−読書録− 《1998|1999− 1・ 2・ 3・
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1999年1月
○日本経済新聞社『税金問題入門』日本経済新聞社 ISBN4-532-10641-9
シロウトを対象に、税金のしくみをやさしく解説している。執筆者は、このところ日経紙上で介護保険や年金問題に健筆をふるっている佐野正人氏。お目当ては第4章の「消費課税の改革」だったが、他の章もナナメ読みした。随所に国際比較の図表なども入れてあり、わかりやすい。データが少々古いのが残念。1999-01-02
○山藤章二・尾藤三柳・第一生命『平成サラリーマン川柳傑作選〈八つ当り〉』 ISBN4-06-209527-0
毎日新聞の「万能川柳」と、この「サラ川」と、毎年出版されるのを楽しみにしている。今回の「サラ川」は、不景気の世相を映して、ますますサラリーマンの哀愁と諧謔に満ちたものになっている。--わが家にも「もののけ」いるが姫じゃない(パパ)--には夫婦して笑った。とりあえず、わが家の「もののけ」は、年寄り猫のこととしておこう。ついでに、このページにぴったりな一句--網棚で次の客待つマンガ本(公狂)--1999-01-09
◎ビル・トッテン『必ず日本はよみがえる』PHP研究所 ISBN4-569-60442-0
ある人に薦められて一気に読んだ。著者はアメリカ人であり、「アシスト」社長。MS-DOSの時代に「アシストカルク」「アシストレター」など、当時としては破格のアプリケーションソフトを発売した会社だ。私もユーザーの一人だった。その後エンドユーザー向けの製品発表はなくなり、米コンピュータアソシエイツを傘下に収め、ORACLE関連など玄人向けの分野で隠然たる勢力を有している。脱線した・・・さて、内容。日本の金融政策を「自民党カジノ」と呼んで一刀両断--この方は、オピニオン誌を発行するなど、単なる経営者ではないらしい。どうも政府・与党の言うことはおかしい、と疑問に感じているポイントを明快にさばいてくれる。只者ではない。1999-01-10
○上田実『咀嚼健康法』中公新書 ISBN4-12-101451-0
タイトルからは、いかにも「健康」ブームに乗ったハウツーモノのような印象を受けるが、中身は堅実。口腔が、全身の健康との関係で、どのような役目を果たしているか、いろいろな角度から解説している。1999-01-13
○谷山治雄『ものがたり税制改革』新日本出版社 ISBN4-406-02625-8
租税民主主義とは、最低生活費非課税・累進負担・勤労所得軽課だという。課税最低限が高いというが生活保護よりも水準の低い基本的控除をもとに比較はできない。政府発の情報には眉にツバして聞く必要がある。それにしても、税の問題はややこしい。1999-01-16
○佐高信『タレント文化人100人斬り』社会思想社 4-390-11627-4
実名をあげて、タレント文化人を小気味良く批判。田原総一郎、猪瀬直樹、長谷川慶太郎らとは、相性がいい(悪い)らしく、何回も登場する。1999-01-25
○読売新聞科学部『環境ホルモン・何がどこまでわかったか』講談社 4-06-149425-2
科学者の語る事実と、マスコミが伝える事実との間にギャップがひろがり、一種の社会的ヒステリー現象にまでなってしまった「環境ホルモン」--科学とマスコミのありかたについての反省が本書の出発点である。そのうえで、あらためて冷静な報道を試みた内容。センセーショナルに扱わないと記事にならない、といったところにマスコミのもっている根本的な問題点がある。1999-01-27
○広井良典『日本の社会保障』岩波新書 4-00-430598-5
