BOOK2017
表紙 Top Page 総合目次 Menu 更新情報 What's New 読書録
 

 《2016|2017- 1011122018



篠田航一、宮川裕章『独仏「原発」二つの選択』筑摩選書
二人の著者は毎日新聞の記者である。ドイツとフランス、ヨーロッパで原発に対して両極の立場をとる二つの国を比較する。 ▼86年、チェルノブイリ原発事故をうけ、ドイツ社民党は「原子力平和利用」から原発反対へ方針転換した。シュレーダー政権下での「2022年ころまでの脱原発」方針は、メルケル政権により2010年9月、「最長で2040年ころまで延長」と変更されていた。しかし福島の事故の影響で2011年6月6日「2022年末までの脱原発」を閣議決定、6月30日、連邦議会で可決。 ▼ドイツでは石炭と褐炭で総発電量(2015)の42.2%を占める。 原子力は14.1%。 2016年7月現在8基が稼働中。 ▼ドイツ西部で建設されていた高速増殖炉はチェルノブイリ事故を機に反対運動が起き、91年、閉鎖となった。「世界一高価な廃墟」と評されたが、いまは、遊園地になっている。 ▼エネルギー自立を目指して原発を推進してきたフランスにとって、「同じ原発先進国である日本で事故が起きた」というのは衝撃だった。「日本の悲劇を教訓に、フランスの原子力施設をさらに安全なものにする」という当初の論調から、やがて、「原発事故は日本だから起きた。フランスは違う」というトーンに変わっていった。 ▼フランスでは欧州加圧水型炉(EPR)を国内の原発の更新に予定していたが、福島事故を受け、オランド大統領はフランス国内でも原発への依存を引き下げる「縮原発」を公約として掲げた。原発依存を75%から50%へ縮小する方針。 ▼フィンランド、スウェーデンに次いで、フランスも放射性廃棄物最終処分場の準備を進めている。北東部のムーズ県ビュール村の地下480メートルに仏放射性廃棄物管理機関(ANDRA)の試験施設が稼働している。構想は1991年、着工は1998年。 10万年という途方もない時間、ほんとうに管理できるのか? いまだに答えは見えてこない。 ▼いっぽうでフランスは再生可能エネルギーにも力を入れている。英仏海峡に面したサンブリウ湾で大規模な洋上風力発電が、フランス、アレバ社とスペイン、イベルドローラ社によって計画されている。 コルシカ島に、世界最大規模(100キロワット)の水素蓄電実験施設「ミルト」が設置されている。 2025年までに原子力5割、再生可能エネルギー4割をめざす「エネルギー移行法」が15年夏に成立した。 ▼フランスでは、すでに閉鎖された9つの原子炉の解体作業が同時に進んでいる。フランスはこの分野でも世界をリードしようともくろんでいる。世界で60〜70年代に建設された「第一世代」と呼ばれる原発は、設計時の廃炉の想定が不十分で、作業を困難にしている。「世界中どこでも、開発に必死で解体のことなどほとんど考慮していなかった」(石川廸夫:日本原子力技術協会元最高顧問) ▼フランス南部カダラッシュに世界規模の核融合研究施設「イーター(ITER)」ががある。 参加国は、米国、ロシア、EU、日本、中国、インド、韓国。核融合炉を実用化するには、厳しいハードルが山積している。 (2017.01)


