原点ではないか。出入りの帳尻を合わせるだけなら頼母子講にすぎない。


2000-10 バイパス


 介護保険がスタートして半年たった。1号保険者からの保険料徴収もスタートする。それでなくとも様々な問題点が吹き出している介護保険は、さらに厳しい目にさらされることになろう。
 税金を払わなくてもいいのに、なんで保険料を払わなきゃならんのか。わずかな年金から天引きするなんてあんまりじゃないか。施設に申し込んでも入れないのに、こんな保険には入りたくない……などなど、市町村の窓口にはおびただしい苦情が寄せられている。先日の「介護保険110番」にも、深刻な相談が多数寄せられた。
 統計的平均値をもとに制度が設計されたために、所得が平均以下になる7割の高齢者にとっては、「応分な負担」どころではなく「過分な負担」になってしまった。
 大手事業者の撤退が話題を集めたが、多くの事業者は不採算と膨大な事務処理に悲鳴をあげながらも、ふみとどまっている。
 財政的なバランスが最優先されたために、介護保険に関わる者にとっては、やたらわずらわしい仕組みになってしまった。
 厚生白書12年版は、「これからの社会保障の新たな方向性を示す」と介護保険制度を自画自賛している。協会会員のなかには、介護保険に関わりが薄い方もあろうかと思うが、社会保障の将来像が描き込まれていることを強調しておきたい。


2000-09 富山県保険医新聞・講演会記事


----- 7月28日、奥村芳孝氏を招いて講演会を開催した -----

 スウェーデンについては、多くの人が多くのことを語っている。ときには正反対の意見があったりして、戸惑わされる。スウェーデンで大学を卒業し、市役所に勤務し、いまも住みつづけている奥村氏は、正しいスウェーデン事情を伝えるには得がたい存在である。ときたま帰国(訪日?)されると、全国から講演の依頼があって、生半可な日本人よりも多くの地方を訪ねている。このたび、いろんな幸運が重なって、富山で講演していただく機会を得た。
 スウェーデンではケアマネージャーが500人程度の要介護者を管理している、という話にびっくりした。日本では40人が目安になっていて、それ以上を担当したら罰則があるのだろうか、とか、40人だってとてもきちんと管理できない、などという議論がある。直接の介護とは関係のない費用計算や手続・書類作成などの業務がむやみやたらと多い。超多忙なうえに、何の権限もないために、機敏な対応ができない。「措置でなく保険」、「公営でなく民営」、それが効率的だと諭されてきたが、出来上がったものはおそろしく非効率的な仕組みだった。
 日本で広く流布しているスウェーデン事情のいくつかについて、「それはウソです」と、ばっさり切り捨てられた。そのなかのひとつに「歯科給付の全面廃止」がある。
 厚生省の審議会委員でもある著名な医事評論家の某氏が何かに書いていた。何度もスウェーデンに視察に行ったことを誇らしく述べたあとで、歯科医療給付が全面的に廃止されたことを伝え、さらにはかの地の歯科医療の水準が低いとまで断じていた。
 奥村氏によれば、一般の人の歯科医療費負担は高くなったが、高齢者や障害者の負担はむしろ軽くなった、とのことである。
 「日本の医療関係者に一番言いたい辛口の注文を」とのリクエストに対する答えは「医療と福祉の協力関係を密にしていただきたい」という変哲のない言葉だった。スウェーデンでさえ医療と福祉の間に谷間がある、とのことだ。医療と福祉の統合・連携--あたりまえすぎて、掛け声だけになってしまいがちだが、その重みを再認識させられた。肝に銘じておこう。