歴史的考察から、社会保障の到達点と問題点をあきらかにし、提言を行っている。日本の社会保障の特徴は「後発国ゆえの国家主導の社会保険」から出発し、普遍主義に移行しつつあるが、制度的には原則が忘れられ混乱している。広井氏は、この分野でもっとも注目される若手の論客である。ときどき、哲学的な厳密な論理の進め方についていけなくなりそうになるが、我慢して読む価値がある。1999-01-30
○五十嵐敬喜・小川明雄『市民版行政改革』岩波新書 4-00-430597-7
『公共事業をどうするか』のコンビによる近著。破綻しつつある「土建国家」を、いかにして「福祉国家」に方向転換するか。著者らは「市民府」構想、「市民立法」構想に夢を託しているのだが、あまりに不甲斐ない政治家と、行政改革を骨抜きにする官僚の凄腕を見るにつれ、絶望感のほうが強く残る。1999-02-01
○内田誠『さまよえる廃棄パソコン』岩波ブックレット 4-00-009172-7
パソコンは、技術革新と今時の消費性向を象徴するような廃棄物だ。リユース、リサイクルの問題点を取材している。我が家にも、廃棄寸前のジャンクがやまほどある・・・1999-02-01
○日本経済新聞社『日本経済100の常識』日本経済新聞社 4-532-14687-9
この方面の「常識」に疎いので、モノを読んだり聞いたりするのに役に立つかな、と思って読んでみた。結構おもしろい。1999-02-03
○松下圭一『政治・行政の考え方』岩波新書 4-00-430552-7
「憲法」というイカメシイ言葉が不具合だという話から始まる。「基本法」と言いかえるべきだ、と著者はいう。憲法25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」の条項は原案になかったものだという。制定後も「アクセサリ条文」とされてきたが、「シビル・ミニマムの公共保障」という現代的課題で見なおされる。民主党ブレーンの著書には興味深いものがあるが、どうしてこうもそろって文章が硬いのだろう。1999-02-09
○石弘之『地球環境報告U』岩波新書 4-00-430592-6
まえがきで著者は言う。--地球環境の問題の多くは「いつか」「どこか」の話ではなく、もはや「いま」「ここにある」危機なのである--と。エネルギー資源よりも、鉱物資源よりも先に水が不足する。食糧危機は人口増よりも水不足から起こる。日本の食糧自給はこれでいいのだろうか? すでに手遅れではないのだろうか。1999-02-10
○片山正年『八万キロの戦争』社会思想社 4-390-11570-7
だいぶ前に買ってあったのを、ようやく手にして読んだ。第一乙種補充兵だったのが、21歳で赤紙令状で徴集され、28歳で終戦を迎えるまでの戦記。陸軍船舶砲兵として北はアリューシャンから南はガダルカナルまで、総行程八万キロに及ぶ。生き延びたのが奇跡としか思えない。最後は広島で自ら被爆しながらの救援活動であり、この書のクライマックスである。1999-02-14
○手塚和彰『国の福祉にどこまで頼れるか』中央公論社 4-12-002873-9
日本は「中福祉・中負担」と著者はいうが、公平にみて「低福祉・中負担」とすべきところだろう。専業主婦志向の女子が多く、これに安住している--日本は「藪医者天国」--老人施設は「人間のゴミ捨て場か」--などなど、読み物としては面白いが、医療・福祉に携わっている者や受ける者にたいする不信を煽りたてているようで、後味のわるい本。1999-02-22
○岩倉政治『妙好人・赤尾の道宗』法蔵館 4-8318-2351-1
著者から頂いた。96歳とはとても思えないしっかりした字で「謹呈・・・」のサイン。元気に年をとるには、手書きで字を書かなければならないのかもしれない。上平村西赤尾に生まれた道宗(どうしゅう)の伝説をもとにした物語である。「蓮如の最も信頼した弟子の一人」であり、自己を厳しく見つめ求道にはげんだ(浄土宗系にはめずらしいタイプ)篤信者である。1999-02-24
○岩波書店辞典編集部『ことばの道草』岩波新書 4-00-439006-0