朝日新聞『日本会議をたどって(1)』『日本会議をたどって(2)』WEB新書
「生長の家」の信者、椛島有三と安東巌が長崎大学で出会ったことが出発点になっている。左翼学生運動に対抗し反共愛国を掲げる「生長の家学生全国総連合」が、長崎で成功をおさめ、全国に波及した。このころのキーパースンとして衛藤晟一、百地章、伊藤哲夫、高橋史郎、鈴木邦夫などの名を挙げている。安東巌を黒幕視する本もあるが、この本では運動初期にしか登場しない。 ▼やがて、椛島らが民族派学生のOB組織「日本青年協議会」(日青協)を結成し、これがのちに「日本会議」立ち上げの裏方の役割を果たす。のちに椛島は「三島事件によって日青協に魂をいれられた」と語っている。三島由紀夫と一緒に自決した森田は民族派学生運動のメンバーであり、介錯人を務めた二人の学生は生長の家の熱心な信者だった。 ▼政治のレベルでは「元号法制化」で成果をあげ、「日本を守る国民会議」を立ち上げた。街頭活動、後援会、上映会、署名集め、地方議会決議など、従来は左派勢力の運動パターンだったものを取り込んでいく。 ▼「新しい歴史教科書をつくる会」(1996)や「日本教育再生機構」が地道な運動を繰り広げ、次第に成果を収めていった。1997年、「日本を守る会」「日本を守る国民会議」が合流して「日本会議」が結成された。2006年には教育基本法改正の成果をあげている。 (2017.02)


水島治郎『ポピュリズムとは何か』中公新書
世界にポピュリズムの嵐が吹き荒れている。デモクラシーの原理を突きつめれば突きつめるほど、結果としてポピュリズムを正当化することになる。この「デモクラシーの逆説」がテーマ。サブタイトルは「民主主義の敵か、改革の希望か」とあるが、答えは示されていない。歴史・事例の紹介、考え方の紹介である。最後は自分で考えるしかない、ということだろう。 ▼「ポピュリズム」の発祥は19世紀末のアメリカで創設された「人民党」(People's Party)、別名ポピュリスト党(Populist Party)である。人民に依拠してエリート支配を批判する政治運動が、それ以後ポピュリズムと呼ばれるようになる。人民党は1892〜1908と短命に終わったが、その政治運動スタイルは後の世に大きな影響を与えた。 ▼ラテンアメリカでは貧困率が高く、格差が大きい。「ラテンアメリカにおいては今もなお、ポピュリズムを生み出す土壌が確かに存在するのである。」と指摘する。なお、ラテンアメリカでは「解放」型の左派系ポピュリズムの形をとるのが特徴。 ▼1990年代以降、ヨーロッパがポピュリズム躍進の舞台になっている。冷戦の終結により「反共の砦」の名目のために黙認されてきた欠陥が浮かび上がってきた。グローバル化、EU統合の進展は政党間の「現実路線化」により差異がなくなり既成政党の「同質化」現象。〜既成政党への不信の源となる。西欧ポピュリズムの特徴:@メディアの活用 A直接民主主義の活用 B福祉排外主義  ▼「リベラル」と「反移民」が結びつく論法は、日本ではなじみが薄い主張ではあるが、21世紀のヨーロッパではむしろ浸透しつつある。西洋文明が勝ち取ってきた「自由」を擁護するためにイスラムを批判する。コーランをイスラム版『わが闘争』だとして排撃する。(オランダ、ウィルデルス自由党党首) ▼「民衆による支配」を語源とするデモクラシーの論理を究極的に体現した国民投票制度によってポピュリズムが伸長してきた。最も国民投票制度の浸透しているのがスイス。スイスの国民投票には3種ある。@義務的国民投票:憲法改正、国際組織への参加など。A任意的国民投票:5万人以上の署名または3分の1以上の州の決定で、法律や条約の可否を問う。B国民発案:10万人以上の署名により憲法改正の可否を問う。 ▼「置き去りにされた」人々の「声なき声」をポピュリズムが代弁し、国民投票でイギリスのEU離脱が決定された。50歳以上では6割以上が離脱賛成、若年層では残留派が圧倒的。低学歴層では7割が離脱賛成。大卒者では離脱賛成は3割にとどまる。都市部では残留派が多数を占めるが、イングランドの田舎では離脱派が多数をしめる。 ▼アメリカ中西部〜北東部のラストベルト(Rust Belt:さびついた地域)でトランプが支持を集めた。「トランプを選んだのは虐待されたプロレタリアだった」(エマニュエル・トッド)。「わが国の忘れられた人々は、もう忘れられることはない」(トランプの言葉) ▼現代社会では政策形成過程が複雑で、民主主義が欠如し、「民主主義が赤字状態にある」と評される。そこがポピュリズムの伸長する基礎となる。現代のポピュリズムは、「リベラル」や「デモクラシー」といった現代デモクラシーの基本的な価値を承認し、むしろそれを援用して、そのうえで排除の論理を正当化する。ポピュリズム政党が進出することは既成政党に強い危機感を与え、改革を促す効果を持つ。いっぽうで、制御不能になる危険性も併せ持っている。(2017.03)


