BOOK2015
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 《2014|2015- 1011122016



斎藤貴男『民主主義はいかにして劣化するか』ベスト新書
「インフォーマル帝国主義」の時代だという。植民地支配を必ずしも伴わない。相手の国の主権は認めるし、独立国のままにしておくけれども、経済的に支配する。そのほうが植民地経営のコストもかからず、かつ、経済的な支配がもともとの目的なのだから、はるかに効率的だ。そのような発想が、昨今のグローバリゼーションの正体だ。日本は米国の「コバンザメ」だったのが、これからは「鉄砲玉」のような役目も負わされていく。▼高齢化&人口減少で内需には見切りをつけ、原発を中心としたインフラシステム輸出で帝国主義的な外需依存型の経済に持っていきたい。国内の社会はそのためのショールーム。「わが国はあれだけの事故を起こしてしまった経験があるからこそ、どの国よりも安全対策に万全を期することができる」‥そんなセールストークをしておきながら国内では原発を動かしていないのでは通らない。▼憲法18条「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」が徴兵を違憲とする根拠になっている。自民党草案では「社会的または経済的関係において身体を拘束されない」としていて、国家的な意思にもとづく徴兵制に道をつけている。石破氏は、「兵役は苦役ではない」と主張している。改憲によらなくとも実現する可能性がある。 (2015.01)

徳山喜雄『安倍官邸と新聞』集英社新書
在京6紙を、安倍政権の発足(12年12月)〜14年5月までの1年半、調査した書。 安倍官邸のメディア戦略が巧妙で、きわめて有効に働いている。慣例だった共同記者会見から単独会見に切替え、新聞社をコントロールしている。▼重要課題をめぐって在京紙の論調が真っ二つに割れる「二極化現象」が起きている。深い議論ではなく、二者択一の極論しかない。読売、産経、日経が安倍支持。朝日、毎日、東京が反安倍。 ▼特定秘密保護法の成立後、安倍が夕刊フジに単独インタビュー。特定秘密保護法の施行にむけて、有識者会議「情報保全諮問会議」を作り、座長に読売新聞の渡部恒雄を据えた。あまりに露骨。でも、それが通ってしまう奇妙な世の中だ。 ▼2014.1.22、ダボス会議に出席した安倍首相は、海外メディアとの懇談会で「イギリスもドイツも、経済的な依存度は高かった。最大の貿易相手国だったが戦争は起こった」と、100年目となった第一次世界大戦を引き合いに出して日中関係を説明した。海外メディアはその好戦性に驚きをもって報じた。安倍はたたみかけるように帰国後の1/24、国会の施政方針演説で「集団的自衛権」に言及した。その言動は、諸外国の懸念など歯牙にもかけていないようだ。これは安倍の鈍感さなのか、確信犯なのか・・・ いずれにせよ、海外の報道は国内では殆ど紹介されない。これまた異常。 (2015.01)

NHKスペシャル「メルトダウン」取材班『福島第一原発事故7つの謎』講談社
NHK教育テレビで放送されたメルトダウンシリーズの取材班が、膨大な取材をもとにまとめた書。「7つの謎」として、以下の章立てをしている。@1号機の冷却機能喪失はなぜ見逃されたのか? Aベント実施はなぜかくも遅れたのか? B吉田所長が遺した「謎の言葉」ベントは本当に成功したのか? C爆発しなかった2号機で放射能大量放出が起きたのはなぜか? D消防車が送り込んだ400トンの水はどこに消えたのか? E緊急時の減圧装置が働かなかったのはなぜか? F「最後の砦」格納容器が壊れたのはなぜか?  ▼免震棟の幹部らは1号機のIC(非常用復水器・イソコン)が動いていると考えていた。全電源喪失により計器が役に立たなかった。米国の同型機では数年に一度試運転をしているが、福島では、40年間動かしたことがなかった。 ▼1号機での仮設コンプレッサによるベントは成功していた。しかし、国の試算の100倍を超える放射性物質が放出されていた。 ▼爆発を起こさなかった2号機は、1、3号機とは桁違いの放射能汚染をもたらしている。ベントを試みるも成功せず、建屋内は放射能を含む蒸気で満たされ、入ることが出来なくなった。RSIC(非常用冷却装置)の軸受けが、全電源喪失+メルトダウンを想定しない設計になっていた。 ▼2号機では原子炉の蒸気をサプレッションチェンバーに逃すSR弁が作動しなかった。吉田所長は「死を覚悟した」「東日本が壊滅するイメージが頭をよぎった」と語る。格納容器の部分的破損により、大量の放射能汚染は起こしたものの、破局的な爆発を逃れた。手の施しようがなくなっていたなかで、まさに「運」としかいいようがない。 ▼放水車やヘリコプターによる散水作業は、米国や国民に対するデモンストレーション以上の効果はなかった。散水作業のために電源復旧作業は何度も中断され、復旧が遅れ、汚染が拡大した。 ▼2007.7に起きた中越沖地震の教訓から免震重要棟が作られ、原発敷地内に消防車を配置するようになった。 東電の技術者や現場作業員の質が悪かったわけではない。むしろ日本の電力会社のリーダーとして、優秀な人材を、他よりも有していた。「過酷事故」は想定の範囲外で起こるものなのだ。 (2015.01)


