−読書録−
《1997|1998−
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1998年1月
○土門拳『写真と人生』岩波同時代ライブラリー ISBN4-00-260321-0
リアリズム写真の土門拳のエッセイ集。以前、酒田の「土門拳記念館」を訪れたことがある。襖ほどの大きさに引き伸ばされた写真のシャープさに圧倒された。このエッセイ集は、時代ごとに漏れのないように編集されている。残酷なようだが、戦時中の国策翼賛の言辞も、あえて収録してある。(1998-01-08)
○高齢社会をよくする女性の会編『公的介護保険Q&A』岩波ブックレット ISBN4-00-003356-5
法案成立前の出版だが、制度の仕組みを概観するのに適した小冊子。編者は樋口恵子氏ら「保険」派の論客であり、基本的には制度の創設に賛成の立場である。しかし、問題点についても隠さずにとりあげているところは京極氏などとちがい好感がもてる。(1998-01-12)
○スージー・ベッカー(谷川俊太郎・訳)『大事なことはみーんな猫に教わった』小学館 ISBN4-09-402141-8
猫の生態から人生を学ぶ絵本。水彩のイラストに、「踏まれたら怒れ。踏まれたことを忘れよ」といった短い文が添えられている。こんなのも・・・「夜はいったい何してるんだと不思議に思わせること」──あまりに品行方正でガラス張りの生活態度のせいで、ワイフにも侮られているのかもしれない。(1998-01-18)
○広井良典『ケアを問いなおす』ちくま新書 ISBN4-480-05732-3
いま最も注目すべき社会保障分野の論客。東大哲学科で科学哲学を専攻し、86年厚生省へ。若手キャリアの中で頭角をあらわす。96年、厚生省を退職し千葉大助教授(社会保障論)。権力ではなく能力によって、いまも厚生省の政策立案に大きな影響力を及ぼしている。
1章は哲学的論議、2〜4章は「医療」と「福祉」さらには「経済」をめぐる問題提起。5・6章はふたたび哲学の色を帯びる。著者のアタマの回転についていくのが大変である。著者は5章以降が主題だと述べているが、むしろ2・3章から多くの示唆を受けた。(1998-01-20)
○井澤英二『よみがえる黄金のジパング』岩波書店 ISBN4-00-006505-X
金鉱床のなりたちを解説。ところどころ専門的でついていけないところもあるが、大陸型の鉱床と、島弧型の鉱床があり、後者の生成メカニズムの研究が進み、火山活動にともなう熱水によって今もつくられつづけているらしい。90年以降、日本には有望な鉱脈がつぎつぎと見つかっている。ちょっぴりフトコロが暖かくなったような気になる本。(1998-01-22)
○フォレスト・カーター(和田穹男・訳)『リトル・トリー』めるくまーる ISBN4-8397-0064-8
リトル・トリー(little tree)とは、著者のインディアンネームである。1930年頃、両親に死に別れた幼い著者の、祖父母との森の生活。純朴で誇りたかいインディアンの心、森の自然を描くディティールがすばらしい。訳書にありがちな不自然さがない。訳者が画家でもあることが与っているのだろうか。心が洗われる書。(1998-01-24)
○高橋伸彰『数字に問う日本の豊かさ』中公新書 ISBN4-12-101295-X
「統計を利用したり、あるいは隠れ蓑にした政府発の通説や俗説が、世の中に少なからず氾濫している」(序章より)と説きおこす著者自身が政府系機関(開銀)に身を置いている。医療関係にも4章が割かれている。勇気ある発言ではあるが、欲をいえば、政府の見解や政策などを具体的に名指しで批判してほしかった。クビが飛ぶかもしれないが・・・(1998-01-27)
1998年2月
○林道義『父性の復権』中公新書 ISBN4-12-101300-X
「父が父でなくなっている」という書き出しに引かれて読んでみた。秩序や規範について、権威と権威主義についての考察は教えられる。そして、「団塊の世代」に対して厳しい批判が繰り広げられている。その団塊のひとかけらの私にとって、子どもらが成人し、父の役目も終わりかけているのだから、後の祭である。(1998-02-03)