高橋源一郎『ほくらの民主主義なんだぜ』朝日新書
朝日新聞「論壇時評」に掲載された文章をまとめたもの。いろんな人の論を紹介し、自分の論をなす。1本の原稿に10本近い書籍や雑誌掲載の文書が紹介されている。なかなか大変な執筆作業だ。 ▼一人称が「おれ」になったり「わたし」、「ぼく」になったりする。学生時代にデモに参加していて逮捕され7か月間も拘置された経験があるとのこと。横浜国立大学中退。土木作業員や裏世界の仕事など転々とし、現在は明治学院大学教授。 ▼丸山仁の「スローライフの政治」を紹介している。「投票」中心の議会制民主主義は、結局、いくらでもスピードアップ可能な「ファスト民主主義」行き着く。しかし、「私たちの意見は、熟慮を介して、また他者との真摯な討議を通じて、はじめて確固たるものに成長する」。だから、必要なのは「スローな民主主義」だ。 ▼台湾の学生による立法院占拠事件での出来事がこの本のタイトルになっている。立法院からの妥協案に対して、リーダーがメンバー一人一人から意見を訊いて回った。民主主義とは、意見が通らなかった少数派が、それでも『ありがとう』ということのできるシステムだ。(2017.04)

高橋源一郎『丘の上のバカ』朝日新書
サブタイトルが「ほくらの民主主義なんだぜ2」となっていて、前著の続編。もっとも影響を受けた人として鶴見俊輔の名を挙げている。「なによりアマチュアである(べき)こと学んだ」と言っている。 ▼海外メディア東京特派員の声:「利用価値のあるメディアの取材には応じ、批判的なところには圧力をかける『アメとムチ戦略』。そうやってリベラル勢力の排除を徹底しているのが安倍政権だと思います。…なぜもっと怒らないのですか」 「世界報道自由度ランキング」で、日本は先進国で最下位にまで落ち込んだ。メディアはもう「萎縮」しきっているのだろうか。 ▼タイトルになっている「丘の上のバカ」はビートルズの「フール・オン・ザ・ヒル」からとっている。地動説を唱えて弾劾され孤立しながらも自分を貫いたガリレオ・ガリレイをモデルにした曲だとのこと。(2017.04)


暉峻淑子(てるおか・いつこ)『対話する社会へ』岩波新書
1928年2月生まれだから90歳に近いはずだが、これだけの書を著わすとは、驚異だ。 ▼帯に「戦争・暴力の反対語は、平和ではなく、対話です」とある。「対話が続いている間は殴り合いは起こらない」という言葉はドイツでは「格言とまでは言えないけれども、よく使われる言葉なのだ」という。争いのない、平穏な状態を「平和」だと思いがちだが、そうではなく、暴力的衝突にならないように対話し続けることが平和を支える。 ▼自らも参加する、住民がたちあげたユニークな「対話的研究会」を紹介している。メンバーはさまざまな35人ほど。毎回集まるのは25人前後。自治体の講演会のあと、聞き手が側の不満が発端になり、自然発生的に始まった。「暴力や権力に対抗うるには、あるいは一過性の強力なポピュリズムに対峙するには、私たち個人はあまりにも無力だと感じることがあります」。 ▼「言論の自由のある民主主義社会になったはずなのに、私たちの社会には、なぜか空気を読むとか、上司の気持ちを忖度して、言葉に出して質問したり意見を言ったりしない、という風習があります」。「空気を読んでいては空気は変わらない」。 ▼「対話は、日常の中にあり、とくに多様な欲望が渾然としている市場社会では、対話によって、取り返しのつかない断絶が起こるのを未然に防いでいます。…対話する社会への努力が、民主主義の空洞化を防ぎ平和をつくり出しているのです」、と結んでいる。 (2017.05)