松田浩『NHK新版─危機に立つ公共放送』岩波新書
「いまや独立規制機関をもたず、通信・放送行政の権限を直接、政府がにぎっている国は、主要先進国では日本とロシアくらいなのである」 ▼1966.3 特集番組で世論調査の項目カット〜政権にとって不都合な項目を入れ替え。「意見の対立を激化させないというのがNHKのモットーだ」(当時の前田会長談話)。 1981.2.4、「ロッキード・三木発言カット事件」:のちに会長となる島桂次報道局長が「中止」を命じ、現場の反発で部分カットとなった。その後、当時の関係者が人事異動でそろって職場を追われた。 ▼ETV番組改変事件。2000.12市民組織「バウネット」が世界各国のNGOと協力して東京で開催した民衆法廷「女性国際戦犯法廷」を取材し、番組を編成した。代々木の放送センターを街宣車が取り巻き、右翼の一部が局内に乱入。 ▼2001.1.26、番組制作局長や放送総局長らが試写をみて、批判する立場の識者のコメントを加えることになり、急遽、インタビュー収録&編集が行われた。 1/29、放送予定の前日になって、NHK幹部らが安倍官房副長官に番組説明を行い、番組の更なる改変を指示する。4項目の削除要求により、反対派の秦教授のインタビューの場面を増やした。放送当日の夕方になって、さらに削除を求められ、つじつまを合わせることが不能となり、44分の番組を40分に短縮して放送された。 ▼2009、「プロジェクトJAPAN」が植民地支配を取り上げた。街宣車、NHK放送センター乱入など、ETVのときと同じような経過だが、大掛かりで組織化されていた。自民党国会議員グループが「公共放送のあり方について考える議員の会」を立ち上げた。 ▼宮内義彦オリックス会長や竹中平蔵総務大臣(当時)らが主導したNHK改革&放送法改正は「IT立国を国家戦略として公共放送領域に市場原理主義を持ち込み」・・・「放送の公共的機能への配慮も、政治からの中立性の視点も、ともに欠落していた」。放送法改正によって、監査委員会、経営委員会の権限が強化されたが、内閣総理大臣が任命権を持ち続けた。 ▼「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の中心幹部が政権中枢に入り、さらに安倍をとりまく財界人グループ「四季の会」が発言力を増している。彼らはNHKニュース、クローズアップ現代、ETV特集などを「偏向」番組として槍玉に挙げている。安倍政権と安倍首相を囲む財界人グループによる「NHK支配」が進行している。 ▼最後の章で、「憲法があるから、出版の自由があるのではない。出版の自由があるから、憲法があるのだ」(フランソワ=ルネ・ド・シャトーブリアン)という言葉を引用し、「NHKの危機は、民主主義の危機なのである」と結んでいる。 (2015.02)

