BOOK2000
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 《1999|2000− 101112 | 2001



2000年1月

○山藤章二・尾藤三柳・第一生命『平成サラリーマン川柳傑作選・第九集』講談社
 毎年出版されるのを楽しみにしている。が、田舎の書店では初版初刷がなかなか手に入らない。故障ナシ昔なつかし黒電話/パソコンを叩いて直す五十代----我が家では、しょっちゅうファックスを叩いている。2000-01-09

○原子力資料情報室『恐怖の臨界事故』岩波ブックレット
 99年9月30日、JCOの臨界事故が発生し、第一報を受けた原子力資料情報室のスタッフも半信半疑だったという。「起こってはならないこと」を「起こりえないこと」として、安全対策を怠り、「安上がりの原子力発電」というタテマエを通すためにあらゆる手抜きをしてきた。そのツケがこの数年で一気に噴出してきた感がある。2000-01-10

○井上ひさし『わが友フロイス』ネスコ/文芸春秋
 30年余日本とかかわりをもちつづけたイエズス会の宣教師フロイスの物語。布教する側と布教される側の本音が井上流のユーモアで描かれている。井上氏はカソリックのはず。破門になる心配はないのだろうか? 2000-01-13

○春山満『介護保険・何がどう変わるか』講談社現代新書
 著者は介護機器を扱う会社を経営し、進行性筋萎縮症で介護される身でもある。広い見聞と実体験にもとづく発言には説得力がある。日本のベッド数は過剰だというが、アメリカのナーシングホームまで含めて考えると、日本の介護施設はまだまだ不足している。 2000-01-29

○高柳新+増子忠道『介護保険時代と非営利・協同』同時代社
 「民医連」という左派系医療団体のなかで、たがいにライバルとして夫々の道を歩いてきた二人の対談集。高柳氏は医科歯科大の先輩。学生時代にはお世話になった。敵対すると怖いが、仲間には面倒見のいい、下町の餓鬼大将といった印象の人である。出版社が川上徹の同時代社というのが腑に落ちない。2000-01-30

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2000年2月

○近藤篤弘『カメラ片手に花散歩を楽しむ本』講談社
 草花の写真とその解説(草花の薀蓄)、その合間に撮影のノウハウが入っている。「数を追うのではなく、楽しむのが一義」と著者は言う。たしかに、私も数を追っていた。美しい写真を見て、やはり一眼レフでないとなぁ--とは思うけれども、やっぱりお手軽なデジカメを片手に今年も野を歩こう。2000-02-10

○テリー伊藤『一言絶句』カッパブックス
 「創句とは俳句にも、川柳にも、短歌にも入らない、ユニークな短い言葉」なのだ。瀬戸際の花嫁、平壌心、寝たふり老人、といった短いものから、2〜3行のものまでさまざま。なにせ面白い。前書きに「電車の中で読まないでください」とある。2000-02-12

◎山口二郎『危機の日本政治』岩波書店
 日本社会全体が「臨界」状態に近づきつつある(序)との認識から緊急出版されたという。決して明るい見通しも、対応の決定打もない。著者はまた「日本政治は、いわば恐竜時代の末期」ともいう。大混乱のうちに崩壊する日がやがてくる。それに備えなければならない。「あとがき」で「政治家も学者も市民も、それぞれが一剣を磨く」ことを求めている。2000-02-18

○武田邦彦『リサイクルしてはいけない』青春出版
 挑戦的なタイトルである。多くの場合、リサイクルによってよりおおきなエネルギーを消費し、環境を汚染する。リサイクル信仰の落とし穴だ。ゴミの発生を抑えつつ、焼却して灰を「鉱物資源」として貯蔵することを著者は提唱している。焼却のコストと埋め立てのコストの評価が甘いような気がする。2000-02-24

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2000年3月

○郷津久男『信州過疎村報告』小学館文庫
 著者は長野県小谷村村長。平成7年7月と8年12月の災害について詳述している。また、過疎の村の財政状態や、山村留学、観光開発などにも触れる。栂池、白馬乗鞍、コルチナ国際と、3つのスキー場を擁する村だ。2000-03-06

○司馬遼太郎『この国のかたち・六』文芸春秋(文春文庫)
 海軍、日本語がメインテーマ。「文芸春秋」に掲載された「役人道について」も収録している。この本は『この国のかたち』の完結編である。当初、司馬さんは「この土のかたち」というタイトルを考えていたという。2000-03-12