岩波の本にはさまっている栞に、語源などの小文があって、面白いなとおもっていたら、一冊の本になった。もともと広辞苑の改訂作業の副産物だという。1999-03-10
○大野晋『日本語練習帳』岩波新書 4-00-430596-9
田舎の書店にはなかなか入荷せず、やっと手にしたのは第5刷だった。いかに多くの日本人が日本語に苦労しているかがわかる。1999-03-30
○不破哲三・井上ひさし『新日本共産党宣言』光文社 4-334-97211-X
両氏の「対論」集。井上氏の奥さんは共産党員だという。本人自身はキリスト教徒だ。「天皇制打倒は綱領には入っていない」など、共産党の主張の柔軟さには驚く。とはいうものの、共産党の内部規律の厳しさなどは、ここからは窺い知ることはできない。1999-04-18
○21世紀環境委員会『巨大公共事業』岩波書店(岩波ブックレット) 4-00-009176-X
「公共事業は社会生活にとって必要だから行われるのではなく、官僚組織を維持し拡大するために行われる」。しかも、立案・着手時から完成時までに費用が大幅に膨らむのが常だ。昨今の不況が更なる公共事業の拡大を招いているが、先進諸国から嘲笑と不安をもって見られている。1999-04-22
◎ロビン・クック/林克巳(訳)『フェイタル・キュア』ハヤカワ文庫 4-15-040779-7
アメリカの大手管理医療会社(HMO)が日本に進出し、医療費抑制を掲げて健保組合などとの契約を目指している(日経99-03-23)。このミステリー小説(日本語副題=致死療法)の舞台は、ヴァーモント州の田舎町にある病院である。若い医師の夫婦が、管理医療のもとで入院や検査の制限など厳しいコスト管理を強いられ、奇妙な事件に巻き込まれていく。究極のコスト削減とは何だったか---- 医療費抑制のために「包括払い」化を声高に叫ぶ政財界、健保連、連合などの面々に、ぜひともこの本を読んでもらいたい。1999-04-25
○浅野史郎・田勢康弘『政治の出番』日本経済新聞社 4-532-16286-6
宮城県知事とジャーナリストの対談。厚生省キャリアから知事へ、そして政党推薦を断っての「シロウト」選挙。その経歴は面白いし、期待もし、拍手を送るが、いまいちポリシーがはっきりしない。1999-04-28
○江畑謙介『日本の安全保障』講談社(現代新書) 4-06-149375-2
軍事紛争などがおこると、よくマスコミに登場する不思議な雰囲気をもった軍事評論家。淡々と、しかし緻密で正確な発言をする。政治勢力とも軍事産業とも利害関係はないらしい。「あとがき」で述べているように、はじめて私見を発言したという。言葉の遊戯のような空想的防衛論議に業を煮やしたのかもしれない。1999-05-05
○長井真隆『とやま植物誌』シー・エー・ピー
なにげなく眺めている山・里・川辺・海辺の植生は、地球環境の長い歴史と人間の営みの歴史の総決算だ。富山は、非常に豊かな植物相に恵まれている。にもかかわらず、すでに消失した植物もいくつかある。かなり学術的な本。難しい内容は右から左へ抜けて行ってしまうが、壮大な自然の印象が残るだけでも読む価値がある。1999-05-08
○高久文麿(編)『医の現在』岩波書店(新書) 4-00-430607-8
第25回日本医学会総会の記念出版。先端医学をはじめ、21世紀への医療の課題を総覧的に紹介している。1999-05-09
○司馬遼太郎『この国のかたち四』文春文庫 4-16-710564-0
久しぶりに司馬遼太郎を読んだ。その世界観、歴史観は少しばかり距離をおいて風景のように眺める趣があり、歯切れのいい文体とあいまって心にすとんと落ちる。この本では、最終章の「日本人の二十世紀」がおもしろい。1999-05-12
○日本博学倶楽部『県民性−なるほど雑学事典』PHP文庫 4-569-57158-1