古賀茂明『国家の暴走』KADOKAWA
サブタイトルは「安倍政権の世論操作術」。帯のキャッチコピーには「安倍政権による“軍事立国”化を食い止めよ! すべての政策は世論操作にすぎない」と記されている。 ▼「自分に同調しない意見には、“机上の空論” “無責任な議論”とレッテルを貼って切り捨てる」、 「この人物は、いとも簡単に、しかも、堂々と、嘘をつける人間なのだ」‥‥と安倍をこき下ろす。 ▼たくみに世論をコントロールする主体は「チーム安倍」という暴走装置、 @経産省官僚スタッフ A右よりの政治家スタッフ Bキーパーソンは菅官房長官 CNSC(国家安全保障会議)のハト派はダミー Dマスコミの加担、によって構成される。 ▼安倍のめざす政策を「13本の矢」にたとえて分析している。すなわち、@日本版NSC法、A特定秘密保護法、B武器輸出三原則の廃止、C集団的自衛権の行使容認、D「産めよ増やせよ」政策、E集団的安全保障での武力行使の容認、F日本版CIAの創設、GODAの軍事利用、H国防軍の保持、I軍法会議の設置、J基本的人権の制限、K徴兵制の導入、L核武装 ▼後半の経済政策などの部分は、斜め読み‥‥  と読んでる最中に、安倍批判発言がもとでテレビ朝日「報道ステーション」を降板させられる、という話が飛び込んできた。まえまえから「チーム安倍」が言動を監視していたのだろう。(2015.02)


古屋将太『コミュニティ発電所』ポプラ新書
著者は飯田哲也氏が代表をつとめるNPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)の研究員。自然エネルギーを使った「小規模分散型発電所」を市民の手で作り出すためのコーディネーターとして東奔西走している。 ▼北海道の「はまかぜ」ちゃん、飯田市の「おひさま進歩エネルギー」、小田原の「ほうとくエネルギー株式会社」、多摩市の「多摩電力合同会社」、などなど国内の実例を紹介している。国外ではデンマーク、ドイツ、スペインの例を紹介。 ▼電力の「固定価格買取制」は震災当日の午前中に閣議決定され、与野党合意により11年8月26日に成立、12年7月から実施された。11年9月「総合資源エネルギー調査会基本問題委員会」を設置。当初5分の1しか原発批判派がいなかったのを3分の1まで増やし、「30年までに原発ゼロ、自然エネルギー30%」の方向を打ち出した。しかし、安倍政権では方針を転換し、委員会は廃止された。 (2015.03)

塚谷裕一『スキマの植物図鑑』中公新書
市街地のスキマに成育する植物を約100種集めてある。園芸植物が漏出あるいは進出したものや、いわゆる帰化植物が多い。一見過酷な環境に見えるアスファルトやコンクリートのスキマは、植物同士の生存競争をしなくていい、という利点がある。水も光もひとりじめの「天国」だと著者は言う。(2015.03)

鈴木真奈美『日本はなぜ原発を輸出するのか』平凡社新書
「日本が福島原発事故を経験してもなお、原子力輸出の実現に傾注するのはなぜか」との問いかけから始まる。しかし、政治、経済、科学、歴史‥‥と、問題は膨大な領域に広がっていく。著者は、「本書の執筆には、とても苦労した‥‥問題は思っていた以上に幅広く、奥が深い」、とあとがきに述べている。読むだけでも、なかなかに骨の折れる本だ。 ▼1953年、国連総会でのアイゼンハワー大統領の演説、「アトムズ・フォア・ピース」が、「原子力平和利用」の出発点とされている。しかし、その背景を見ないと読み誤る。□1949、ソ連、原爆実験 □1952、英国、原爆実験 □1952、米国、水爆実験 □1953、ソ連、水爆実験 〜と追い上げられ、この間、米国は軍事利用を優先していたため、原子力発電では英国やソ連に遅れをとっていた。「原子力分野でリーダーシップを失うことは、世界における米国の地位に重大な蹉跌をもたらす」(1953、米国原子力委員会のステートメント) ▼原子力輸出の4つの例として、中国、インドネシア、台湾(核四原発)、アメリカ(サウステキサス・プロジェクト)を紹介している。とりわけ、アメリカでは、コスト問題で暗礁に乗り上げていて、「市場競争力に劣る原子力発電が、米国でかつてのような活気を取り戻すことはないだろう」と著者は予想する。 ▼1969、外務省の内部文書「わが国の外交政策大綱」の中で、 「当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器の製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持する」 と記されている。 「非核三原則」を掲げながら、米国の「核の傘」を介して核兵器に依存し、潜在的核兵器製造能力を保持している。日本は重度の「核」依存状態にある。そのため、国連においても核軍縮決議に対して後ろ向き。 ▼IAEAのレポートでも、原子力発電は、将来にわたって、電力供給のわずかな部分を提供するに過ぎない。安全でも安価でもない、安定でもない電力供給源は、「そう遠くない将来に幕を閉じるだろう」。だが、それに抵抗する勢力は途方もなく幅広く存在し、様々な名目でいろんな経路をたくみに使って、国の財源(すなわち税金)をつぎ込んでいる。核廃棄物と財政負担を次世代に押し付けようとしている。 (2015.03)