朝日新聞『アベノミクスの罠・公的マネーが作り出した官製市場の歪み 』WEB新書
デイトレーダーのエピソードから始まる。「日銀の買いが入りそうだ」と予測してETF(上場投資信託)を売買する。5年間で2.5億円儲けた。「日銀のおかげで、株価が下がらない安心感がある」という。アベノミクスを受け、日銀は途方もない資金を株・不動産の投資信託や個別の株に投資している。ETFだけで年6兆円にもなる。それは官製相場のバブルであり、後始末をどうするのか、先が見えない。 (2017.05)


笠潤平『原子力と理科教育』岩波ブックレット
教科書検定での介入、日本原子力学会、原子力PA方策委員会などの提言によって、原子力に係わる理科教育は内容が捻じ曲げられてきた。文科省の副読本は、恥ずかしいくらいに恣意的な内容であり、福島原発事故ののち回収された。省のHPからも削除されたが、国会図書館のアーカイブで見ることができる。▼第2章では「科学的リテラシー」のための教育として英国の例を詳しく紹介している。(2017.06)

朝日新聞『砂上の原発 どうする地震列島に57基』WEB新書
日本で原発の建設が始まった60年代、電力会社や国は津波の事はほとんど念頭になかった。93年の奥尻島の津波が見直しのきっかけになり、2002年、土木学会の指針「原子力発電所の津波評価技術」が発表された。2007年の新潟県中越沖地震では想定を大きく超える揺れに襲われた。地震や津波の侵襲を想定する技術は確立されたかに見えても、現実の災害が人間の頭脳を凌駕してしまう。(2017.06)
付記) 約5年のあいだにWEB新書を120冊ほど購読した。デジタル書籍ではあるが、実際にはプリントして、寝転がって読んだり、出先で時間の合間に読んだりしていた。そういう読み方に向いたボリュームだった。ところが、5月末に何の前触れもなくビューアーがバージョンアップされて、プリントできなくなってしまった。スマホやタブレットでも読めるというが、そこまでする気にもなれず、今後は購読しないことにした。


大澤武男『ヒトラーの側近たち』ちくま新書
非理性的、非現実的、非人道的な独善と偏見に満ちたヒトラーの思想に引きずられ運命を共にした側近たちを突き動かしたものは何だったのか。…「そこからどのような反省と教訓を汲みとることができるであろうか」(はじめに) ▼ナチ党の始まりのころからミュンヘン一揆、復活、政権獲得、戦争へ‥歴史的な時期に分けて、側近となった人物を次々と紹介している。弁舌巧みなほかに、これといった取り柄のないヒトラーを、熱烈な支持者たちがカリスマ化していった。暴走が行き着くところまで、そういった「側近」たちに支えられていた。なぜにこんなにも‥と思うのだが、それが事実なのだ。人間の感性には、そんな回路があるのかもしれない。 ▼「現実から遊離したヒトラーのがむしゃらな戦争ファナティシズムは、まさに異常であり、病的であり、また壊滅的であった」と著者は言う。そこに命を懸けてのめり込んでいく人々が多くいた。そこのところがやはり理解しがたい。 (2017.07)