話のネタ以上には役に立たない。記憶容量が減少してきた昨今では、残念ながらネタにもできない。1999-05-20
◎李啓充『市場原理に揺れるアメリカの医療』医学書院 4-260-13846-4
アメリカでは管理医療(HMO)による医療の「市場」化が急速に進み、その弊害が噴出している。アメリカで「患者の権利」問題が盛んなのは、患者と医師が手を結んで、HMOの過度の医療費節減策に対抗するためだ。いっぽう日本では、HMOの医療費削減効果だけを見て、それを取り入れようと画策する勢力がある。きわめて具体的に、ノンフィクション風に書かれていて、読みやすくわかりやすい。1999-05-28
○上田耕一郎『国会議員』平凡社(新書) 4-582-85006-5
24年間の参議院議員生活の回顧録。自慢話が多いれども、政権党の議員ではなくとも、これだけのことが出来る、という意味では与党主義で右往左往する業界団体は考えなおしたほうがいいだろう。それにしても、弟の不破哲三がさきごろ光文社から本を出し、こんどは兄が平凡社の記念すべき新書の第一回のシリーズから本を出し、と近頃の共産党はどうなったのだろう。1999-06-05
◎池上直己『医療問題』日経文庫(ベーシック・シリーズ) 4-532-10681-8
数ヶ月まえに新刊のアナウンスをみて、その著者名から期待していた。社会保障のモデルとしてアメリカの「市場原理」に対する幻想が世を惑わしている。その欠陥は次第にあきらかとなり、知れれるところとなってきたが、それでも保険者側には医療費削減への誘惑に引きずられている。著者は、はっきりとヨーロッパ型の社会保障を目指そう、と見解を示し、要所要所で対案を示している。1999-06-06
○田中彰『小国主義』岩波新書 4-00-430609-4
大国主義に対する小国主義は耳慣れない概念である。明治4年11月から6年9月までの岩倉使節団の見聞を記した「特命全権大使米欧回覧実記」からはじまり、中江兆民、内村鑑三、三浦鐡太郎、石橋湛山らの思想をたどる。終章の「日本国憲法をめぐって」は、「おしつけ憲法」論に対する反証である。1999-06-10
○江畑謙介『安全保障とは何か』平凡社(新書) 4-582-85004-9
『日本の安全保障』(講談社)と同じような内容。副題に「脱・幻想の危機管理論」とある。ガイドライン関連法案が今年4月成立し、防衛(軍事)問題に関心が高まっている。議論の基礎として軍事常識は必要だ。1999-06-11
◎五十嵐敬喜・小川明雄『図解・公共事業のしくみ』東洋経済新報社 4-492-08972-1
『市民版行政改革』『公共事業をどうするか』のコンビによる近著。具体例、資料、統計などが豊富で、さながら「公共事業百科」である。それにしても膨大な無駄遣いにはため息がでるばかり。また、麻薬中毒患者のように、わかっていながらやめられない日本の政官財の病理に絶望を感じる。1999-06-12
○松中昭一『きらわれものの草の話』岩波ジュニア新書 4-00-500321-4
雑草の話だが、雑草そのものではなく、除草について書かれた本。農薬の価値を積極的に認めようとする立場から書かれている。1999-06-24
◎司馬遼太郎・井上ひさし『国家・宗教・日本人』講談社(文庫) 4-06-264598-X
ファンの作家二人の対談。これは「一読二鳥」だ。オウム、憲法、日本語、日本人、「この国のかたち」を論じる。企業と官僚の腐敗を目にして、「ほんとに嫌になりましたね。日本に住んでいることが嫌になった」と司馬氏は語る。司馬氏亡き今、井上氏は戦争と平和の語り部として行動を起こそうとしている。今年
8月15日、平和憲法擁護の辻説法に来富の予定。1999-06-27
○田村明『まちづくりの実践』岩波新書 4-00-430615-9
「実践」と銘打っているから具体例中心かと思ったが、意外と理屈が多い。数多くの例は引かれているのだが、もっとつっこんで紹介してほしい。ちなみにご当地では入善町の美術館(下山芸術の森)が3行の記述で紹介されている。1999-06-28