ヘレン・カルディコット(河村めぐみ訳)『終わりなき危機』ブックマン社
20人の執筆者が1章づつを受け持っている。全体の構成があるわけではなく、それぞれが関心事を書いている。▼アメリカ科学アカデミー「電離放射線の生物学的影響に関する委員会」の報告書(BEIR VII、2006)について何人かが触れていて、一人は委員会のメンバーだ。低線量被ばくの影響をきちんと調べている。「放射線被曝の影響に男女差があるのは明らかだ。放射線に関係するがんの死亡率は、固形がんでは女性のほうが男性よりも37.5%高かった。幼児の被ばくは大人の被曝とくらべてがんの危険性が3〜4倍高く、女児は男児の倍近い確率でがんになる可能性があった」 ▼ホットパーティクル(hot particle)についても複数の人が触れていた。プルトニウムは大腸菌と同じくらいの大きさの微粉末となって空中を拡散する性質を持っている。2011.4月には米国西海岸シアトルで観測されている。日本ではプルトニウムについての発表&報道はほとんどない。 ▼マークTには致命的な設計ミスがあり、早い時期から指摘されていた。福島では、チェルノブイリの3倍量の希ガスが放出されている。汚染水の流出はチェルノブイリの10倍に達している。さらに、福島第一にある使用済み核燃料に含まれるセシウム137は、チェルノブイリの85倍、広島原爆の10万倍。4号機だけで、チェルノブイリの10倍、広島原爆の5000倍。 ▼日本では取り上げられない視点が新鮮。ただし、全体のまとまりはない。(2015.04)


アンヌ・モレリ(永田千奈・訳)『戦争プロパガンダ10の法則』草思社文庫
英国の政治家、アーサー・ポンソンビーが著書「戦時の嘘」(1928、ロンドン)で第一次世界大戦中の政治や世情を観察・分析して提起した「戦争プロパガンダの法則」を現代にあてはめて検証する。それは、「武力戦」のみならず「冷戦」や「漠然とした敵対関係」にもあてはまる。 ▼以下の10項目にそれぞれ1章をあてて記述している。@われわれは戦争をしたくはない Aしかし敵側が一方的に戦争を望んだ B敵の指導者は悪魔のような人間だ Cわれわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う Dわれわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる E敵は卑劣な兵器や戦略を用いている Fわれわれの受けた被害は少なく、敵に与えた被害は甚大 G芸術家や知識人も正義の戦いを支持している Hわれわれの大義は神聖なものである Iこの正義に疑問を投げかける者は裏切り者である ▼どの項目も、うんざりするくらい当たり前に行われているプロパガンダである。それに、ころりと騙される。いや、承知の上で騙されたふりをして、流れに身をまかす。そんな風潮が恐ろしい。▼現代は、メディアが発達した一方で、メディアリテラシーは追いついていない。CMなどの実践の蓄積から、メディアを使って民意を操る技術が発達している。古典的な戦争プロパガンダが、より強力に作用する可能性が高い。(2015.05)

小野俊一『フクシマの真実と内部被爆』七桃舎
著者は東大理1、精密機械工学科をへて東電に就職(1988)し、原発部門で働いて、その後、退職(1995.9)して翌年熊本大学医学部に進んだ。現在は「小野・出来田内科医院院長」であり、反原発の発言を続けている。ネット上での活躍に注目していたが、「初めての著書」の存在を知り、手にとってみた。 ▼3号機は核爆発と断じている。爆発時の映像や建屋の高温で変形した鉄骨を見ると、「水素爆発」ではなく「核爆発」と考えざるを得ない。また、沸騰水型原子炉の特性から、メルトダウンしたらメルトスルーしてしまう。溶融した燃料が圧力容器内にとどまっていることはありえない。 ▼「原爆ぶらぶら病」をはじめ脳血管障害、心疾患など、低線量被ばくや内部被曝による病態が多様であることを、肥田舜太郎先生をはじめ、いろんな文献などから紹介している。その多くは、検証ぬきに「災害によるストレス」として片付けられている。 ▼いわき市の小学校で教師が語った言葉が紹介されている‥「国が決めたことを大人が信じられないなら、子どもが動揺してしまう。国の言うことを信じられないのなら、日本国民を辞めてもらうしかない」‥これは政府やメディアにある流れを示している。 ▼原発への抗議行動は「自分の考えで動くこと」を強調している。集団行動をしても、相手は組織的な闘いには長じている。「組織的な闘いをすると必ずつぶされるのです」、「一人一人が、自覚を持って行動」し、「一人一人が立ち上がれば、世の中は必ず変わります」。集団行動を嫌う傾向があるみたいだが、両方必要だろう、と思う。 (2015.05)