○「世界」編集部編『民主主義の危機』岩波ブックレット
 99年11月に行われたシンポジウムの記録。著者の中に山口二郎の名前を見て、買う気になった。近著と同じ議論であるが、「具体的な政治課題から逃避して、どんどん抽象的な改革論議にエスカレートしていく<せりあげ>現象がおこっている」という指摘は核心を得ている。永田町をあきらめて、地方での民主主義の実践に期待しているように見える。言い換えれば、国政に愛想を尽かしている。他の著者の言葉から----「日本列島オール臨時工化」(鎌田彗)、「(巨大与党を支えるのは)人びとの不安です。〈正直者の不安〉と〈善人の動揺〉をアジテーションしていく----官僚の狡知と政党の責任放棄=法の下克上〉」(前田哲男)など。2000-03-28

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2000年4月

○橘木俊詔『セーフティ・ネットの経済学』日本経済新聞社
 公共投資から社会保障へ、人口構造の変化が経済の変化を促し、かつて経済学の傍流の存在だった社会保障の分野に有能な経済学者が参入している。ときには現場を知らないピンぼけな議論も見かけるが、橘木氏の緻密かつ綿密な議論の展開は要注目。本の帯に「どれくらい”安心できる国”か」とある。さまざまなデータから、日本はきわめて”不安な国”と言うしかないようである。2000-04-11

○橘幸信『NPO法』大蔵省印刷局
 NPO法への関心から手にとった本だが、「議員立法」の典型例として、また、「市民立法」の萌芽として、その成立過程も興味深い。著者は「特定非営利活動促進法」に「衆議院法制局」の職員として関わった人物である。2000-04-13

○岡本祐三『介護保険の教室』PHP新書
 介護保険制度の構想段階から深くかかわってきた著者による最新の書。介護保険の理念・理想を知るには手ごろな本である。制度に問題点は多々あるが、いずれにせよ、介護保険は壮大な実験的な事業であり、日本の民主主義・地方自治の試金石だ。2000-04-16

○新藤宗幸『選挙しかない政治家・選挙もしない国民』岩波書店
 厳しく的を得たタイトルだ。行政手続法に関する著書を読んで、その歯切れのいい論理に引かれている。いつかテレビで顔を見たことがある。目つきの鋭い、怖そうな人だった。それはともかく、この本から元気づけられた一節--「戦後経済発展がもたらした教育水準の向上によって、市民の政策技術は官僚制のレベルを超えている--問われているのは、このことを踏まえた新しい知のセクターの組織化である」(126p)2000-04-24

○湯川豊彦『選択・定年田舎暮らし』宝島社新書
 都会人から見れば十分な田舎暮らしをしていながら、ときどきこの種の本を手にとる。本格的な田舎暮らし(半農業)をするには、体力も勤勉さも足りないので、どうも実現できそうにない。ほんとうのところは「遁世」を求めているのだ、と自分を観察している。2000-04-28

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2000年5月

○馬場悠男・金澤英作編『顔を科学する!』Newton Press
 生物としての「顔」、霊長類の「顔」、人種・歴史・文化からの考察など、幅広く「顔」を扱っている。歯に焦点をあてた章が3つある(全11章のうち)。「あなたは、ウインクができるだろうか」という書き出しは興味をかきたてる。2000-05-02

○今井照『地方自治のしくみ』学陽書房
 官治集権から自治分権--地方集権と言う人もいるが--地方自治法の改正は相当に広範であるらしい。実のところ、基礎知識がないために、何がどう変わったのかよく理解できない。ともすれば、書生論的な天下国家を論じることはできても、身近な地方の政治を考えることができない、という大きなギャップが存在する。市長の名前は知っていても、議長や助役はもとより自治体幹部の名前も知らない。マスコミの責任もあるが、身近であるはずの地方自治体が、とても遠い存在になっている。2000-05-16

○石ノ森章太郎『マンガ日本経済入門』日本経済新聞社
 マンガとはいっても、同シリーズ Part4までの縮刷合本だから、ボリュームからして読み応えがある。S62年当時143兆円で「危機的」とされた国債残高は、いまや500兆円だ。2000-05-27