○本郷寛子『母乳とダイオキシン』岩波(ブックレット)4-00-009182-4
母乳が栄養、免疫、心理的な面で優れていることは言うまでもない。しかし、日本人の母乳のダイオキシン濃度が高いことが報じられてから、現場での授乳指導に混乱が生じている。母乳のメリットのほうがダイオキシンの危険性に勝っていることを、多くの文献を検証して説いている。1999-07-01
○井上ひさし『東京セブンローズ』文藝春秋 4-16-318380-9
旧字体、旧仮名遣いに面食らうが、文句なしに面白い。「泣く子は黙り禿げ頭にも毛が生え電信柱も花を咲かす」といった言葉遊びが、「吉里吉里人」ほどではないが、あちこちに出てくる。この方の日本語捌きには、ほとほと感心する。1999-07-01
○森亨『なぜいま結核か』岩波(ブックレット)4-00-009181-6
この本を読んでいる最中に、石川県の病院での結核の院内感染が報じられた。「過去の病気」として医師や研究者から軽視されてきた結核が最近「見なおされ」ている。集団発生の多発だけでなく重症化が特徴だという。日本の結核罹患率は先進諸国の数倍、米国と比べると40年の遅れともいう。1999-07-02
→結核予防会結核研究所:http://www.jata.or.jp/
○井上ひさし『四千万歩の男』(一〜五)講談社(文庫)4-06-185266-3 4-06-185267-1 4-06-185292-2 4-06-185293-0 4-06-185340-6
これだけの長編となると、手に取るのを躊躇する。先々2週間くらいは重たいスケジュールが入っていないことを確認してから読み始めた。冒頭に「お読みいただく前に」があって、「人生二山説」(じんせいふたやませつ)を開陳している。農民としてのひと山を登りきり、56歳から72歳まで、日本中を歩き回って測量した伊能忠敬の人生である。物語は何でもありのオムニバス。読み終えたときに、「あれ、もう終わり?」という印象をもつ。それもそのはず未完の小説だ。著者によれば、全体の構想の7分の1なのだという。なお、巻末の著者自身の筆になる年譜は、なかなか面白い。1999-07-24
○司馬遼太郎『この国のかたち五』文春文庫 4-16-710584-5
神道、宋学(朱子学)に多くの言をさいている。朱子学については、他の著書でも日本における最初の「イデオロギー」として論じている。この本では「地上の諸存在を善か悪かに峻別し、検断する」「剣のように体系化された思想のありかた」と形容している。1999-07-25
◎小林一輔『コンクリートが危ない』岩波新書 4-00-430616-7
80年代から明かになりはじめたコンクリート建造物の欠陥の原因究明、そして阪神大震災で実証された手抜き工事の実態。この本のすごいところは、山陽新幹線の事故を予言していたことだ。が、読み進むにつれ、けっして大胆な予言でもなんでもなく、当然の帰結であったことがわかる。また、高度成長以後につくられた建造物が同じ問題を抱えている。北陸新幹線などと浮かれている場合じゃなくて、既存の幹線鉄道&道路の再工事(補修ではない)がいま必要なのだ。1999-07-26
○鈴木和男『遺体鑑定』講談社 4-06-209674-9
日本における法歯学の創始者である著者の回顧録。自慢話が多いが、それだけの実績がある。1999-08-01
○野口悠紀雄『「超」整理法3』中公新書 4-12-101482-0
非定型的な仕事=「マゼラン的な仕事」における袋と箱を使った「とりあえず捨てる」テクニックの紹介。1999-08-01
○井上ひさし『文学強盗の最後の仕事』中公文庫 4-12-203085-4
エッセイ集。小説や戯曲への思い入れがあれこれ語られる。エッセイというより短編小説のようなものもある。1999-08-02
