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数字でウソをつくな!(その19)

社会保障の不平等

 


 厚生白書平成11年度版に不思議な統計が載っている。所得の不平等度を表す「ジニ係数」を用いて「当初所得」(税込み所得)と「再分配所得」を比較検討したものだ。(50P〜)
厚生白書平成11年度版より

 白書によると、再分配における改善度は18.3%(96年)で、うち税による改善が1.7%、社会保障による改善が15.7%であるという。じつに9倍以上も違う。当然ながら、社会保障制度が所得格差の是正に大きく寄与している、と主張している。
  統計の注釈を細かくみていくと、ここでいいう再分配所得は医療保険の現物給付分を金額に換算して「所得」としている。ただし、家族内介護など「現物」援助は算入されない。現物給付も収入だといわれれば、なるほどとも思うが、病気になることが所得になるという、不思議な統計だ。重病人はまちがいなく高額所得者になる。目からウロコが落ちて、かわりにゴミが入ったような気分だ。いずれにせよ、さまざまな論文にも引用される厚生省の「所得再分配調査」とは、こういう定義に基づくものであることを肝に銘じておこう。

 不備を2点指摘する。
 第1に、社会保障諸制度は被保険者の保険料だけでまかなっているわけではなく、事業主負担と公費(税)の投入もあるのだから、社会保障給付をすべて社会保障の功績にしてしまっては大蔵省や事業主から抗議されるのではないか?
 第2に、医療保険では給付を受ける際に一部負担金を支払うが、これが負担分として算入されていないようだ。

 以下、見方の問題を2点指摘する。
 いっぱんに社会保険の保険料は所得比例制(それも不完全な)であり、税が所得累進制であることから、負担(拠出)による不平等改善効果は税よりずっと劣るはずである。病気になったときに支払う「一部負担金」や介護保険の「利用料」は、低所得者ほど相対的に負担が重くなる。その緊急度を考えれば消費税よりも「所得逆進性」が強い。
 年金は、拠出と給付の間に時間的なズレがおおきいために、ある時点での横断的な統計をとれば、高所得者から低所得者への財の移動が大きく現われる。しかし、時系列で見るなら、所得比例的な保険料を支払い、受け取るときには、むしろ格差が拡大されるような年金額となる。けっして不平等の改善にはなっていない。というのも、現在の年金制度が「生活保障」を目指しているのではなく、「強制貯蓄」というべきものだからだ。

平成7年度社会保険事業の概況(厚生省)より

 結論。
 近年の社会保障制度における負担の増加・給付制限など、社会保障は着実に所得再分配機能を失いつつある、というのが正しい認識ではなかろうか。

 蛇足。
 日本の再分配所得のジニ係数が国際的にみて高い(不平等度が大きい)のは、日本の医療費(医療の単価)が低いからではないだろうか。

2000-12-03


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