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荻野富士夫『よみがえる戦時体制』集英社新書
帯には、「あたらしい戦前」、「戦争ができる警察国家」の誕生、と書かれている。
最初と最後に小林多喜二が登場する。著者は小樽商科大で長く教職についていたので、ゆかりのある多喜二を持ち出したのだろう。
▼前半は戦前・戦中の治安維持法や特高の歴史を顧みる。後半は戦後。冷戦時代の「破壊活動防止法」制定(1952)を軸とした戦後治安体制が長く続いたが、安倍政権になってから、状況が急変している。すなわち、特定秘密保護法の強行採決(2013)集団的自衛権容認の閣議決定(2014)安保関連法の強行採決(2015)共謀罪法の強行採決(2017)。著者は“長い「戦後」から新たな「戦前」へ”と表現する。
▼第一次安倍内閣では「美しい国」を掲げた。第二次内閣では「積極的平和主義」を前面に押し出している。
日本国際フォーラムの政策提言「積極的平和主義と日米同盟のあり方」(2009)の中の「国土防衛のための提言」
@「非核三原則」の再検討 A集団的自衛権の行使 B「武器輸出三原則」見直し C情報収集の強化 …
これらが安倍内閣の閣議決定や安保関連法などで実現されてきている。
▼安倍の用いた英語での表現は「Proactive Contributor to Peace」であって、日本語では「積極的平和主義」としているが Proactive は「先を見越した、先回りした」という意味の言葉であり、軍事的には「先制攻撃」の意味で用いられる。ノルウェーのヨハン・ガルトゥングが、戦争がないというだけの「消極的平和」に対して「積極的平和」を唱えたときの「平和」は「Positive Peace」であって、英語圏の世界で安倍の用語は「平和主義」とは受け取られないだろう、という。
▼自民党憲法改正草案 の第98条「緊急事態の宣言」:
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定め理緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。‥‥これはまるでナチスドイツにおける「全権委任法」だ。(2019.01)
矢部宏治『知ってはいけない』講談社現代新書
サブタイトルは「隠された日本支配の構造」。各章のタイトル:第1章:日本の空は、すべて米軍に支配されている。(横田空域、岩国空域、嘉手納空域) 第2章:日本の国土は、すべて米軍の治外法権下にある。第3章:日本に国境はない(基地経由で入出国自由)。第4章:国のトップは「米軍+官僚」である(日米合同委員会)。第5章:国家は密約と裏マニュアルで運営する(裁判権密約、基地権密約)。第6章:政府は憲法にしばられない。(砂川裁判) 第7章:重要な文書は、最初すべて英語で作成する。第8章:自衛隊は米軍の指揮のもとで戦う(指揮権密約)。第9章:アメリカは「国」ではなく、「国連」である。
▼以前から言われていたことではあるが、その根拠となる文書などを細かく追及している。(2019.02)
矢部宏治『知ってはいけない2』講談社現代新書
サブタイトルは「日本の主権はこうして失われた」。「朝鮮戦争レジーム」が、なぜ、まだ続いているのか─がテーマ。
1960.1.6 藤山外務大臣とマッカーサー駐日大使がサインした密約文書「討議の記録」(RECORD OF DISCUSSION)の原文を示して、その内容を解説している。
▼岸・佐藤の兄弟は、「共産主義と闘うための資金援助」と称してCIAの裏金を手にした。この資金援助は少なくとも15年間にわたり、日本で自民党の一党支配を強化するのに役立った。(ティム・ワイナーの著書「CIA秘録」より)
▼1972.8 キッシンジャーからニクソン大統領への覚書に「日米同盟においては、われわれが日本に核の保護をあたえる代わりに、日本はわれわれが基地を使えるようにしなければならない」と記述されている。
「核の傘」は日本のために特別何かをしているわけではない。にもかかわらず、その見返りという口実で、日本の国土の軍事利用が全面的に認められ、自衛隊の指揮権や、巨額の兵器購入などを差し出している。
(2019.02)
池上彰『世界から核兵器がなくならない本当の理由』SB新書