○松本善明『妻ちひろの素顔』講談社
 「いわさきちひろというと....生前を知っている人は、はにかむような笑顔であいさつするちひろを思い出すでしょう」。たしかに....学生時代に、ちひろの講演を聞いたことがある。お茶の水女子大の学園祭ではなかったかと思う。しかし、そんな外見からは想像できないほど「スポーツウーマン」であり、しっかり者だった。「平和と子どもの幸せ」が彼女の生涯のテーマだった。2000-05-28


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2000年6月

○いがりまさし『野草のおぼえ方(上)』小学館
 タツナミソウの写真に北斎の絵がならんでいたり、オカトラノオの横に本物の虎の尾の写真が配されていたり、読み物としても面白い。上巻は春から初夏までの草花を扱っている。2000-06-06

○藤沢周平『橋ものがたり』新潮文庫
 衆議院選挙は、与党が大幅に議席を減らしたものの安定多数を占めた。時代は逼塞感につつまれている。こんな時だからこそ、気持ちを切り替えて「人情もの」を読むのもいい。2000-06-25

○大山友之『都子聞こえますか』新潮社
 著者から「新川時論」あてに贈呈された。真摯に生き、子を育て、子もまた真摯に生き、孫ができ、すばらしい家族を築いてきた。それが、身勝手なカルト集団オウムの手で一瞬にして破壊された。娘の遺体を見た大山さんは「確かに、この姿(カタチ)、見届けた!」と言い聞かせた。終章で、 魚津での追悼コンサートのことが紹介されている。2000-06-30

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2000年7月

○高山文彦『火花』飛鳥新社
 20歳(昭和9年)から23歳(昭和12年)まで、ハンセン病の全生病院で、火花のように作品を発表し夭折した北条民雄の生涯を、川端康成との交流にスポットをあてながら描く。第31回大宅賞受賞。このときの選考での評価はずば抜けていた。「10年に一度の作品」とまで賞賛する委員もいた。2000-07-07

○石堂徹生『ムラの欲望』現代書館
 農学部を卒業後、農業と無関係な仕事をしてきた著者の「卒業論文」だ--と、あとがきで言っている。会津地方の「土地改良事業」に反対する農家をおもに取材したルポルタージュ。「農業基盤整備事業の正体は、実は”兼業基盤整備事業”」であって、汚職の温床。村人や土木事業者、官庁の欲望・利権が絡み合いながら、事業がすすめられていく。がんじがらめの農水省公共投資の姿にはため息がでる。2000-07-17

○司馬遼太郎ほか『司馬遼太郎の日本史探訪』角川文庫
 ひさしぶりに司馬遼太郎を読んだ。源義経からはじまって、明治維新後の北海道開拓まで、歴史上の人物を中心に語った対談集。おもにNHKの番組を再構成したもの。2000-07-27

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2000年8月

○松本修一『共感のマネジメント』大阪ボランティア協会
 所属する団体の役員用教材として配布された。著者は本田技研に長年勤めたマネジメントの専門家である。それが、ボランティア活動に参加し、市民団体の運営にもマネジメントの手法が必要であり、有効であることを痛感して著したもの。企業は利益を求めるマネジメントであるのに対し、市民団体のそれは「共感のマネジメント」だという。2000-08-08

○E・ケストナー『ケストナーの「ほらふき男爵」』ちくま文庫
 ナチス支配のもと執筆禁止となっていたケストナーの「再話」もの。表題のほかに、ガリバー旅行記、ドン・キホーテ、長靴をはいた猫などを収める。2000-08-10

○いがりまさし『野草のおぼえ方(下)』小学館
 下巻は夏から秋の草花を扱っている。名前の由来や、類似したものの鑑別点を解説してあり、読み物としても面白い。2000-08-13

○朝日健二『利用者とオンブズマンのための介護保険ガイド』桐書房
 これは入門書ではない。かなり細かい運用上の解釈まで解説してある。実務には更に細かい解説が必要だが、表題にあるように、オンブズマンなどの活動家には手ごろなハンドブックだ。2000-08-30

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2000年9月

○笠原浩『入れ歯の文化史』文春新書
 著者は、いろんな意味で師匠にあたる方である。前半は幅広い歴史的エピソードを織り込んだ歯学史として興味深い。後半は一変して、一般向けの解説になる。中間の第5章あたりが、最も言いたい著者の医療論なのであろう。2000-09-10

