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對馬達雄『ヒトラーの脱走兵』中公新書
サブタイトルは「裏切りか抵抗か、ドイツ最後のタブー」、帯には「脱走兵は死なねばならない」というヒトラー『わが闘争』の文言が記されている。
▼ナチズムに抵抗して軍隊を脱走した兵士は30万人、捕えられて死刑判決を受けた者だけでも3万人以上いるという。他の国にくらべてケタ違いに多い。命をかけて抵抗した脱走兵は、卑怯者とののしられ、日の目をみなかった。そんな脱走兵の一人、ルードヴィヒ・バウマンにスポットをあてる。
▼戦後の社会は脱走兵に対して非常に冷たかった。ナチス時代にナチス体制を支えた人間が、戦後も司法界を支配した。そのため、「不当判決破棄」は遅々として進まず、脱走兵に対する風当たりは強いままで、元兵士に対する年金などの保障も適用されなかった。
▼戦時中の締め付けの厳しさはもちろんのことだが、戦後の社会のあり様に衝撃を受ける。日本はどうだったのだろう。司法的な手続きを経ずに「処置」された兵士が多かったのではないだろうか。
(2022.01)
鴋澤歩(ばんざわ・あゆむ)『ナチスと鉄道』NHK出版新書
著者は阪大教授。「ばん」は」「方」と「鳥」が合わさった珍しい文字だ。
鉄道は、その社会や地域、国の顔をよく映すものだ、と冒頭で述べている。
▼ドイツ国鉄(ライヒスバーン)の誕生と変遷。
1921「ドイツ・ライヒスバーン」が発足〜第一次世界大戦(1914-18)敗戦後、賠償金支払いのためライヒスバーン民営化〜
1937ライヒスバーン国有化
▼第二次世界大戦ドイツ有利の時期に「超広軌鉄道」が構想されたが実現しなかった。ユダヤ人を運ぶ「デポルタツィオーン」では特別列車が活用された。
▼戦争末期には装甲列車が撤退戦で有用性を発揮した。鉄道労働者が不足し、女性労働者や外国人労働者や捕虜が大量に使われた。
▼1990、ドイツ再統一により鉄道も東西が統合して「株式会社ドイツ鉄道」となった。
(2022.02)
和田秀樹『70歳が老化の分かれ道』詩想社新書
見覚えのある名前だと思ったら、20年ほどまえにこの著者の本を読んだことがあった。常識をひっくり返すような論法は面白い。
▼70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れる時期」、75歳までは知的機能や体力、内蔵機能など、中高年のころと大差なく、現役時代同様の生活ができる、という。たしかに昔の老人と比べて、いまの老人は元気だ。
▼70代になったら、ダイエットなどしてはいけない。日本のメタボ対策は、高齢者医療の現場を全く知らない学者や官僚たちが主導した誤った施策にすぎない。コレステロール値を下げると男性ホルモンも減って、EDや免疫機能低下を招く。血圧・血糖値を下げて心血管障害のリスクを減らしても、日本では心筋梗塞で死ぬ人よりがんで死ぬ人が多い。
▼検診を受け、医者にかかって、あれこれ薬を服用し、生活に制約をかけるよりは、人との交流を保ちながら、のんびりと生きたほうがよい、ということのようだ。
(2022.2)
半藤一利『歴史と戦争』幻冬舎新書
自称「歴史探偵」の著者は昨年1月死去。いろんな著作からセレクトされた短文集。
▼江戸時代までは「島国に生きる知恵」があった。礼儀作法、自然を大事にする、足るを知る気持など文化伝統の塊〜圧縮空気のようなものに国が乗っかていた。それが復元力になっていた。
▼勝海舟、西郷隆盛を高く評価している。
山県有朋は「現人神思想」など、後世に大きな影響を与えた。「大日本帝国は山県が亡ぼした」
▼「戦陣訓」は名文であった。島村藤村が校閲し、志賀直哉、和辻哲郎もチェックした。
▼戦後、日本を米英中ソ4か国で分割統治するという案があった。スターリンが北海道の北半分を要求し、トルーマンに拒否された。