エドワード・スノーデン他『スノーデン 日本への警告』集英社新書
2016年に開かれたシンポジウム「監視の”今”を考える」の内容をまとめたもの。 「常に民主主義をもとめて闘わなければならない。トランプ大統領が「目覚まし時計」になるかもしれない」…冒頭のメッセージでスノーデンが述べている。 ▼NSAの職員だったエドワード・スノーデンが告発した、いわゆる「スノーデン・リーク」の概略。(1)バルク・コレクション bulk collection  すべての電話のメタデータを毎日提出させる。 (2)プリズム PRISM  在米9社の電子メールやSNSの通信内容を提供させる。 (3)アップストリーム Upstream  アメリカにつながる海底光ケーブルに直接アクセスして通信情報を入手する。 ▼「テロの危険」を口実に巨大な監視システムが動いている。それを監視するシステムが働いていない。スノーデンの内部告発を支えたのはジャーナリズムだった。日本のマスメディアははたしてどれだけの役割を果たしうるか? (2017.08)

井沢元彦『新聞と日本人』祥伝社
歴史小説作家・推理作家・歴史研究家。新しい歴史教科書をつくる会に所属し、膨大な著書、著作があり、テレビなどにも多く出ている。 ▼タイの舗装率などという、意外性のある設問を提示し、ひきつけようとするテクニックは巧みだ。が、ペダンティック(衒学的)な嫌味を感じる。 ▼本書の大半は朝日新聞批判にあてられている。 従軍慰安婦問題での誤報、福島原発にからんだ吉田文書の誤報、教科書検定がらみの誤報などを糾弾し、朝日新聞の社風の誤りが根源にあり、その新聞を購読するのは大バカ者だと批判する。朝日憎しで固まっている。読売や産経なら問題ないのか? 大切なのはメディアリテラシーではないかと思うのだが・・・ (2017.08)


伊藤周平『消費税が社会保障を破壊する』角川新書
社会保障を充実するという名目で消費税が増税されたのに、社会保障が削減され続けている。目的税化が厳密に実施されれば、基礎年金、高齢者の医療および介護、少子化対策の「社会保障4経費」が消費税と完全連動することになる。社会保障レベルの維持あるいは拡大は、消費税アップなしには不可能となる。そもそも逆累進性のある消費税を「福祉目的」にむすびつけるのには無理がある。 ▼公助から「地域や家族の絆」(自助・互助)へと、言葉巧みに給付抑制が図られている。保険料のアップが続いており、一方では給付範囲の削減が行われている。病人、老人、障害者にとって、日本は住みにくい国になりつつある。 ▼2012年ころから、メディアや政治家が旗振りをする異常な生活保護バッシングが吹き荒れている。これらは生活保護制度の縮小の地ならしとなり、貧困層のスティグマをつよめた。日本は生活保護基準以下の生活状態の「要保護者」のうち、実際に保護を受給する人の割合=「捕捉率」は諸外国に比して極端に低い。これら貧困層から生活保護受給者への厳しい目が根底にある。 ▼生活保護基準の引き下げは、生活保護にとどまらず、他の制度にも波及する。最低賃金は「生活保護との整合性に配慮して」決めることが明文化されている。国民年金保険料の免除、保育料の免除なども生活保護と連動している。住民税の課税基準も生活保護を基準にしている。生活保護基準の引き下げにより、自動的に社会保障給付の水準を低下させることができ、気付かれないうちに、社会保障費を削減することができる。 ▼国税収入に占める消費税の割合は日本29・4%、英国25・8%、仏24%。 消費税の輸出還付金はトヨタ1社で年間1800億円、上位20社で約1兆円、輸出産業全体で3兆円をこえる。 一方で、医療保険の損税は診療報酬で埋め合わせたことになっているが、診療報酬の引き下げが続いており、いまや打ち消されている。このさき消費税がアップしたら医療機関の倒産が増大する可能性がある。 ▼社会保障給付への応益負担の導入、所得税や法人税の累進緩和により、所得再分配の機能が低下している。 日本はOECD加盟国中で所得再分配が最低水準であり、再分配後に子どもの貧困率が増大する稀有な国である。 ▼この人の著書は、とにかく多くの情報が詰め込まれていて、年取った頭には、すらすら読んでいくのがしんどい。しかし、これだけ、事実に基づいて論をなす人は貴重な存在だ。 (2017.09)