○小此木潔『財政構造改革』岩波新書 ISBN4-00-430539-X
時宜に合ったテーマなので手にしたが、なかなか読み進まなかった。どうもスラスラと読めない。引用が多いせいかとも思う。忙しくて細切れの読み方だったせいもある。自分の頭が老化しているのかもしれない。よく引用される数字だが、米国の半分の人口・25分の1の国土の日本が米国と同じ量のセメントを消費している。「日本の破局への道は公共事業によって舗装されている」(ニューヨークタイムズ) この構造を変えないで何の改革か。(1998-02-26)
○斎賀秀夫監修『故事ことわざ物語』大蔵省印刷局 ISBN4-17-400040-9
200余りの中国のことわざをマンガで解説している。印刷・製本も出来がいい。さすが大蔵省。だが、このような娯楽教養に関する出版は「官業」として行うべきことではない。民間に任せればよい。「大蔵省印刷局・業務部普及管理官室」宛の読者カードに、そう記して投函した。 (1998-02-27)
1998年3月
○小沢昭一『イケイケ・どんどん−小沢昭一的こころ』新潮文庫 ISBN4-10-131312-1
このシリーズの9冊目。ラジオ放送のほうはなかなか聴く機会がない。あの語り口を、頭の中で再生しながら読む。脳味噌のマッサージ。(1998-03-02)
○西原克成『生物は重力が進化させた』講談社(ブルーバックス)ISBN4-06-257197-8
実験進化学とでも呼ぶべきなのだろうか。ホヤを泳がせたり、サメの軟骨を硬骨に変えたり、さまざまな実証的研究を通じてダーウィン的進化論(突然変異+自然淘汰)に批判を加える。行動様式の変化こそが進化のカギであり、そこに働くのが重力だ。(1998-03-04)
○奈河静香『小説新人賞は、こうしてお獲り遊ばせ』飛鳥新社 ISBN4-87031-313-8
一次選考の「下読み」をしているという謎のお嬢さまの著した書。なるほどこうやって選考しているのか、と知らされる。書きたいものと、読みたいもの、本にしたいもの−−それぞれのズレが面白い。「賞」をとるために役にたつのかどうか分からないが、もしもまかりまちがってそんな気になったら、もういちど読み直そう。(1998-03-05)
○門野晴子『ワガババ介護日誌』海竜社 ISBN4-7593-0533-5
新聞に連載中、ときどき読んで、その勢いのいい文体から、40歳くらいかせいぜい40代半ばだろうと思っていたら、著者は還暦だという。翔んでる女性のさきがけの年代か。ともあれ、84歳の実母を介護する還暦バツイチの娘、実の母子の老老介護はけたたましい。(1998-03-06)
○米山公啓『医者も歩けば』幻冬舎文庫 ISBN4-87728-530-X
著者は聖マリアンナ医科大学の助教授。副題は「大学病院風雲診療録」となっている。内幕暴露モノというほどのものではないが、医師の本音、医師どうし、医師と患者の微妙な関係が楽しく描かれている。(1998-03-07)
○フィリップ・グロード『おとしよりに太陽を』労働旬報社 ISBN4-8451-0463-6
神父として来日、函館に特別養護老人ホーム(旭ケ岡の家)を建設し施設長となったフランス人。欧米流の視点からの日本の老人福祉への批判は鋭い。とくに、老人医療への批判は容赦ない。「どうして優秀な日本で障害老人の対策ができないのか」という問いかけが諸所にでてくる。(1998-03-12)
→参照:グロード神父 福祉を語る
○中村明『文章工房』ちくま新書 ISBN4-480-05725-0
この著者の本を読むのは何冊目だろうか。ともかく、この種の著書が多い。読んだから、それで文章が上手に書けるようになる、というものではない。この本は基本的な文章の操作方法とでもいう内容。句読点や括弧・記号の使い方の基本などは、読みやすい文章、わかりやすい文章を書くための技術として参考になる。(1998-03-16)
1998年4月
○西村有史『エイズ患者診ます』青木書店 ISBN4-250-97031-0
エイズとは違う問題で著者と知り合い、この本を頂いた。血液製剤によるエイズ感染には、薬害問題が極めて深刻な形であらわれた。いろんな意味で、日本の医療の問題点の縮図といえようか。著者の医療にとりくむ姿勢や、医師として、迷いながらもエネルギッシュに前に進む姿勢に感服。98-04-02