北朝鮮は自衛のために核兵器に頼るという選択をした。国力の差から、通常兵器では太刀打ちできない。軍事費を核開発とミサイル開発に集中させた。その結果、アメリカが交渉の場に乗り出してきた。
北朝鮮の「成功体験」、核放棄したリビアの失敗体験、これらが今後の核拡散を助長する危険性がある。
▼「終章」で中南米の「非核兵器地帯」を紹介している。
33か国が参加する「トラテロルコ条約」は、条約の一部の項目に合意する場合でも発効させるシステムにより、1968.04 発効。2002年、ラテンアメリカ33か国が全項目に合意し、条約そして非核兵器地帯は完成した。
現在、世界には5つの条約にもとづく非核兵器地帯がある。
中南米以外では、中央アジア(中央アジア非核兵器地帯条約)、東南アジア(バンコク条約)、アフリカ(ペリンダバ条約)、オセアニア(ラロトンガ条約)
(2019.03)
宇沢弘文『人間の経済』新潮新書
2014年に亡くなった宇沢が講演録などをもとに出版を準備していた原稿をもとに2017年に出版された。娘で医師の占部まり氏が巻頭言を書いている。宇沢は東大理学部数学科の出身だが、川上肇の『貧乏物語』に触発されて経済学に転向した、とのこと。
▼宇沢といえば「社会的共通資本」。序文で、「医療や教育、自然環境が大事な社会的共通資本であることはもちろんですが、もうひとつ、つけ加えるなら、平和こそが大事な社会的共通資本なのです」と記している。
▼本題からはちょっとずれるが、学者として付き合いのあった人からの見聞なども、面白い。憲法9条のいきさつ〜マッカーサーの公聴会での証言:「日本の憲法に第9条を入れさせたのは私だ。それは幣原喜重郎が自分のところへ来て、こういったからだ。『軍人であるあなたにはいいづらいが、日本がこれから世界で生き延びていくためには、絶対に軍隊を持ってはならない。だから、憲法の中に日本は軍隊を持たないということを明示的に入れたい』。私はそれに感動して、幣原に、いろいろ困難をともなうかもしれないが入れるように、とアドバイスした」
▼フリードマンをリーダーとする市場原理主義には強い反発をあらわす。小泉純一郎と竹中平蔵をセットで批判する文言が繰り返しでてくる。市場原理主義は似非経済学だと一蹴し、市場原理主義へのアンチテーゼとして社会的共通資本の考え方が生まれた、という。
▼イギリスにおける戦後の社会保障制度がつくられた経緯をベヴァリッジとケインズを軸に解説している。せっかく作られた医療保障制度が、市場原理主義者・サッチャーらによって壊された。市場原理主義者にとって、医療を見る物指は Death-Ratio (1人の患者が死に至るまでの医療費)だ。ベトナム戦争のころ軍の考え方、Kill-Ratio(1人のベトコンを殺すのにかかるコスト)と同じ発想。
▼1970年、十数年ぶりに日本に帰ってきて‥胎児性水俣病の患者に接し、その母親の悲しみをみたときの衝撃がそれまでの経済学に対する考え方を根本からくつがえし、人生観まで変えた‥ 数多くの公害の人間的被害の実態を分析し、到達したのが「社会的共通資本」という考え方だった、と回想している。
(2019.03)
NHKスペシャル取材班『睡眠負債』朝日新書
2017.6.28放送の「NHKスペシャル・睡眠負債が危ない〜“ちょっと寝不足”が命を縮める」をもとに書籍化された。
蓄積した睡眠不足を睡眠負債(Sleep Debt)と呼び、対策の重要性が叫ばれるようになっている。
▼睡眠負債により眠気を感じない場合があるものの、注意力は確実に低下している。睡眠負債はマイクロスリープ(1秒〜10秒程度の瞬間的居眠り)を発生させ、事故の原因となる。
▼覚醒中は脳の組織間液(ISF)にアミロイドβが多く分泌され、睡眠中に脳脊髄液を介して排出される。
フィンランドでの調査では睡眠時間7〜8時間の人に比べ7時間未満の人は、認知症のリスクが1.59倍高くなる。
睡眠負債により、がんの発症や進行が増大する。睡眠を妨害したマウスで、2倍の進行がみられた。
▼睡眠は最低限6時間、できれば7時間必要。仮眠・昼寝で脳のリフレッシュ効果は期待できるが睡眠負債は補えない。睡眠の分断は睡眠の効率が悪く、睡眠の時間に算入できない。⇒睡眠負債が危ない(NHKスペシャル)|日本人が知らない睡眠負債の恐怖(東洋経済) (2019.03)
増本康平『老いと記憶』中公新書
加齢によって記憶や認知能力がどのように変化するか、がテーマ。記憶といってもいくつかに分類され、一様ではない。「エピソード記憶」「短期記憶」などは10代後半から20代にかけてがピーク。「意味記憶」は加齢による低下がみられず、むしろ増加する。
