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数字でウソをつくな!(その8)


消費税を福祉目的税に?
Last Update 1999-01-03

 消費税を福祉目的税に、との議論がなされている。じっさいには、以下の三つの論点が区別されず、あいまいなままに議論が進んでいる。

A.社会保障のうち公費(租税)負担部分を拡大する。
B.社会保障の財源として目的税を設ける。
C.消費税を福祉目的税にあてる。

A.社会保険か公費負担か
 従来の公費負担は次の二つの様式で行われてきた。
 a.措置(行政処分)としての社会福祉:老人福祉、生活保護、障害者福祉、保育など
 b.社会保険への国庫支出:公的年金、医療保険、失業保険、労災保険
 「措置」は国民の権利ではなく、行政の「施し」のようなイメージがつきまとう。それは日本の福祉政策の貧困に由来する。福祉先進国では公費だからといって暗いイメージとは無縁だ。つまり、現行制度の延長線上で考える必要はなく、権利として法的にも運用上もきちんと位置づければよい。
 社会保険制度をとっているからには、相互扶助が原則であって、国が補助するのは正当ではない、とする「社会保険原理主義」的批判がある。しかし、現在の社会保険が本来保険になじまない社会的弱者や高リスク層(障害者・難病患者・老人や小児など)を抱えこんでいることを考慮すれば、公的負担は当然である。これらを完全に切り離して公費負担とし、残る部分を純粋な「社会保険」にする、というのが本当の「原理主義」ではないか。
 現在行われている公費導入の議論は、国民年金の破綻を先送りするためだけのもののように思える。人間が健康で文化的な生活を送れるような保障をする、という視点がスッポリ抜けている。

B.目的税か名目税か
 社会保険や目的税は「他に流用されない」という利点をもつが、いっぽうで「財政硬直化」という欠点がある。余れば無駄づかいに、足りなければ増税あるいは給付制限につながる危険性を持っている。
 このように長所・短所はあるが、これからの社会保障を充実していくための財源として、また、そのような国づくりの方向を明示するものとして、目的税を設けることは諒解しうる。
 しかし、福祉目的税がなぜ消費税でなければならないのか、理由が理解できない。評判のよろしくない消費税の脱アレルギー効果をねらっているとしか思えない。現在の社会保障関連費をまかなうためには税率を倍にしなければならず、かっこうの増税の口実になる。これでは「福祉名目税」である。


欧州諸国の付加価値税
国名フランスドイツ英国
標準税率20.6%16%17.5%
非課税住宅取得・医療・教育・金融・保険・不動産賃貸・郵便など住宅取得・医療・教育・金融・保険・不動産賃貸・郵便・電信電話など住宅取得・医療・教育・金融・保険・不動産賃貸・郵便など
ゼロ税率なしなし国内旅客輸送・食料品・水道・新聞・雑誌・書籍・電力・燃料・医薬品など
軽減税率雑誌・書籍・国内旅客輸送・肥料・食料品・水・新聞など食料品・水・新聞・雑誌・書籍・国内近距離旅客輸送などなし
累積課税の排除前段階税額控除(インボイス)同左同左
日本経済新聞社『税金問題入門』、小学館文庫『酷税』より作成

C.消費税の欠陥
 不景気の最中にあって口にするのを控えているものの、どうやら日本の消費税には、まだまだ引き上げの余裕があると踏んでいるようだ。その根拠は、次のとおりである。
 a.日本の消費税の税率は低率である。
 b.平等社会の日本ではわずかな逆累進性は問題にならない。
 c.所得税の高度の累進性を緩和する働きもある。
 税率だけを見ると、たしかに日本の消費税は諸外国に比べて低い。しかし、日本以外のすべての国で生活必需品等にたいする軽減税率やゼロ税率の制度を設けていることを考慮にいれないと、比較にはならない。加えて、日本においては生活の基礎となる物価が高いことも考慮しなければならない。普通の生活をするために支払う消費税を比べれば、日本が世界一になるかもしれない。
 日本は平等社会であるという幻想はすでに崩れている。日本の所得分配の不平等度は急速に高まっており、すでに先進国の中でも最高レベルにあるという。(橘木俊詔「日本の経済格差」岩波新書)
 所得税に高度の累進税率を設けていながら不思議な話だが、汗を流して稼いだ所得には高い税率を課すいっぽうで、不労所得(資産所得)を分離課税にしていることが不平等を生みだしているらしい。(平野拓也「酷税」小学館)
 このような現状認識にたつならば、逆累進性が強く、それを解消ないし緩和するシステムを持たない現行の消費税は欠陥税制と言うほかなく、さらなる税率引き上げは問題外である。
 消費税の「5%」にだまされてはいけない。


注1:首相直属の諮問機関・経済戦略会議は、中間報告で「西暦2003年度以降は消費税を毎年1%ずつ引き上げ、将来的には10%台にする必要がある」と述べている。(12/19日経)

注2:政府税調会長・加藤寛(千葉商科大学学長)「日本の税体系は二重の意味で低所得者優遇になっています。まず、消費税がヨーロッパの二桁と比べて5%と低いこと、もうひとつは課税最低限が高いことです」(週刊新潮98−12−24号)

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イヌホオズキ(花言葉=うそつき)