○菊地昭典『アサノ知事の冒険』岩波書店 ISBN4-00-260337-7
97年10月、宮城県知事選挙の、内側からのドキュメント。政党の推薦を辞退し、シロウト集団が選挙をたたかう。当選をめざすために計算しつくされた選挙運動ではなく、それは「お祭り」であり、「民主主義のチーチーパッパ」であり、学芸会のようなどたばたであり、あらゆる面で常識破りだが、これが本当の選挙だと思う。アサノ氏がいいのかどうかは別として、このような選挙が各地で行われれば、少しは日本が変わるのではないか。98-04-07
○石田晴久『インターネット自由自在』岩波新書 ISBN4-00-430551-9
パソコンが「マイコン」と呼ばれていた頃から、この方面での啓蒙に努めてこられた石田先生の最新の著書。インターネットを中国語で「網際網路」というそうだ。さっそくHPでつかわせてもらった。ハウツーものではなく、教養書。98-04-12
○奥村美香『ボケ老人、宮下じいさん絶好調!』講談社 ISBN4-06-208841-X
著者は看護婦・助産婦・保健婦の資格を持ちながら、老人病院の付添婦として働く。付添婦は「日影」の存在だ。そこに働く人たちは、暗い人生を背負っていることが多く、また、医療のなかでの付添婦の存在も日影の存在。厚生省の役人が、「日本の医療の恥」を書類上から抹消する方策ととったために、現場は更なる混乱に陥った。最近は「ヤミ付き添い」が横行している。おもしろく明るく書かれているが、中味はシリアス。98-04-13
○奥本大三郎『書斎のナチュラリスト』岩波新書 ISBN4-00-430532-2
著者は仏文学者にして昆虫学者。水のようにさらっとした、他人の迷惑にならない文章を書きたい、という意味のことが「書き出しの辞」に書いてある。たしかに、さらりとした文体は、まれにみる名文といっていい。しかも、ところどころに深い教養がちらりと見えて、只者ではないことが伝わってくる。98-04-19
○岩合光昭・岩合日出子『海ちゃん』新潮文庫 ISBN4-10-119812-8
「海」は「かい」と読む。ネコの名前である。ネコ好きには写真を見るだけでも楽しい。人類にも、ネコに似た女性という人種がいて、なまじ知恵があるために、たいそう扱いずらい。98-04-23
1998年5月
○上條光水・CWニコル『信州の四季』講談社 ISBN4-06-208564-X
上條氏の写真とニコル氏の文章で構成された「写文集」。じつは、安曇野へ遊びに行って、碌山美術館の近くの蕎麦屋にはいったら、そこがたまたま上條氏の経営する店だった。半分が蕎麦屋、半分がギャラリーになっている。蕎麦へのこだわりもナカナカのもの。蕎麦屋に弟子入りして修行し、97年11月、「そば処・上條」を開店した。蕎麦を注文すると、最初に「水そば」が出される。湯呑みほどの容器に、真水にひたされた蕎麦が入っている。まず蕎麦そのものを味わうことを求める。穂高へ行く機会があったら立ち寄ることをお奨めする。98-05-01
○田沼敦子『ホーム・デンティスト−歯にも主治医を』ちくま新書 ISBN4-480-05748-X
著者は歯科医であり、料理研究家でもある。この種の本は、おうおうにして著者の得意分野に偏って、内容のバランスに問題のあるものが多い。強いて言えば、この本も料理の話にページが多く割かれているが、全体としてはよくバランスのとれた内容だ。98-05-08
○西村顕治『情報スーパー活用術』ちくま新書 ISBN4-480-5705-6
著者は、「クイズ日本一」のタイトル保持者であり、現在は日経新聞社でインターネット関連の部門に属している。相当な記憶力の持ち主なのだろうが、「記憶に頼るな」という。情報源は実にさまざまだ。ノウハウ本というより、情報への心構えを説いた本。98-05-09
○川上徹『査問』筑摩書房 ISBN4-480-81808-1
かつての全学連委員長(日共系)であり、「新日和見主義事件」で失脚。とうの昔に共産党を除名になったのかと思っていたら、最近(91年)まで党員だったという。政党専従活動家が失脚したときの「失業」は、つぶしがきかない。それにしても、イデオロギー政党の、内部異分子に対する圧力はすさまじい。98-05-10