○俵浩三『牧野植物図鑑の謎』平凡社新書
 日本の植物の千数百種に学名をつけた牧野富太郎はあまりにも有名だ。その「図鑑」刊行にまつわる村越三千男との確執の謎解きから始まって、当時の学界や出版界、教育界の姿を描いている。牧野は、一方では無学歴ながら実力でアカデミズムと対峙し、一方では市民への啓蒙に力を注いだ。2000-09-24

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2000年10月

○永六輔『夫と妻』岩波新書
 夫婦とは何か?と理屈で詰めていっても、結局はわけがわからなくなる。いろんな有りようを、当人たちが幸せと思うなら是とするしかない。2000-10-12

○佐藤俊樹『不平等社会日本』中公新書
 橘木俊詔氏の「日本の経済格差」は経済学的な立場からの衝撃的な著作であった。この本は社会学からの「不平等」へのアプローチである。ちょうど団塊の世代が社会の中堅になる頃から、エリート階層が固定化(階級化)され、「努力してもしかたない」社会に変化しつつある。希望も責任感もない空虚な時代を切り開く処方箋は、機会の多元化とセーフティネットということになるだろうか。2000-10-14

○松下和夫『環境政治入門』平凡社新書
 「政治」の拡大概念についての検討から始まる。いま、国連が正式にNGOを認知し、そのエネルギーを取り込んでいる。そういう新しい局面を評価する一方で、米国の情緒的な「自然」保護に対する皮肉は、日本の一部の環境保護運動にもあてはまる。2000-10-23

○甲斐崎圭『第十四世マタギ─松橋時幸一代記』中公文庫
 介護の町で有名になった秋田県鷹巣町の近く、現在の阿仁町比立内のマタギの生活を描く。自然を畏れつつ自然と闘い、恵みを得る。こういう話を語ってくれる人も希少になってきたことだろう。2000-10-26

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2000年11月

○塩野七生『ローマ人への20の質問』文春新書
 ローマ人と日本人との共通点は多神教と風呂好き。歴史のデテールをあくまで追求する塩野女史のさすがの視点が面白い。2000-11-01

○井上英夫『高齢者の人権が生きる地域づくり』自治体研究社
 「人権」を中心に据えて社会保障・福祉を論じる。こういう視点は最近は珍しいくらいだ。高齢者に対して、社会のお荷物とするような見方が、政策として、またマスコミの論調のなかに蔓延している。そんな風潮が、ちかごろ高齢者の声が聞こえてこない状況をつくりだしている。2000-11-02

○住田健二『原子力とどうつきあうか』筑摩書房
 著者は原子力安全委員として、原発推進の立場にあり、JOC事故の際に現地で「水抜き」で臨界を止める作業の指揮をとった。「危険なものを正しく怖がること」を強調する。基本的立場としては原発推進にはかわりはないが、その真摯な姿勢に好感が持てる。2000-11-03

○吉田新一郎『会議の技法』中公新書
 実に会議は多い。そのほとんどはつまらない。この本では斬新な技法が数多く紹介されている。あまりに斬新すぎて、はたして現場で受け入れられるのだろうか、と疑問も感じる。2000-11-12

○池上彰『日本語の「大疑問」』講談社+α新書
 著者はNHK「週刊こどもニュース」のお父さん役を務めるアナウンサー。カタカナことばの「仲間うちアクセント」や、フリーマーケットのフリーはflea(蚤)であることや、「おみおつけ」が「御御御つけ」であること、などなど、おもしろいエピソードがふんだんに入っていて楽しく読める。2000-11-15

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2000年12月

○川崎洋『こどもの詩』文春新書
 読売新聞に掲載された「こどもの詩」からの選集。川崎氏の「ことば集め」の巧みさが発揮されている。もっとも、「こども」とはいっても小学校高学年くらいからは、何かわざとらしい技巧がはいってきたりする。低年齢の子どもの言葉は実に面白い。2000-12-3

○藤正巖・古川俊之『ウェルカム・人口減少社会』文春新書
 「少子高齢化」を著者らは「人口減少社会」と言い換える。「子孫を残すことが困難だから多く産む」社会から「少なく産んでうまく育てる」社会への変化だ。GDPが頭打ちになったとしても、人口が減るのだから、1人当りGDPは減らない。少子高齢化の危機をあおり高齢者をバッシングする政治とマスコミに対する、小気味よい反論。少々感情的な言辞も混じるが・・・・ 2000-12-26

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大文字草

ダイモンジソウ(大文字草)