▼戦時下に生をうけた日本人はだれもが一生をフィクションのなかで生きてきたといえるのではなかろうか‥‥と結んでいる。
(2022.03)
向井嘉之『野辺からの告発 イタイイタイ病と文学』能登印刷出版部
イタイイタイ病を語り継ぐ会代表である著者の「自費出版」の形をとった本。イタイイタイ病をテーマにした文芸作品を紹介し、その背景を記す。
▼岩倉政治さんがいちばん多く取り上げられている。詩二編と短編小説の全文が収録されている。本人は「小説家」よりも「詩人」と自覚し自称していたとのこと。
何度か自宅にもお伺いしたことがある。奥さんの看病をしていたころ、タオルではちまきをして、動き回っておられたのを思い出す。
▼奥田史郎の詩「骨と皮」が全文収載されている。昭和44年『詩人会議』に掲載されたとのことだが、記憶にない。そのころ、すでに離れつつあったのかもしれない。
(2022.03)
堤未果『デジタル・ファシズム』NHK出版新書
冒頭で英国のSF作家アーサー・C・クラークの言葉「テクノロジーはある地点から、専門家以外には魔法と区別がつかなくなる」を引用している。
版元は違うが『日本が売られる』(幻冬舎)の続編のような位置づけらしい。
▼第一部は政府(行政)、第二部はマネー(通貨)、第三部は教育を扱っている。
いろんな分野での新自由主義的なデジタル化がおし進められ、その中心に竹中平蔵がいる。
▼デジタル化が進めば、市町村などという行政区分は意味がなくなる。現金がなくなれば、すべてのマネーが管理下におかれる。タンス預金などは昔話に。政府が力を入れる「GIGAスクール構想」で教育のデジタル化が進めば教師を不要にし、「人間教育」などは消え去る。
▼デジタル産業の<今だけ金だけ自分だけ>‥金儲け主義が優先。いろんな場面で平蔵が旗振りをしている。(2022.04)
白井裕子『森林で日本は甦る』新潮新書
著者は早稲田大学理工学部出身で慶応大学准教授。
そういえば、坂村健は慶大卒〜東大教授。上野千鶴子は京大卒〜東大教授。この著者も、かなりのやり手なのかもしれない。
▼日本の建築基準法には自国の伝統木造は存在しない。そのため、日本の森林資源が活かされない。国産の木材が生かされず、どんどん値下がりしている。
▼林業への補助金支給が、むしろ林業のあり方を損なって、林業を衰退させている。
▼「森と木をめぐる問題は日本社会の欠点を映し出す鏡だ」と結論づけている。 (2022.05)
武井彩佳『歴史修正主義』中公新書
たまたま3冊連続して女性が著者の書籍を読んだ。それだけ女性が活躍しているということだろうか。
▼サブタイトルは「ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで」。
冒頭、「近年、何が事実で何が嘘なのか、境界がはっきりしない世界が拡大した」という言葉から始まる。
▼「歴史の見直し」と「歴史修正主義」の違いは何なのか、難しいところ。歴史修正主義や陰謀論の論理には、結論が先にあって、厳密な検証を回避するという共通の特徴がある。
▼さすがは歴史学者、さまざまな事例がが紹介されている。ホロコースト否定を禁止する、あるいはジェノサイド否定を禁止する「歴史の司法化」がひろがっている。とはいえ、「歴史を法的にガバナンスするという考えには、歴史の研究者としてはやはり反対である。歴史の言説を法で管理することは、両刃の剣だ」と著者は言う。たしかに、そう思うが、では、どうすればいいのか? 特効薬はなさそうだ。
(2022.06)
浜野高宏、新田義貴、海南友子『原子の力を解放せよ』集英社新書
著者らはNHKのスタッフ。
2020年8月15日(土)にNHKで放送された特集ドラマ「太陽の子」の企画がきっかけになって、ドキュメントの取材が行われた。2020年8月16日に放送されたBS1スペシャル「原子の力を解放せよ〜戦争に翻弄された核物理学者たち〜」とタイトルが同じ。その取材経過を記している。
