日本経団連が発表した日本社会の将来展望(通称、奥田ビジョン)は、社会保障給付を20兆円減らした上で、消費税を04年度から1%づつ引き上げ、14年度以降は16%にするよう提案している。毎年引き上げれば買い急ぎが起こるから消費を増大する、とも言う。 現在の消費税(国税部分は4%)は国税収入の20%強を占めている。16%に引き上げれば、国税の過半を占めることになろう。 社会保障の財政破綻に対する危機感からの思い切った提言‥と、マスコミでは好意的にとらえる論調が目立つ。しかし、このビジョンは「市場党宣言」とも言うべきイデオロギー的な挑発である。これを見過ごせば、市場原理主義という妖怪が日本を席巻する道をひらくことになるだろう。 以下、社会保障の視点から、ささやかな批判を試みる。 「改革」の喧騒がひとまわりして、他の改革が頓挫しようが骨抜きになろうが、絶対に譲れない最大かつ最終の目標が社会保障改革であることがはっきりしてきた。今後のメインテーマは社会保障改革だ。 そんなタイミングを見計らって日本経団連が「ビジョン」を発表した。 第1章、第1節の(3)が社会保障改革論に当てられている。 冒頭部分で、「本来、社会保障制度は‥」と定義を試みている。その文末は「セーフティネットである」と結ばれている。社会保障を「セーフティネット」に矮小化する議論はうんざりするほど聞かされた。わずらわしいが、そのつど反論するしかない。セーフティネットは、社会保障の機能のごく一部にすぎない。競争社会から落っこちた人を助けるのではなく、落っこちないようにすること、そもそも人の意志に反して危険な目にあわせないこと、それが人権に根ざした社会保障の考え方である。 つづいて「セーフティネットの本来の役割」として「最低限必要な給付にターゲットを絞る必要がある」と論を進める。矮小化から出発すれば当然の帰結であろう。 さらに財源問題に言及し、「公正・公平な負担」として消費税増税を主張する。なぜに消費税が公正・公平なのか〜これは市場原理主義の「原理」にほかならない。 社会保障財源にとどまらず、税制についての考え方の根本的な違いがある。 改革ブレーンの竹中平蔵大臣が以前に言っていたことを引用する。「累進課税を廃しフラット税制を」、「もっとも公平な税制は人頭税」。つまり、彼ら市場原理主義者にとっては、累進税率をもつ所得税は「不公平」であり、経済発展のための邪魔者とみなされるのである。 彼らにとって金儲けとは、その人または企業の能力・努力・価値を市場が適正に評価した結果であり、賞賛すべきことである。足を引っ張る(課税する)行為は市場原理に対する冒涜だ。 つまり、消費税は人頭税に次いで「公平」であり、つづいて累進を伴わない直接税および社会保険料、最悪は累進税、という序列になる。 いちいち断ることではないかもしれないが、「ビジョン」の根本にあるのは企業活動から見た経済の合理性であって、人権の保障ではない。「活力と魅力溢れる日本をめざして」と、まことに結構なサブタイトルがついているが、「グローバル企業にとって」と冒頭に付け加えるべきだった。国民にとっては「不安におびえ駆り立てられる」社会だ。消費税に追われて買い急ぎし、職と食の確保のためにせわしく動きまわる様は、一見、「活力」ありげにみえなくもない。 |