朝日新聞『岐路に立つ原発の「損得」国策の果て』WEB新書
田中角栄の言葉が紹介されている。‥「東京に作れないものを作る。作って、どんどん電気を送る。そしてどんどん東京からカネを送らせるんだ」 ▼「統治行為論」とは、高度に政治的な問題は裁判所の審査権が及ばない」とする考え方であり、かつて、全国の裁判官を集めた会議で、最高裁事務総局が原発の問題を取り上げている。「原発の事故の起こる確率は極めて少ない」、「裁判所としても、行政庁のした判断を一応尊重して審査に当たるという態度をとるべき」、などとしている。(2015.06)

植田耕一郎『長生きは「唾液」で決まる!』講談社新書
唾液の減少が歯周病の最大の原因であり、歯周病が糖尿病、動脈硬化、心臓病などを発症を促し、増悪させる。歯みがきよりも唾液のほうが大切と主張する。 ▼唾液の増加を“「口」ストレッチ”によって実現できる、として、以下のように説明している‥ 唇を「ウー」ととんがらせ、「イー」します。ほほをふくらませて、すぼめます。舌を前へ思いっきり突き出し、上唇をなめ、下唇をなめ、口角の左をなめ、右をなめます‥。▼唾液の大切さには異論はないが、歯磨きをしなくていいというのは極論だろう。(2015.06)


空本誠喜(そらもと・せいき)『汚染水との闘い』ちくま新書
著者は、早稲田の理工〜東大大学院、原子力工学専攻。東芝で原子力プラントの設計にかかわっていた。事故当時、広島4区選出の衆院議員であり、「官邸助言チーム」の事務局長を務めた。 ▼4月4日からの低レベル汚染水の海洋放出を「進言」した。高レベル汚染水の流出を防ぐにはやむをえなかった、と弁明している。 「低レベル汚染水は、高レベル汚染水に換算すると、ペットボトルわずか数本分」であり、高レベル汚染水の流出を防いで貯蔵しないと、大変なことになる。‥3月末から4月5日までに2号機から520トンの高レベル汚染水(推定4700兆ベクレル)が流出した。( ヨウ素131=2800兆Bq セシウム134=940兆Bq セシウム137=940兆Bq) ▼汚染水処理装置について、仏アレバ社、米キュリオン社の装置などを解説し、古巣の東芝がかかわる「サリー」やALPSの優秀性を主張する。 ▼「残念ながら」‥と地元漁業者の「自粛」を責めている。新基準値を超える水産物は「わずか」「まれ」として、無視していいかのように言っている。少々荒っぽい論法だ。 (2015.07)

今井一彰『あいうべ体操と口テープが病気を治す! 鼻呼吸なら薬はいらない』新潮社
著者・今井一彰氏は福岡市で診療所を開設する医師。「鼻呼吸をすれば、健康が取り戻せる」‥をライフワークとして取り組んでいる、という。 ▼最近読んだ植田耕一郎氏(歯科医)の著書に書かれている「口(くち)ストレッチ」とよく似ている。ストレッチのほうは唾液の分泌促進がターゲットだが、「あいうべ体操」は口呼吸から鼻呼吸への誘導が主眼となっている。免疫系への作用など、広い視野でのメカニズムを考えている。作用機序は充分に解明されているとは言いがたいが、アトピーやリウマチなどで、驚くような効果をあげている。そのうちの一部は歯周病の病巣感染による病変と思われる。(著者は「口呼吸病」と称する) ▼「口ストレッチ」よりも「あいうべ体操」のほうが、単純化されていて、実行しやすい。1日30回で3分〜5分、費用のかかることではないし、副作用の心配もない。ためしてみる価値は充分にある。 (2015.07)