○新藤兼人『生きたい』岩波書店 ISBN4-00-260336-9
以前に同氏の『現代姨捨考』を読んだとき、きっとこのテーマで映画をつくるつもりなのだろう、と思った。そして、実際に85歳にして、「生きたい」という映画を作った。その記録、対談、シナリオをまとめた本。体力の衰えを嘆きながらも、撮影をやりとげる気力はすごい。98-05-13
○篠崎次男『医療「構造改革」とはなにか』自治体研究社 ISBN4-88037-229-3
医療ビッグバン、福祉ビッグバンなどと言われ、社会保障制度が大きな曲がり角にさしかかっている。しかし、それらは国民の安寧のためではなく、財政削減のために企図されている。このブックレットは一般向けを意図しているが、包括的に解説することはなかなか難しい。98-05-22
○岩瀬徹『野草雑草観察図鑑』成美堂出版 ISBN4-415-08543-1
野草と雑草の違いなど考えてもみなかった。シロウト向きに基礎的な用語から解説してあるのがありがたい。身の回りの自然をいかに知らないか、ちかごろ反省していいる。隣人の名前さえ知らずに付き合おうとしているようなものだ。98-05-23
○林真理子『不機嫌な果実』文藝春秋 ISBN4-16-316540-1
女のずるさ、欲深さ、そして手の内をさらしてしまうな−と女性からの非難の声があるという。そんな書評を見て、読んでみる気になった。その結果賢くなったかといえば、なったような気もするが、それ以上に恐怖心が増したのは事実である。98-05-24
1998年6月
○田端英雄編『里山の自然』保育社 ISBN4-586-31206-8
山菜を摘みに里山に入り、なんとなく変化してきているとは思っていたが、エコロジーの専門家たちの目で見ると、かくもドラスティックな変化がおきていたのか、と驚かされる。林業を「森業」として、木を植えて伐採して材木にするのではなく、自然環境を商品にするというふうに、発想の転換を提唱している。98-06-06
○自治体問題研究所『社会保障の経済効果は公共事業より大きい』自治体研究社 ISBN4-88037-250-1
長たらしいタイトルそのままの内容。政府機関が発表する産業連関表を使って、実証的に数字で示しており、説得力がある。いわゆる福祉先進自治体の(経済面からの)ルポも収録されている。98-06-07
○唐沢孝一『早起きカラスはなぜ三文の得か』中公文庫 ISBN4-12-202942-2
同じ著者の『カラスはどれほど賢いか』(中公新書)を以前に読んだことがある。こんどの『早起き−−』は、カラスだけでなく、都市環境にたくましく適応している「都市鳥」を広く扱っている。カラスとユリカモメが、都市鳥の横綱格。ツバメやスズメは最古参。新顔ではインコが野生化して繁殖しているという。98-06-17
○中山徹『公共事業依存国家』自治体研究社 ISBN4-88037-247-1
著者は奈良女子大生活環境学部助教授。公共事業・公共投資の問題点についての分析は、簡潔にして要を得ている。日本は公共投資に巨額の資金を投入し、しかも公共の役にたたないばかりか環境を破壊するような大型プロジェクト中心。産業構造・政治構造が麻薬中毒患者のように公共事業を求める。公共事業で生じた財政赤字を社会保障で埋め合わせしようとしているのが財政構造改革だ。98-06-17
○井口泰泉(監修)『環境ホルモンの恐怖』PHP ISBN4-569-60069-7
いま話題の「環境ホルモン」の概説。実際の執筆はジャーナリストらしいが、監修がしっかりしていて、ヒステリックに不安を煽るのではなく、科学者の目で冷静に問題をとらえている。98-06-25
○魚住昭『特捜検察』岩波新書 ISBN4-00-430524-1
物語ふうに書かれていて、読みやすい。巨悪に挑む正義の集団という一面と、役所の一部という一面。おのずから限界もあるが、日本の官僚組織の中で、まともに機能している数少ないもののひとつと言えるだろう。 98-06-27
○藤本和典『身近な自然のつくり方』講談社(ブルーバックス) ISBN4-06-257167-6