▼訓練によって記憶の衰えは防げるのか、改善できるのか。効果はあるが、それは15%ほどだ。健康に気を付けることは大切ではあるが、行き過ぎた予防への期待には問題がある、という。
▼記憶に関する治療も予防も、まだ確立されたとはとても言えない状況だが、自分の記憶というより、自分が社会にどのように記憶されるか、というところに視点をおけば、救われるかもしれない ‥ と慰めのような記述で終わっている。 (2019.04)
島田裕巳『「オウム」は再び現れる』中公新書ラクレ
著者は、かつて「オウムシンパ」と批判され、10年ほど社会の表から姿を消していた。
オウムの教えに共感したわけではないが、学生時代にヤマギシ会に係り、現実社会への対抗文化を求めるような背景に共通したものを感じていた、と述べている。
▼ヨーガの修行を希望する若者がオウムに入ってきたが、彼らは、社会のことについては、さほど関心を持っていなかった。ハルマゲドンに備えて、修行にはげみ、超能力を身につける。一種の「逃げ場」であった。オウムに影響を与えたものは、原始仏教、ヨーガ、後期チベット密教 - この3つが混淆したもの。若い世代に「ネオ仏教」と映った。
▼新宗教が広がるような条件はないが、日本独特な組織構造が、反社会的な組織を作り出すかもしれない。そういう意味合いで著者は「再び現れる」と言っているようだ。(2019.04)
共同通信「戦争証言」取材班編『語り遺す戦場のリアル』岩波ブックレット
2014年夏、安倍内閣は、集団的自衛権の行使を拡大解釈する閣議決定をした。このことを機に、この本の編集がスタートしたのだという。翌年には安保関連法が成立し、与党内からは戦争に反対する者を「利己主義」とののしる発言があった。
▼収録されているのは70代後半から100歳超までの67人。
「戦争はばかくさい。集団的自衛権が行使されたら、また戦争になる。みんな頭がまひしていたあの時代に戻りたくない」 「戦争は幸せな生活を根こそぎ奪う怪物だ」 ‥ 1人1ページほどの短文のなかに、心に残るエピソードが記録されている。
▼戦争を実体験した父は、戦争のことをしゃべらなかった。同世代の者同士で「戦争だけは絶対にやっちゃだめだ」と語り、頷きあっていたのを覚えている。語ることには、よほどの高い敷居があったのだろうと思う。
(2019.05)
藤田孝典『下流老人』朝日新書
先月、富山で講演会があり、会場で本を買い求めた。このときの講演の中で、自らを37歳と紹介する場面があり、その若さに驚いた。湯浅誠氏らとおなじようにNPOを拠点に活動している。メディアが報じている以上に、日本の高齢者の格差と貧困は極めて深刻であり、今後も一層広がっていくことが予想される。
▼「下流老人」を、「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」と定義している。下流老人の指標 @収入が著しく少ない A十分な貯蓄がない B頼れる人間がいない の3つの「ない」を挙げる。
▼特別に不心得な人でなくても、運悪く不幸な出来事に遭遇しなくても、ごく普通の人が普通に生活しているうちに下流になりうる、として多くの例を挙げている。「貧困は自己責任、生活保護は甘え」…責任と権利に対する誤解が問題を覆い隠し、深刻化させている。省みると、老後のたくわえを放出し、わずかな年金しかない〜下流化は他人ごとではない。
▼下流老人の問題は個人の問題ではなく社会の問題。「生活保護の保険化」を提案している。奇策であることは承知の上で、全国民が月額100円を拠出して、「施し意識」を「権利意識」に変える、との問題提起である。財源問題の代替案ではない。
(2019.06)
江川紹子『「カルト」はすぐ隣に』岩波ジュニア新書
江川さんとは別又の慰霊碑へ一緒に行ったことがある。オウムについて、ずっと取り組んできた気骨あるジャーナリストだ。新刊がでたことを知り、地元の書店へ行ったが、そもそも岩波ジュニア新書はまったく置いてない。本店にはあるので、取り寄せましょうか、というが2日ほどかかる。そんなわけでアマゾンから購入。
▼話は 2018.6.6 松本智津夫らの死刑報道から始まる。
オウムに入る前の彼らは…善良な若者でした。普通以上に、自分の人生や社会のことを考える、まじめで心優しい人たちだったのです。それがなぜ、あんなことを・・・?