▼日本における原爆開発の拠点は二つ。理化学研究所仁科芳雄博士の率いる「ニ号研究」
と京都帝大荒勝文策博士の率いる「F研究」だった。仁科らは陸軍、荒勝らは海軍からの要請に基づく。そのうち荒勝らの研究経過に焦点をあてる。
▼広島の原爆について、いちはやく荒勝らのグループが調査に入ったが、9月、枕崎台風のため、多くの研究スタッフの命を失った。「京大原爆災害調査班遭難記念碑」が建てられている。
▼終戦時、京大ではサイクロトロンを建造中だったが、GHQにより破壊された。理化学研究所、阪大のサイクロトロンも破壊された。連合国は原子エネルギー研究禁止を決議。
▼1954.3 京大の清水榮らが第五福竜丸の調査にあたり、ビキニ環礁の爆発は核融合反応であることを解明(清水レポート)〜核兵器廃絶をめざす「バグウォッシュ会議」につながる。
(2022.07)
鈴木冬悠人『日本大空襲「実行犯」の告白』新潮新書
サブタイトル「なぜ46万人は殺されたのか」。
著者は富山県出身のNHKディレクター。2017年8月放送、BS1スペシャル「なぜ日本は焼き尽くされたのか」の取材がもとになっている。
▼第二次世界大戦当時は「陸軍航空軍」〜独立して「空軍」となったのは1947年。
ミッチェル、アーノルド、ハンセル、ルメイなど、空軍独立を追い求めた幹部らが紹介されている。
一般市民への空爆を禁じた「ハーグ空戦規則案」にもとづき、当初は「精密爆撃」を試みるも失敗に終わる。超高高度からの精密爆撃は日本の気象条件では無理だった。
▼ハンセルの後任ルメイは焼夷弾爆撃に舵をきる。低空での無差別爆撃が成果を挙げた。
現場では、焼夷弾で日本は降伏する、との見方が主流だったが、上層部は原爆を実戦で使うことを優先した。結局のところ、空軍の地位を築き、戦争に勝つ、それが最優先であった。
▼戦後、アーノルドは空軍元帥、ルメイは空軍参謀総長に就任。ミサイルの時代となり、ふたたび「精密爆撃」を追及している。
▼膨大な録音テープなどをもとに取材している。そのような資料を外国の報道関係者に公開することに驚ろく。日本では出来ないだろう・・・
(2022.07)
エマニュエル・トッド(大野舞・訳)『第三次世界大戦はもう始まっている』文春新書
タイトルから、陰謀論か歴史修正主義か、と心配になるが、そうでもなさそう。
著者はフランスの人類学者であり、ソ連崩壊やアラブの春、英国のEU離脱などを「予言」した実績があるとのこと。政治・経済だけでなく、社会的文化的な背景にスポットをあてる。
▼ウクライナ戦争の落としどころが見えない。いくらウクライナが頑張っても、いくら西側が軍事援助しても、ロシアに勝利するのは不可能だろう。かといって、ロシアが勝利できるかというと、そうもいかない。ずるずると長期化し、やがて世界の二分化、直接軍事的衝突へと進めば絶望的な「世界大戦」だ。
▼ヨーロッパとロシアの接近、日本とロシアの接近がアメリカの戦略的利益に反する。そこで平和的関係が築かれてしまえば、アメリカ自身が”用済み”になってしまう。「世界の不安定がアメリカには必要」と著者は言う。
▼ウクライナ「支援」がウクライナ「破壊」になる。そもそもソ連邦が成立した1922年以前に、ウクライナ、ベラルーシも「国家」として存在したことはない。この先は、ウクライナ分割&消滅になるかもしれない。
▼戦争に依らずに国家間の問題を処理できるようなシステムがあればいいのだが、武力の上をいく「力」は、ないものか・・・
(2022.08)
おきなわ住民自治研究所編『平和で豊かな沖縄をもとめて』自治体研究社
出版に関わっている旧知の人から「読んでください」と送られてきた。2022年は沖縄の「本土復帰50年」、いまだに沖縄の経済構造、社会構造はいびつな状態にある。