○伊藤純・伊藤真『宋姉妹』角川文庫 4-04-195426-6
ドラマは見損ねた。「昔、中国に三人の姉妹がいた。一人は金を愛し、一人は権力を愛し、一人は中国を愛した」--中国の現代史を綾なす宋靄齢・宋慶齢・宋美齢、三姉妹の物語。ルーズベルト夫人の宋美齢評、「民主主義について立派に議論はできるが、民主主義的に生きるということがどういうことか、まったくわかっていない」。1999-08-09
○井上ひさし・樋口陽一『「日本国憲法」を読み直す』講談社文庫 4-06-263430-9
日本国憲法とはなにか。井上氏と比較憲法学の樋口氏が対談する形をとった解説。脚注が豊富で、現代史の勉強にもなる。井上氏はあとがきで、憲法を司馬遼太郎のいう「この国のかたち」に読み替えることを勧めている。1999-08-15
◎井上ひさし『餓鬼大将の論理』中公文庫 4-12-203112-5
エッセイ集。表題は戦中の日本の論理を指す。昭和天皇崩御のとき、たまたまロンドンに旅行中であったことから、かの地でのマスコミや人々の反応が詳しく書かれていて興味深い。1999-08-22
○内藤孝敏『三つの君が代』中公新社 4-12-203493-0
明治の初め、「君が代」を歌詞とし、国歌を目指して3つの曲が作られた。「第一の君が代」は薩摩藩軍楽隊がイギリス人教師フェイトンに作曲させたもの。明治3年。曲として不完全なものだった。「第二の君が代」は海軍軍楽隊がドイツ人音楽教師エッケルトの協力を得て選んだ。明治13年。宮内省雅楽課、林広守の作曲。これが今般「国歌」となった「君が代」である。「第三の君が代」は文部省が「小学唱歌集」に発表したもの。明治15年。が、イギリスの古い曲の借り物だった。また、歌詞の「君が代」の原型は「古今和歌集」であり(読み人知らず)、最初は「我が君」であったという。当初は天皇を指していたものだが、能、狂言、浄瑠璃、長唄などなどに使われ、「あなた」あるいは「みなさん」の意味でも用いられた。著者は日本伝統の音楽性を認めるという意味で、「君が代」を評価している。----とまあ、民族音楽の歴史にまでさかのぼって、「君が代」を音楽としての成功例と見ることは構わないが、それを強引に「国歌」にするかどうかは別問題だろう。1999-08-24
○江藤淳『妻と私』文芸春秋
末期がんで死にゆく妻を看取る心情を綴るエッセイ。ここまで一心同体になれるものだろうか。後を追って自らの命を断つことに、たしかにつながる心情ではある。死を迎える時間の静寂な時間がそうさせるばかりではあるまい。どうして、このような夫婦ができあがったのか、が不思議に思える。1999-09-08
○共同通信社編集部『どうなる老後・介護保険を考える』ミネルヴァ書房
1996年4月から97年3月にかけて共同通信社が加盟新聞社に配信した記事を集めたもの。新聞掲載中はさほどに思わなかったが、こうして一冊にまとめられると、対象がめまぐるしく変わるので読みにくい。北海道の話だと思って読んでいるうちに九州の話だったりする。もうすこし絞り込んでじっくり紹介してほしい。なお、魚津市では「魚津老人保健施設」が1ページ半ほど紹介されている。1999-09-12
○週刊金曜日増刊『買ってはいけない』株式会社金曜日
「買ってはいけない」を買ってはいけない、などと書かれるほど話題になっている。たしかに、無用な添加物、無用な製品は数多くある。けれど、あまり神経質になるのもどうかと思う。かえってストレスになる。1999-09-12
○小澤靖『DTPとデジタル印刷』CQ出版社
DTPの解説書の多くが、特定のソフトの解説書を兼ねているが、これは汎用的な基礎知識を扱っている。脚注や図が多く親切。専門用語にルビをふってほしかった。1999-10-03
◎竹崎孜『スウェーデンはなぜ生活大国になれたのか』あけび書房