▼「信者」は、まじめで優秀な若者が多かった。「教祖」は人をだますのが上手な詐欺師的な人物だ。よくぞここまで人をだまし、犯罪に駆り立てることができるものだと感心する。
▼1973オイルショックの中でヒットした二つの本…「日本沈没」、「ノストラダムスの大予言」…翌年、双方とも映画化され、ヒットした。
超常現象、オカルトが大流行する時代だった。麻原彰晃の説く終末論(ハルマゲドン)が抵抗なく受け入れられる背景になった。
▼井上嘉浩、端本悟など元信者から何人かを選んで、その経歴を紹介している。中川智正の元恋人は、麻原の指示に疑問を感じつつも「葛藤するのは自分が至らないせいだと思い、あれこれ考えるのをやめて、教団の生活に順応していった」と語っている。
▼警察は初動を誤り、マスコミはオウムに追従した。このことがオウム事件が、あとから振り返ると、信じられないほど拡大していった背景にある。カルトにたいするリテラシー不足。
…カルトとはなにか? 語源は、儀礼、儀式、崇拝などを意味するラテン語。カリスマ的指導者を熱狂的に崇拝する新興宗教団体を「カルト」と呼ぶようになった。カルトへの入信は、部屋の模様替えに似ている、という。とっかかりの敷居はひくい。
▼「あなたの人生がカルトに奪われないよう、どうかオウムの教訓が一人でも多くの人に伝わり、生かされるよう、願ってやみません」と結んでいる。
(2019.07)
藤田孝典『続・下流老人』朝日新書
先日読んだ『下流老人』の続編。帯に「“死ぬ直前まで働く社会”がはじまる!!下流老人は過労で死ぬ!?」とある。
▼子どもから高齢者に至るまで、世代を問わず貧困が拡大している。「生涯現役」といえば聞こえはいいが、これからは、「死ぬまで働き続けなければ生きられない社会」になりそうだ。
▼高齢者の3〜4割は何らかの仕事についている。
その理由、@年金支給の抑制、A保険料住民税などの上昇、B上がりつづける生活費
▼「救済型」の再分配から「共存型の再分配」を提唱し、フランスの「社会住宅」計画を紹介している。
社会住宅は貧困層を救済するためにあるのではない。
「住まいの権利」に基づき、「社会共通資本」として国民全員に益する。
▼宇沢弘文の「社会的共通資本」が紹介されているのだが、「的」が抜けて「社会共通資本」としている。
著者はインフラストラクチャーすなわち「社会資本」の意味で使っているようだが、宇沢は、もっと広く、環境なども含めて「社会的」としている。
(2019.08)
斎藤貴男『日本が壊れていく』ちくま新書
「2018年夏現在、日本は独裁権力によるファシズム国家に堕している」という書き出し。インフォーマル帝国と化したアメリカに追随する「衛星プチ(ポチ?)帝国」となっており、政治の反知性主義化を「政治のヤンキー化」と評する。
▼古賀誠、小沢一郎、亀井静香との対談に1章が充てられている。小沢の安倍評…政治に対する考え方が根本的に間違っている。あまりのも幼稚であまりにも愚劣で、論評するに堪えない。じっちゃん(岸信介元首相)から聞かされた言葉が頭の中に残っているのではないか。
▼「日本の首相は典型的な“ケータイ人間”」という1項を設けている。
便利になりすぎた時代は、いずれ「熟慮」や「沈思黙考」の価値を忘れさせ、代わりに「軽挙妄動」「軽佻浮薄」といった四字熟語に、むしろポジティブな意味さえ帯びさせていくに違いない…と記している。
(2018.08)
伊藤桂一・野田明美『若き世代に語る日中戦争』文春新書
数多くの戦記の著作のある戦中世代の小説家・伊藤桂一に弟子の野田明美が聞き書きしたもの。
騎兵として中国で約7年間の兵役を務め、最後は伍長だった。
▼「軍人勅諭」と「戦陣訓」…その二つはまるで違いますね。
(前者は)数千語に及ぶ長文だが、筋の通ったいい文章です。
(後者は)戦争の実際を知らない人たち、机の上だけで戦争を考えている人たちが集まってこしらえた文章です。
▼第一線の古参兵だったことが、多くの元兵士らに受け入れられ、あちこち取材して、多くの戦記を書いている。代表作は「静かなノモンハン」。
(2019.08)
外山滋比古『老いの練習帳』朝日新書
95歳の英文学者・外山氏のエッセイ集。1タイトルあたり3ページ、全47タイトルを収めている。
最初のほうで、朝食を食べない生活習慣について書いている。朝昼兼用ののブランチをとり、それまでの時間で「朝飯前」の一仕事を片づける。昼食べて、昼寝すると、再び朝が来たみたいで、1日が2日になるという。