▼10人の著者が、それぞれのテーマについて執筆している。図表がたくさん引用されている、学術論文的な文章。読みやすい本ではない。
▼日本の降伏により、本土の場合、統治機構はGHQの統制下で残され、間接占領だったが、沖縄では直接占領の状態がつづいた。サンフランシスコ講和条約(1952)は米軍統治の継続を容認する。本土復帰(1972.05.15)以後も国の米軍優先政策が続く。
▼沖縄の貧困問題は深刻。子どもの貧困率は、全国平均の2倍強。
生活保護率は都道府県別で全国1位。国民年金の低所得などによる保険料全額免除が60%。
持ち家率は全国平均61.2%、沖縄は44.4%で全国最下位。
▼1人当たり県民所得は復帰後増加してきているがH30年で国民所得の74.8%。第3次産業偏重の産業構造&非正規雇用中心。まだまだ課題が山積している。
(2022.09)
適菜収『それでもバカとは戦え』講談社
著者(てきな・おさむ)は山梨県出身、早稲田大学卒、西洋文学専攻。日刊ゲンダイの連載記事(2019.1〜2021.8)をまとめたもの。
▼バカのトップはは安倍晋三。「66歳児」「絵に描いたような国賊」と評する。無知は怖いが無恥はもっと怖い。「ああいうものを支持する日本人のメンタリティー」を問題視する。
▼百田尚樹が2回ほど登場する。「桜を見る会」にも招待されていた。
百田の「日本国紀」は誤りやコピペだらけのトンデモ本だが、指摘されても堂々と開き直る。
▼三浦瑠麗=自称「国際政治学者」も何回か登場する。TVで見かけることがあり、タレントかと思っていた。安倍や竹中平蔵と近しいらしい。
▼菅義偉は「知恵も回らなければ、舌も回らない」とのこと。舌だけ回るのよりマシかもしれない。
▼竹中平蔵も登場する。竹中が会長の五輪スポンサー「パソナ」は純利益1000%増!。五輪関係の贈収賄が事件化しつつあるが、竹中まで暴けるかどうか? 検察に期待しよう。
(2022.10)
保阪正康『歴史が暗転するとき』日刊ゲンダイ・講談社
日刊ゲンダイの連載記事「日本史縦横無尽」を再編集してまとめたもの。
▼ウクライナ侵攻をまっさきに取り上げている。プーチンはスターリンを模倣している。
「プーチン政権は倒れる。ひとつは内部崩壊。もうひとつは国際社会の圧力で国家が破綻。
ソ連、ロシアの20世紀が全て壮大な実験の失敗だったとレッテルが貼られるのもやむを得ない」と予想している。
▼秩父宮(昭和天皇の弟)は1937年ヒトラーに会っている。かなり印象が悪かったようで、ヒトラー嫌いを貫いた。日本社会も当初はヒトラーに批判的だった。「わが闘争」日本語版出版に際して有色人種を見下し日本人を侮蔑する部分が削除された。
▼安部定事件はメディアで大きく報じられ、二・二六事件を忘れさせるために利用された。
(2022.11)
高橋源一郎『ぼくらの戦争なんだぜ』朝日新書
膨大な読書量に圧倒される。著者は室井佑月の元夫。5回の結婚歴あり。多才・多情な人らしい。
▼鶴見俊輔の「教科書と先生たち」をとっかかりに戦争と教科書を考察。日本文学報国会「詩集・大東亜」と戦時中の幻の詩集「野戦詩集」を対比しながら、多くの詩を引用して考察。
▼大岡昇平『野火』を何度も読み返したとのこと。「ほんとうに素晴らしい小説だ」、「正しくない」戦争について書かれた、「正しい」小説…と高く評価している。私も『野火』を文庫本の表紙が擦り切れるほどくり返し読んだことを思い出す。
▼戦時中の本として、向田邦子『ごはん』、林芙美子『放浪記』、古山高麗雄『白い田園』、金子光晴『おっとせい』、後藤明生『夢かたり』などを紹介。
▼さいごに「戦争小説家」太宰治に1章をあてている。ものを書くことが難しかった戦争の時代に、多くの傑作を書き続けた。
(2022.12)
ダイモンジソウ(大文字草)