田中利幸、ピーター・カズニック『原発とヒロシマ 「原子力平和利用」の真相』 岩波ブックレット
冷戦下、米国は「通常兵器と核兵器の間に違いはない」として、核爆弾で「ソ連を2時間で灰と放射能におおわれた廃墟」にする戦略を採用する。 朝鮮戦争、スエズ紛争、台湾での紛争などで、核兵器を脅しに使った。しかし、このような核兵器依存の姿勢は国際世論からは反発を食い、それをつきくずすために国連でのアイゼンハワーの「Atoms for Peace」演説(1953.12.8)が計画された。 ▼しかし、その出鼻をくじくような事件=ビキニ環礁核実験、第五福竜丸事件(1954.3)が発生し、世界中で核実験反対運動がおこった。世界の指導者たちがアメリカを非難し、「死の灰」という言葉が世界中に普及し、アメリカの権威を低下させた。日本では原水禁運動がひろがった。 ▼米国は事態を大転換すべく、工作を開始した。 『急激な高揚をみせた日本の反核運動と反核感情を押さえつけ、さらには態勢を逆転させようと、アメリカ政府は読売新聞社主の正力松太郎を抱きこみ、日本テレビ開設を背後から支援。読売新聞・日本テレビをフルに活用してメディア作戦で「原子力の有益性」を大いに宣伝したのである。』 ▼1955.11.1-12.12 読売新聞社主催「原子力平和利用博覧会」(東京) アメリカの「Atoms for Peace」政策の心理作戦(洗脳作戦)の一部としてCIAが関わり、世界各地で開かれていたものの一環。正力松太郎は11.22に鳩山内閣の「原子力担当国務大臣」に就任。 1956.5.27 広島での「原子力平和利用博覧会」開会式。 ▼これらの作戦により「核兵器=死滅/原子力=生命」という二律背反的幻想を高める効果をあげた。 原水爆禁止を掲げる団体や文化人、学者らが原子力の平和利用については容認または推進するようになった。1955.8.6 広島で開催された第1回原水爆禁止世界大会でも、「広島アピール」の中で「原子戦争を企てる力を打ちくだき、その原子力を人類の幸福と繁栄のために用いなければならない」と唱っている。 ▼著者は、「反核運動に身をおいてきた者は、真摯な反省の上に立って、反核兵器運動と反原発運動の統合・強化を求められる」としている。反核運動に関わってはきたけれども、原発や「原子力平和利用」については容認する傾向が自分にもあったのはたしかだ。 (2015.08)


保阪正康『安倍首相の「歴史観」を問う』講談社
どちらかというと保守系の論客とみられている著者が、安倍にたいして辛らつな評価を下す。‥‥ 「形容句」「立論不足」「耳学問」という3つの特徴をもつ軍人らが「理念なき戦争」へと走った。安倍首相の答弁は、この特徴にあてはまる。軍服を着たらぴったりな言動である。 ▼はじめから旗を立てる。そして史実から都合のいい言い分の断片だけを集めてくる。「歴史修正主義」は欧米にもある。しかし、日本だけが歴史修正主義と権力が一体化してしまっている。安倍首相の歴史観は、まさに歴史修正主義だ。そのことに世界中から強い警戒が向けられている。 ▼昭和20年6月、義勇兵役法が施行。男は15歳から60歳、女は17歳から40歳までが兵隊とみなされた。大本営は米軍の本土上陸を想定し、「1億総特攻」を呼号していた。 「国民の4分の1が特攻作戦で死に、血染めになったこの国の様子を見てアメリカはもうやめようと言いだすだろう、そのときが講和の到来だ」(軍令部次長・大西瀧治朗の言葉) ▼「統帥権」は明治憲法に明記されていない。にもかかわらず「総帥権がしだいに独立しはじめ、ついには三権の上に立ち、一種の万能性を帯びはじめた」(司馬遼太郎)。「安倍内閣の閣議決定は憲法よりも上位に位置し、それを主権者の国民には知らせない『特定秘密』にするという時代の到来を、私は恐れるのである」(保阪) ▼「太平洋戦争の致命的欠陥」として4点を示す。(1)軍事が政治をコントロール、(2)特攻作戦・玉砕を国家公認の戦術として採用、(3)捕虜の処遇をめぐる国際条約を無視、(4)戦争終結の構想なき軍事行為。 (2015.09)