スウェーデンには「社会保障」という概念がない、「ノーマリゼーション」という言葉も死語になっている。あまりにもあたりまえすぎて議論の対象にならないのだろうか。それにしても、これで国が破綻しないのは不思議だ。はるかに福祉後進国である日本が、社会保障にたいする財政支出を削減しようと必死になっている。その「なぜ」に答えるにふさわしい本。あっと驚くような発見に満ちている。----ところで、日本の福祉は、かの国の1970年〜80年くらいのレベルにあると思われる。いっぽう政治のレベルは50年、もしかしたら100年も遅れているかもしれない。「経済大国」日本は「生活大国」になれるか----おそらくスウェーデンから見ると、「日本はなぜ生活大国になれないのか」が不思議であるにちがいない。 1999-10-04
○串間努『ミニコミ魂』晶文社
何かの広告で書名だけをみて、とりあえず書店にファックスで注文した。届いた本は「コミケ」が中心の内容で、少々肩透かし。それでも、全国各地でさまざまなミニコミ誌づくりを楽しんだり悪戦苦闘したりしているヒトが大勢いることは心強い。下関マグロ氏の意見--「続けることに意義がある」、「いかにラクして長くつづけられるかが重要」にはナットク。1999-10-05
◎高木仁三郎『市民科学者として生きる』岩波新書
東海村核燃料施設JCOでの臨海事故(9.30)の際、民放のテレビに出演している姿を見た。がんと闘いながらの一徹な活動には頭が下がる。世代は異なるけれども、よく似た心の遍歴をたどっているものだと感心して読んだ。もっとも私はもっと軽はずみで手軽な人生をたどってきたけれど。--ともあれ、市民運動と専門家の関係には多くを教えられる。1999-10-07
○金子勝『セーフティネットの政治経済学』ちくま新書
新古典派経済学の「市場原理主義」による「政治の失敗」がセーフティネットに穴をあけ、不況の悪循環を生んでいる。グローバルスタンダードという名のアメリカンスタンダードの押し付けに逆らい、みずから新たなセーフティネットを再構築することが最重要課題だ。--まとめるとこんなところだろう。経済用語がたくさん出てきて、門外漢には読みやすくはないが、セーフティネットの経済的位置付けを理解するために一読の価値がある。1999-10-08
○秋月岩魚『ブラックバスがメダカを食う』宝島新書
密放流と商業ベースであおられたバスフィッシング。最近ではブラックバスのほかに、繁殖力の旺盛なコクチバスも密放流されて増えている。いまやバスのいない都道府県はなくなったという。そのために日本の河川・湖沼での生態系が急速に破壊されている。1999-10-11
○小長谷正明『ヒトラーの震え毛沢東の摺り足』中公新書
ヒトラーはパーキンソン病、毛沢東は筋萎縮性側索硬化症(ALS)だった。レーニン、スターリンはともに脳血管障害による失語症。歴史上の人物の神経系疾患を、歴史とからめて紹介している。ヒトラーのT4計画(安楽死計画)についても詳しい。1999-10-12
○吉村昭『わが心の小説家たち』平凡社新書
私は吉村昭氏の歴史小説のファンである。この方の歴史小説は律儀なほどに史実にこだわる。ともあれ、この本は吉村氏の心酔する作家について、どこに惹かれるのかを語っている。扱う作家は、森鴎外、志賀直哉、川端康成、岡本かの子、平林たい子、林芙美子、梶井基次郎、太宰治。1999-10-16
○自治体問題研究所編『広域連合と一部事務組合』自治体研究社
ダイオキシン問題(ごみ処理問題)と介護保険が広域化を協力に後押ししている。この本は、自治省主導広域化の優等生ともいうべき「上田地域広域連合」と、巨大広域「福岡県介護保険連合」、住民との遊離・対決が問題になった「三多摩地域廃棄物広域処分組合」(一部事務組合)の実例をとりあげ、歴史的・法的な概説を加えている。概説の部分は、もうすこしシロウトにも分かりやすくしてほしいが、豊富な資料によって問題点の概要がつかめる。1999-10-24