浜本隆志『ナチスと隕石仏像』集英社新書
2012年秋、ドイツで見つかった「隕石仏像」がマスメディアで報道され、注目をあびた。所有者が死亡し、シュトットガルト大学ブーフナー博士のグループが鑑定した。ヒムラーが1938年にチベットへ派遣した探検隊が持ち帰った仏像であり、11世紀頃の作と推定している。 ▼しかしながら、隕石仏像の各パートを詳しくチェックしていくと、矛盾点だらけである。著者は「ドイツ人がチベットをアーリア人種のゆかりの地とするために、それを前提として制作したものと推定される」と述べている。 ▼この本の前半は隕石仏像の分析、後半はナチスの人種主義をテーマにしている。「アーリア」はサンスクリット語で「高貴な」という意味を持つ。現在では、そのような「人種」の概念を定義すること自体に無理があるが、当時のドイツ人はナチスのプロパガンダに幻惑されていた。親衛隊は武闘組織のようなイメージがあるが、ナチスのカルト的世界観を支えるための学術的な部門も有していた。 ▼本の主題から離れた「コラム」と題した文章がいくつか挿入されていて、その中の「白萩隕鉄」の記述に驚いた。数年まえ、上市川第2ダム周辺をドライブしていて、神社の入り口に隕石について刻まれた石碑があり、不思議に思っていた。それが白萩隕鉄の碑だと知った。この地で見つかった隕鉄が、巡り巡って榎本武揚の手に渡り、流星刀が制作された。一振りは当時の皇太子(のちの大正天皇)に献上され、小刀が富山市科学博物館、長刀は東京農大に所蔵されているという。 (2017.10)

 

徳山喜雄『新聞の嘘を見抜く』平凡社新書
サブタイトルは「ポスト真実」時代のメディアリテラシー、となっている。post-truth (ポスト真実)とは、「世論形成において客観的事実の説明よりも、感情に訴える方が影響する時代」とのことである。たしかに、ネット上の情報は、事実関係よりも「受け」を狙ったものが多い。 ▼メディアリテラシーについては、いろんな例をあげてはいるものの、結局は読み比べるしかないようだ。一般人には、新聞を何紙も購読して読み比べるほどの余裕はない。 (2017.11)



佐藤美由紀『ゲバラのHIROSHIMA』双葉社
1959年1月、キューバ革命。その年の6月、カストロはゲバラに「キューバ親善使節団」団長として90日間にわたる外遊を命じた。一行はアラブ連合、インド、ビルマ、タイ、香港を経て1959.7.15羽田に到着した。最大のねらいは貿易の拡大であった。同時に同じ島国で、資源のない共通点をもった国の経済に学ぼうとしていた。 ▼在日中、千鳥ヶ淵戦没者墓苑に献花する日程が日本側から示されたが、ゲバラはそれを拒否し「私が行きたいのはヒロシマだ。アメリカが10万人の日本人を殺したヒロシマだ」と主張した。こうして予定外のヒロシマ訪問が実現した。 ▼<きみたち日本人は、アメリカにこれほど残虐な目に遭わされて、腹が立たないのか!?> <平和のために断固として闘うには、ここを訪れるのがよい> ‥ ゲバラにとってヒロシマは”帝国主義の悪”を象徴する場所だ。 ▼40年余経って、2003.3.3 カストロがヒロシマを訪れた。 (2017.12)


表紙 Top Page 総合目次 Menu 更新情報 What's New 読書録




ダイモンジソウ(大文字草)