益川敏英『科学者は戦争で何をしたか』集英社新書
いわずと知れたノーベル物理学賞受賞者。恩師・坂田昌一を称える言葉が何度も繰りかえし登場する。同氏の強い影響を受け、平和運動や組合活動などに入れ込んできた。反原発活動に加わった経歴もあるが、単純な原発反対ではない。 ▼「はじめに」で、目の前に不発弾が転がった空襲の体験を記している。命があったのは幸運としか言いようがない。だから、という単純なことではないが、反戦に対する思い入れは強い。 ▼科学は中性だが、戦争となれば国策支援のために動員される。科学振興のための国家組織の多くは、戦争を契機に科学政策の強化を図るために作られた。戦争に協力し、兵器の開発に取り組んでいるうちは科学者が重用されるが、その役目が終われば蚊帳の外におかれる。マンハッタン計画に加わった科学者たちが、日本への原爆投下に反対したが、聞き入れられなかった。 ▼アメリカで「アメリカ科学者連盟」が作られて反戦運動〜頓挫。イギリスでは「科学労働者連盟」が原爆廃棄を求める運動。世界平和評議会で「すべての原子兵器の禁止と国際管理の実現を要望し、原子兵器を最初に使った国の政府には戦争犯罪人の烙印を押すという宣言を支持するように」、との要求を大国の指導者たちに出した。1955「ラッセル・アインシュタイン宣言」と、その前後の歴史が詳しく紹介してある。 ▼さいごに坂田先生の『科学者である前に人間たれ』という言葉を紹介し、「生活者音痴」な科学者に自覚を促す。 (2015.09)


朝日新聞『「ノー・ジャパン」自衛隊イラク派遣の修羅場』WEB新書
03年12月から09年2月まで、自衛隊がイラクに派遣された。陸自は「非戦闘地域の安全な場所」とされるサマワに宿営した。▼05年12月4日、ルメイサで、養護施設修復工事の完成祝賀会が行われ、会場近くで騒動がおきた。「ノー・ジャパン」などと声をあげて押しよせる群集と警護の豪州軍との間で銃撃戦になり、自衛隊も危うく巻き込まれそうになった。▼08年に作製された自衛隊の内部文書「イラク復興支援活動行動史」にも繰り返し、この「ルメイサ事件」が取り上げられているという。▼アベのこの間の安全保障分野での暴走の背景には、米国の「オフショア・バランシング」(Offshore Balancing) 戦略がある。「世界中に展開しているアメリカ軍を徐々に撤退させ、その代わりにアメリカの同盟国、もしくは友好国に、それぞれの地域を防衛させるようにする」(現代ビジネス15.09.14)というものだ。アベは、アメリカに恩を売る快感に酔い痴れているのかもしれない。(2015.10)


畑村洋太郎ほか『福島原発事故はなぜ起こったか』講談社
政府事故調のメンバーによる政府事故調報告書の要約&解説版である。▼電源喪失が強調されるが、じつは配電盤の水没が致命的だった。「もし配電盤が無事であったならば、生き残った2台の非常用ディーゼル発電機から全号機への必要最小限の給電は行われ、事故は炉心損傷には至らない軽微なもので済んだ可能性が高い」50-51p▼非常用電源、防水扉、シュノーケルなど、海外では行われていた安全対策が日本では行われていなかった。日本は「小さな事故を起こさないためには神経を集中させてきたが、いったん事故が起こった後のことを十分には考えてこなかった」と総括している。▼オフサイトセンターが原子力安全・保安院の問題点を象徴している。原発から5qの近距離にありながら放射性物質を遮断する空気浄化フィルターが装備されていなかった。「安全神話に囚われていた保安院には、大規模な原子力災害の発生に備えるという発想自体が欠如していた」(102p)▼原発内での連絡手段としてPHSが常用されていた。電源の最低保持時間を1時間と設定していた。ここでも長時間に及ぶ電源喪失といった事態は考えられていなかった。▼チェルノブイリ原発事故で、強制的な避難措置が健康被害をもたらし、避難させられた人の平均寿命は、避難しなかった住民に比べて7年も短縮した─と中川恵一氏の書を引用している。このあたりはチェルノブイリテーゼに毒されている。▼原発廃止論については「事故直後の一種の過渡反応」としてつきはなし、危険で高コストであることを認めた上で再稼動を容認している。(2015.11)