2000-06 バイパス


 6月の初め、「健康寿命も世界一」という新聞報道があった。小さな扱いだったので、見逃した方もあるかもしれない。
 WHOが加盟191カ国について調査した。平均寿命から病気や事故などで健康を損ねた年月を差し引いた統計である。日本人の平均寿命が世界一なのは周知のことだが、余計な医療のために死なないだけで、不健康な長生きが多いのではないか、という疑念をもって見られてきた。
 平均寿命が格段に高いから不健康期間を差し引いても一位になるのではないか。そんな疑いを晴らすために、「目減り率」を計算してみた。日本は7・9%で、2位のオーストラリア、3位のフランスと同程度、4位のスウェーデンよりも低い。5位スペイン、6位イタリアは日本よりわずかに低い。
 世界的にみると、日本人は長寿なうえに堂々たる「ピンピンコロリ」なのである。この光栄ある世界一を、すべて医療のおかげだなどと独り占めする気はない。しかし、大きく寄与していることに自信と誇りを持っていい。
 いっぽう世界一の医療費を使っているアメリカは、健康寿命が24位。関係者は落胆しているという。
 マネジドケアなど、アメリカの制度を日本に取り入れようとする人々がいる。企業の負担、国の負担を軽減することに目がくらみ、国民の健康は関心の外にあるようだ。



2000-02 バイパス

 介護保険の実施が目前に迫ってきた。以下はある老人の独白。
     ☆
 昨年春脳梗塞で倒れた主人は、要介護度2の判定をいただきました。しかし、年末に室内で転倒してからは歩くこともままならず、要介護度は3か4の状態になってしまいました。再認定が必要だと話しあっていましたところ、年が明けてから再び脳梗塞の発作に見舞われまして、さいわい回復に向かっておりますが、退院できましても、おそらく要介護度は5になるでしょう。
 このように状態が変化することは珍しくないと聞いています。そのたびに認定を受け、介護計画を作り直さなければなりません。出し惜しみするほど大層なものなのでしょうか。年金だけを頼りにつましく生活している年寄りからも保険料が徴収されます。それなのになぜ、健康保険のように使いやすくできないのでしょうか。
 遠方に嫁いだ娘が応援に来てくれています。あてにしたくはなかったのですが、たいへん助かっています。鶴の一声だか亀の一声だか、国が家族をあてにしろといいます。いいかげんにしてください。慰労金を差し上げますから、政界からお引取りください。



2000-01 全国保険医新聞「理事会ひととき」


 理事会の朝、ホテルのテレビで「日曜討論」を見ました。衆議院定数削減がテーマです。各党幹部はさすがに論客ぞろい。ああいえばこういう丁丁発止の議論にしばらく見入っていましたが、虚しくなってスイッチを切りました。議員の数よりも、信用できるかどうかが問題ではないだろうか。公約を守らないのは汚職にもまさる犯罪だ。
 さて、今期最後の理事会です。
 1週間後に大会を控えて資料の厚みが普段の倍以上あり、しかも紛糾しそうな議題が並んでいました。
 予想通りてこずった議題に「理事選挙」があります。11月理事会で「定員36人」と決定し候補者を募ったところ、立候補が38人ありました。なり手がいなくて困るのが通例なのに、珍しいこともあるものです。かつて使われたことのない選挙規程を引っ張り出し、議論となりました。
 規定によれば、最高裁判所裁判官の国民審査のような方式で、名簿に×印をつける投票になるとのこと。出身母体の団体が責任をもって推薦した人に×印が付けられるか、略歴などの簡単な文書だけで判断はできない、時間とエネルギーの無駄だ、といった議論が沸き起こり、途中で休憩をとって三役会議。水入りの大相撲です。休憩中には「ぜひ私を落選させていただきたい」などという冗談が飛び交っていました。
 結果、定数については「一事不再審」の原則を守り、選挙の準備をして大会に臨むことになりました。大会で、定員を38人として選挙を避ける、という提案が出されてそれが採択されるならば受け入れることにやぶさかではない。しかし、理事会として提案することはしない、という原則的な立場を通します。
 この記事の掲載号が出るころには決着していることでしょう。どうなっていることやら。いずれにしても、理事会で揉みに揉まれた結果であることをここに記しておきます。



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イワウチワ
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