ビオトープ(自然の復元をめざした環境づくり)のパーソナル版。そのために、身近な自然をよく観察する「感察」を提唱している。『早起きカラスはなぜ三文の得か』で、唐沢氏が、「カラスのせいで東京に黒いドバトが増えている」と言ったF氏なる人物を批判しているが、それがこの本の著者藤本氏である。98-06-28
1998年7月
○富山県ナチュラリスト協会編『とやまの自然を楽しむ』楓工房 ISBN4-906655-04-1
自然観察に好適なスポットを紹介している。鳥類、樹木の比重がおおきい。天気のいい休日が待ち遠しくなる本。98-07-05
○酒井伸一『ゴミと化学物質』岩波新書 ISBN4-00-430562-4
読むのに骨のおれる本である。学術的にしっかりと構成され、非常に重要なことが書かれていることは、伝わってくるのだが、専門的な用語や概念についていけない。この本の内容が充分に理解できる人たちには、これをテキストとして一般の読者に「読書会」のようなものを各地で行うよう提案したい。化学知識のある人の社会的責務だと思う。98-07-15
○真田是『社会保障論』かもがわ出版 ISBN4-87699-389-0
20世紀の後半(すなわち大戦後)世界に広がり上昇線を描いていた社会保障は70年代にピークを迎え、転換期にさしかかっている。社会保障理念の歴史をふりかえり、社会主義国家群の崩壊と、資本の国際化が進展するなかで、社会保障の未来を考える。著者は資本主義・自由主義体制に否定的なようで、そんなイデオロギー臭さが少々気になる。イデオロギーや体制を超えて、「発達した高次の民主主義」に夢を託したい。1998-07-18
○鷲谷いづみ・森本信生『日本の帰化生物』保育社 ISBN4-586-31202-5
帰化植物は撹乱された環境に適応して繁殖している。また、都市は砂漠の中の草地、すなわちサバンナのような環境を提供し、帰化生物が生息している。交通機関の発達、食物輸入などに伴い、政治経済にさきがけて生物界の「ビッグバン」が進行しているようだ。イワナでさえ純血種が少なくなっているという。気づかないところで環境がおおきく変化していることを知らされる。1998-07-25
○『日本一短い「母」への手紙』ISBN4-04-195701-X 『日本一短い「家族」への手紙』ISBN4-04-195702-8 『日本一短い「愛」の手紙』ISBN4-04-195703-6 『日本一短い「父」への手紙』ISBN4-04-195704-4
いずれも福井県丸岡町編、角川文庫。丸岡町が主催する「一筆啓上賞」の入選作品を集めたもの。やや美化されたものが(入選しやすいために)多いが、ときにはどきりとするようなものもある。1998-07-26
1998年8月
○田中淳夫『「森を守れ」が森を殺す!』洋泉社 ISBN4-89691-233-0
自然保護、環境保護のうねりは、多分に感情的なものを含んでいる。そこにある常識・通説・俗説には誤りが潜り込んでいることは事実だろう。それをあげつらっているようにも見えるが、しかし、著者は自然保護を否定しているのではない。1998-08-01
○林えり子『田舎暮らしをしてみれば』集英社 ISBN4-08-748774-1
東京に生まれ育った著者が長野県佐久市内山に土地を買い、家を建てた顛末記。厚化粧の文体は好みではないが、こういう本があり、こういう人がいてもいい。田舎ももっと多様であっていいだろう。1998-08-02
○山口二郎『イギリスの政治・日本の政治』ちくま新書 ISBN4-480-05764-1
著者は社会党そして村山政権の政策ブレインをつとめた。「日本の政治改革と政党再編の挫折について、イギリスを鑑としながら総括した本」(あとがき)である。「(日本は)行政の集中と政治の分散、(イギリスは)政治の集中と行政の分散」。「イギリスでは官僚経験者は絶対に選挙に出ないという不文律がある」。−−などなど、示唆に富む。1998-08-06
○毎日新聞社『地球の未来へ125の提案』毎日新聞社 ISBN4-620-31217-7
「125」は毎日新聞社の創刊125周年から。環境を守るための125の提案。1998-08-08
○岡本祐三・鈴木祐司『福祉で町がよみがえる』日本評論社 ISBN4-535-56066-8