佐竹直子『獄中メモは問う 作文教育が罪にされた時代』道新選書
1940(S15)〜1941にかけて「綴方教育」に励んでいた北海道の青年教師ら52人が「貧困などの課題を与えて児童に資本主義社会の矛盾を自覚させ、階級意識を醸成した」として、治安維持法違反容疑で特高に連行され、11人が有罪となった。(北海道綴方教育連盟事件)  北海道新聞の記者が、綴り方教育連盟の中心メンバーだった坂本亮さんの遺族宅で「獄中メモ」を発見し、それをもとに関係者を取材した記録。 ▼反論する者に対して、検事は、「そういう言い逃れをするのは、一生ぶちこんでおく」「みんなは今はきれいに自白している‥公判が遅れていくので、みんなは君を怨んでいる」「盟邦ドイツでは、国家に反逆する思想犯は死刑にしている。君もそんなになりたいのだろう」などと威嚇の言葉をあびせた。 ▼共産主義どころか皇国史観を信奉していた者が、入門書まで手渡されて、左翼用語を使って供述するよう迫られ、「赤く」されてしまう。そのうえで「転向」したことにして作文される。 ▼大正14年に制定された治安維持法は制定当初、政府が国会で『警察が一方的に犯罪行為を認定して検挙するようなことはありえない』と説明しているにもかかわらず、その後、2度の改正を経て、国民を自在に弾圧できる“打ち出の小づち”へと変わりました。(荻野富士夫・小樽商科大教授) ▼記事連載中の2013年12月に特定秘密保護法は成立した。2014年に入ってからは、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更が、国民的な論議がないまま進められた。取材ノートの中にある、国を挙げて戦争へと突き進み治安維持法に国民が弾圧された時代を、まるで現代が追いかけて再現しているように思えてならなかった。 「著者あとがき」より。 (2015.11)


朝日新聞『自衛隊派遣の覚悟はあるか 隊員56人自殺の現実』WEB新書
2001年からのインド洋派遣で27人、2003年からのイラク派遣で29人の自衛隊員が在職中に自殺した。 ▼サマワの宿営地で診療にあたった精神科医は「自殺は氷山の一角、影響はもっと深刻 … 自殺未遂をしたり精神を病んだりした隊員は少なくない」と語っている。 アメリカでは、アフガニスタンとイラクから帰還した後の自殺者が戦死者を上回っている。 ▼防衛省は「派遣との因果関係を特定することは困難な場合が多い」として、派遣が原因とは認めていない。(2015.12)

週刊朝日『戦争だと生命保険は出ません 自衛隊員の戦死、追いつかない制度』WEB新書
新安保法により自衛隊がいよいよ「世界に羽ばたく」ことになる。自衛隊の危険は低減するなどと詭弁を弄する輩がいるが、すでに自衛隊への応募者が減少している。 ▼イラク派遣の際に、派遣部隊は現地に棺を持参していた。戦死者が出たら武道館で壮大な国葬を行うことが計画されていた。戦死者を美化して国威を発揚するチャンスにしようともくろむ政治家がいる。 ▼公務員の死亡に対しては遺族年金と退職金が支払われる。そのほかに公務での死亡や後遺障害に対して、国から「賞恤金」(しょうじゅつきん)という見舞金が支払われる。通常は最高限度6千万円だが、イラク派遣時は例外的に9千万円に引き上げられた。(2015.12)

舘野正樹『日本の樹木』ちくま新書
樹木を生態学的な「寿命の戦略」から「常緑高木」「落葉高木」「中低木」に分けて解説している。常緑高木は200年以上、落葉高木は50年から200年、中低木は50年以下の寿命を想定した適応戦略をもっているという。 山へ遊びに行くとき、草花だけでなく、樹木や鳥や虫にも目が向けられたらいいのだが、と思いつつ、なかなかそこまで出来ない。(2015.12)



 《2014|2015- 1011122016

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ダイモンジソウ(大文字草)