しかし、やがて、年を取って朝早く目覚めるようになり、朝食を食べるようになったことを書いている。
(2019.09)
井手英策『富山は日本のスウェーデン』集英社新書
著者は慶応大学教授。専門は財政社会学。
保守的な政治風土の強い富山県が対極のリベラルや社会民主主義の福祉国家と、どこか共通しているものがあるという。
▼10年以上昔、ゼミ生との調査合宿で初めて富山を訪れた。「JR富山駅前で、自家用車で会社に向かう人びとをぼんやりと眺めていたのだが、ふと、車を運転する女性の割合が高いことに気がついた」 …これが「日本における保守的風土と社会民主主義的な政策との接続可能性についてまとめてみようと考えたのが本書である」とのこと。
▼人口規模がほぼ同じの宮崎県、秋田県と比べると、企業売上高は富山が3倍以上になる。「とくに強調しておきたいのは、第二次産業、すなわち製造業、建設業等で働く人たちの比率が全国で一番高いという事実である」
▼「一見すると、富山に見られた保守性や伝統的な家族主義は、ヨーロッパであれば政府が提供するような対人社会サービス ─たとえば、子育て、教育、警察、消防など─ を女性や地域が補完するという意味で、日本型福祉社会を体現しているように見える」
▼富山型デイサービス=惣万さんたちの取り組み、それに続く共生型グループホーム「あしたねの森」、船橋村と朝日町笹川地区に焦点をあて詳しく紹介している。
▼長くつづいたまずしさとの闘いは、自分たちが生き延びるために他者と助けあう文化を生み出した。 … 人間の無力感をよりどころとしながら「自分たちは共にあるのだ」と確信できるこの感覚を「共在感」という。富山の歴史はまさにこの「共在感」を育む歴史だった。
(2019.09)
池内紀『ヒトラーの時代』中公新書
帯には「体制は窮屈だったが、経済は安定していた─」とあり、つづけて、「泡沫政党の党首アドルフ・ヒトラーは、圧倒的人気を獲得し、権力の座へ駆け上がった。独裁制はなぜかくも急速に実現したのか。ドイツ国民がそれを支持した理由は何か」と書かれている。なぜ、こんな奇妙な人物が権力を握ったのか?がテーマ。
▼労働者の福利厚生のような分野で、人気取りに成功。「国民のための車」キャンペーン〜フォルクスワーゲンの開発、アウトバーンの建設。「国民ラジオ」の開発と普及。などなど、国民はヒトラーやナチスの思想そのものよりも、現世の利益にひかれていった。ヒトラーは、民主主義的手続きに従ってトップにのぼり、国民の多くがそれを支持していた。
▼最後の部分で、ヘルムート・クヴァルティンガーによる自作自演の風刺劇「カール氏」を紹介している。小市民のズルさ、小心ぶり、無責任さが巧みに戯画化されていた。ヒトラーが呼びかけたのは、つねにこの「国民の皆さま」だった。… 何かあれば、みんなといっしょでいたがる「よき市民たち」である。多数派にいないと不安でならない。
▼近年、世界じゅうでポピュリズムが広がっている。ヒトラーに「学ぼう」とする政治家がでてくる。怖い時代になったものだ。 (2019.10)
高野聖玄『フェイクウェブ』文春新書
日本航空が取引先を装った詐欺で3億8千万円余の被害を受けた。大物を狙うことから「フィッシング」ではなく「ホエーリング」(捕鯨)と呼ぶこともある。
このような大掛かりな詐欺のほか、個人を対象にした数万円の詐欺も横行している。
▼サイバー空間にはダークウェブと呼ばれる特殊な領域があり、その闇市場で様々な違法品が売買されている。
人から金銭を騙し取る詐欺師を「シロサギ」、異性をだます詐欺師を「アカサギ」、これらの詐欺師をターゲットにする詐欺師を「クロサギ」と呼ぶ。
▼フェイクニュースと呼ばれるものの中には、完全な捏造もあれば、誤報やミスリーディングと言えるものもある。
フェイクニュースが拡散する背景には、悪意だけが存在するわけではなく、義憤、善意、興味本位といった感情が交差している。
▼ネット空間における情報リテラシーのために4つのキーワードを挙げている。@フィルターバブルを理解する。A多くの人はタイトルしか読まない。B情報のサプライチェーンリスク。C情報を遮断する。
(2019.11)
池上彰『池上彰の世界を知る学校』朝日新書
世界地図を集めるのが趣味だという。地図を出発点に、世界の歴史や政治を解説する。
いかにも「知らないでしょ、教えてあげますよ」という雰囲気は好きではないが、内容はそれなりに面白いので、暇つぶしにちょうどいい。(2019.12)
ダイモンジソウ(大文字草)