山形県最上町、兵庫県吉川町、北九州市をNHK取材班がルポ。帯に「福祉は高齢社会の基幹産業」とある。介護保険がスタートすると、高齢化率に応じて、2号被保険者(45〜64歳)の保険料が市町村に配分される。福祉は多くの雇用と需要を地元にもたらす。それによる税収アップなども考えると、「基幹産業」というのもうなづける。1998-08-25
1998年9月
○石川満『欠陥「介護保険」』自治体研究社 ISBN4-88037-246-3
著者は東大和市職員。行政の現場にあって、介護保険を検討している。類書と異なるのは、制度の仕組みを細部にわたるまで理解したうえでの批判であることだ。批判書でありながら制度の理解を助けてくれる。1998-09-23
○安田陸男『杉並老後を良くする会奮戦記』あけび書房 ISBN4-87154-007-3
著者は元毎日新聞記者。痴呆症の母を介護し、特別養護老人ホームの職員になった経歴もある。杉並のボランティアから出発した住民運動が、四半世紀を経て福祉法人を設立し、区の特養の運営委託を受けるまでの「奮戦記」である。著者みずからが「会」の運動に身を投じて、体験的に書かれたルポ。1998-09-30
1998年10月
○土師守『淳』新潮社 ISBN4-10-426501-2
神戸の「酒鬼薔薇」少年による淳君殺人事件は、その異常性で世間の耳目を集めた。2年余の沈黙を破って、被害者の父親が書いた手記である。涙なしには読めない。「少年だから犯罪は許されるのでしょうか。少年が犯人だとわかったら、淳は生き返るのでしょうか」(127頁)1998-10-04
○杉山孝博『ぼけ−受け止め方・支え方』家の光協会 ISBN4-259-53696-6
著者は痴呆症の取り組みで知られる川崎幸病院の医師。いつかは誰もが、ぼけ老人になるか、その介護者になるかの可能性をもっている。いったん発症すれば、回復は困難。正常に引き戻そうとあがけば、かえって泥沼に陥る。著者は「ぼけの7大法則・1原則」を唱え、ぼけとうまくつきあう方法を示している。 1998-10-06
○石井実ほか『里山の自然をまもる』築地書館 ISBN4-8067-2346-0
里山を訪れるのは実にたのしい。四季折々の自然を眺め、その多様性、移ろい、などなどを楽しんでいる。それを破壊されたくない、と思う。しかし、この本は思い入れが強すぎて、どこか違和感がある。1998-10-10
○光野有次『バリアフリーをつくる』岩波新書 ISBN4-00-430572-1
話は障害者のための「バリアフリー」にとどまらない。姿勢保持具はQOLを高めるだけではなく、機能回復までを視野に入れている。街・家・家具・道具、すべてに「バリアフリー」の考え方が必要であり、それは「ユニバーサル」という概念で語られるべきなのであろう。特別な配慮ではなく、これが普通になることが21世紀に求められる。1998-10-11
○中山徹『行政の不良債権』自治体研究社 ISBN4-88037-218-8
「民間企業はバブル経済がはじけて、不良債権の処分に着手したが、行政は逆に不良資産を拡大し続けている」−−行政主導の巨大開発から東京臨海副都心・大阪りんくうタウン、間接的な開発から土地信託事業・第三セクターについて、実例にもとづきながら、その破綻した内容を明らかにしている。とくに第三セクターの不透明さは今後各地で問題になるだろう。1998-10-12
○筏義人『環境ホルモン』講談社(ブルーバックス) ISBN4-06-257227-3
環境ホルモン(内分泌撹乱物質)の化学的性質や作用機序について、生化学的な解説をしている。化学式が山ほどでてくるが、難しいところは読み飛ばしても、それなりに基本的な知識が得られる。1998-10-16
○鈴木厚『日本の医療を問いなおす』ちくま新書 ISBN4-480-05775-7
著者は臨床医である。官僚批判・厚生行政批判から始まりマスコミ批判に及ぶ。「マスコミが医療問題に行ってきた手法は、自らの不勉強を省みず、医療の本質的な問題を医師の悪口にすりかえ、国民の不満を恣意的に医療機関に向けさせ、医療問題の本質を故意にはぐらかすものでした」、「女性の裸体を週刊誌の売り上げのために利用するような感覚で、医療問題を取り上げて欲しくはありません」−−この書は、医師の本心を率直に語っていると思う。少々感情に走るところがあって、一般の人に受け入れられるかどうか心配。1998-10-27