○木下澄代『”かぜ薬”のない国デンマークの福祉と医療』自治体研究社
著者は日本で保健婦として仕事についたあとデンマークに渡り、看護婦の資格を取得して20年間働いている。「グループホームは施設ではなく、家である。高齢者の徘徊を防ぐのは、彼らの住みかの居心地の良さだけである」などの指摘は、実際に長年従事してきた重みがある。なお、表題について言えば、けっして技術が高度であるわけでもなく、財源が豊かなわけでもない小国が、きわめて現実的に福祉国家をつくりあげている姿を象徴している。1999-11-04
○吉村昭『史実を歩く』文芸春秋(文春新書)
歴史小説を書くための取材のエピソードを語る。2百枚以上の原稿を焼却して、書き直したこともあるという。歴史をルポルタージュのごとくに描く、氏の事実への執着あるいは執念。歴史の事実と格闘している姿が浮かぶ。1999-11-16
○常石敬一『20世紀の化学物質』日本放送協会
教育テレビのテキスト。番組は1回しか見れなかった。水曜日の夜というのは会議で出かけることが多い。科学史的にみた化学物質、とくに毒物に焦点をあてた書。化学式はひとつも出てこない。1999-11-20
○中西弘樹『漂着物学入門』平凡社(新書)
著者の専門は植物生態学。副題が「黒潮のメッセージを読む」となっているように、南方系の植物の漂着が中心。富山湾は地形上、この種の漂着物は少ないのではないかと思う。後半は海の汚染、海岸の環境破壊について扱っている。1999-11-22
○茨木のり子『倚りかからず』筑摩書房
奇跡的に売れている詩集。古希を過ぎた著者の8番目の詩集だという。何番目の詩集なのかは知らないが、私のメモ帳に、「ひとのせいにはするな、友人のせいにはするな、暮しのせいにはするな」・・・とたたみかけるフレーズのあと、「自分の感受性ぐらい/自分で守れ/ばかものよ」と結ばれる茨木さんの詩が記されている。からりと叱りとばされたような感触が気に入って、書き写したものだ。1999-11-30
○山田祥平『Windows95/98こんなとき、どうする?』アスキー出版局
結局は何が起きているのかわけがわからないWin。どうしようもないことがよくわかる。1999-12-05
○内田洋子『破産しない国イタリア』平凡社新書
13の物語ふうのエピソードと気の利いた解説からなる。はちゃめちゃな国が、なぜ破綻しないのか--と読み進むうちに、なんだか日本が進もうとしている方向がもしかして?と思い始める。1999-12-09
○宮田秀明・保田行雄『ダイオキシンの現実』岩波ブックレット
ベルギーの鶏、所沢問題などの最近の話題から、測定方法をめぐる課題、規制前の焼却灰、そして最後に「ゴミ焼却」を考察している。高温焼却でダイオキシンは減らせても、金属など無機有害物質はむしろ増えてしまう。なによりも日本の二酸化炭素発生の12%がゴミ由来という現実。課題は多く、重い。1999-12-12
○井上ひさし『本の運命』文芸春秋
読書家であり資料魔とも称される著者の本とのかかわりを語る。「井上流本の読み方十箇条」という章がある。本をバラすとか索引をつくるとか、ちょっとマネの難しいものもあるが、「目次を睨むべし」は簡単に実行できそう。1999-12-15
○賀曽利隆『中年ライダーのすすめ』平凡社新書
ライダーと名乗るほども乗らないでリタイアしてしまった。近隣の山道を走る爽快感がなつかしい。スクーターで復活しようかな? 1999-12-27
○森岡恭彦『インフォームド・コンセント』日本放送出版協会
インフォームド・コンセントをパターナリズムと対比して、歴史的に考察し、国による文化的な違いにも多くのページを割いている。後半は「がん告知」と末期医療について。医師の立場からの真摯な議論が展開されている。権利を振りかざし、告発を武器とした市民運動は、かならずしも良い結果を生み出さないだろう。1999-12-29