1998年11月
○時実新子『じんとくる手紙』小学館文庫 ISBN4-09-402651-7
著者は川柳作家・エッセイスト。川柳の神髄は、いい子ぶらず、人の心に忠実であることのようだ。言葉の力を再発見させられる。1998-11-6
○菅直人『大臣』岩波新書 ISBN4-00-430558-6
日本の内閣は「議員内閣制」のたてまえなのに「官僚内閣制」になっている。それを、当選回数で大臣になれる与党の慣習が助長している。首相に呼ばれて大臣就任を言い渡されて、部屋の外へでた途端に官僚から「就任挨拶」の原稿を手渡されたというエピソードなども紹介されている。1998-11-15
○宇野正威『もの忘れは「ぼけ」の始まりか』PHP ISBN4-569-55786-4
一般向けとは思えないような専門的な内容。読んでもさっぱりアタマに残らず、なんだか心配になってくる。1998-11-23
○文藝春秋編『日本の論点99』文藝春秋 ISBN4-16-501500-8
5年ほど前から毎年でている厚さ4cm余の本。最初から最後まで読みとおす本ではなく、自分の関心のある分野を拾い読みするのに便利だ。脚注や参考資料も適宜はいっている。1998-11-25
1998年12月
○日浦勇『自然観察入門』中公新書 ISBN4-12-100389-6
なかなかよくできた入門書。最初に戸惑うところを、きちんと押さえてある。今年の春に、この本を手にしていたなら、もうすこし里山を歩いていて野草を見るときの目が違っただろう。来年は、この本をもう一度読み返してから野に出よう。
ところで、中央公論社は読売新聞社に買収されることになった。ちかごろ粗製濫造気味の岩波新書よりも、中公新書のほうがクオリティが高いのではないだろうか。文庫にもハードカバーにも、結構いい本がある。買収話が報道されるのと前後して月刊誌「中央公論」に読売新聞社長渡辺氏の自伝的な記事が掲載された。中央公論のある出版物から読売新聞批判の項が削除されたとの報道もあった。なんてこった!! 1998-12-02
○橘木俊詔『日本の経済格差』岩波新書 ISBN4-00-430590-X
日本=「平等社会」の神話が崩れてきていることを実証的に解き明かす。平等・不平等という切り口で経済をみると、いろんなことが見えてくる。第1章に「貧困率」という指数が出ていたので、試みに日本の高齢者世帯をあてはめてみたら、ざっとした計算で30%ほどになる。ちなみに、日本全体では8.1%で西欧先進国なみ、アメリカの20%を著者は「異様」と評している。目からウロコがおちる本。1998-12-04
○坂東真理子『副知事日記』大蔵省印刷局 ISBN4-17-372600-7
富山県出身、東大−総理府−埼玉県副知事をへて現在ブリスベン総領事。埼玉県副知事時代の約3年間の記録。1998-12-06
○赤瀬川原平『老人力』筑摩書房 ISBM4-480-81606-2
雑誌の記事で話題になっていたので読んでみた。「老人力」とは、ぼけ、ヨイヨイ、耄碌の婉曲表現であり、「1本、2本」と数えるのだという。1998-12-10
○平野拓也『酷税・驚愕のしくみ』小学館文庫 ISBN4-09-402801-3
所得税の累進が強いにもかかわらずキャピタルゲインが分離課税になっているために不公平が是正されない。消費税の税率が低くともアメリカ・カナダではゼロ税率を採用している。西欧では生活必需品への軽減税率・ゼロ税率が常識だ。これら日本の税制の欠陥は「日本の経済格差」と読み比べるとおもしろい。ところで、小学館の本のデザインはなんとかならないものだろうか。けばけばしくて、中味が軽く見られてしまう。1998-12-13
○司馬遼太郎『人間というもの』PHP ISBN4-569-60416-1
「〜というもの」−−司馬遼太郎のよく使う言い回しである。この本は多くの著作から307篇の短文を抜き出した「箴言集」である。じつは私も司馬遼太郎の言葉を抜き書きしてデータベースに入れている。ただ、思い立ったのは数年前なので、それ以前に読んだものは抜けている。この本からも孫引きで幾つかを拾わせてもらった。1998-12-15
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