BOOK2010
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 《2009|2010− 1011122011



2010年1月

宮本太郎『生活保障』岩波新書
著者は宮本顕治の息子である。現在、北海道大学の教授。同じ北大の山口二郎と共同の著作が多いところをみると、政治的には民主党左派に近いのかもしれない。いずれにせよ、「世襲」で共産党幹部への道にすすまなかったのは健全と言える。雇用と社会保障を統合した「生活保障」がメインテーマ。「セーフティネットからトランポリンへ」というドイツのシュレーダー首相らの言葉を紹介している。日本の「左翼」勢力は、憲法を盾に「生存権」を主張し、権力と対峙することに精力を注いだが、福祉国家としてのあたらしい権力の姿を描かなかった…と批判する。 ▽エスピン-アンデルセンの社会保障の類型(レジーム)を参考にしつつ、日本の現状を考察する。スウェーデン型(社会民主主義レジーム)、ドイツ型(保守主義レジーム)、アメリカ型(自由主義レジーム)である。おおざっぱに言って、ドイツ(大陸ヨーロッパ)型の構成をそのままアメリカ(アングロサクソン)型の規模に縮小している、とでもなるだろうか。 ▽スウェーデン型を無批判に礼賛する、あるいは毛嫌いする両極端の風潮を戒め、細かく分析している。 スウェーデンの雇用政策の基になるレーン・メイドナー・モデルの設計者のレーンは、同一企業に雇われ続けることを重視する雇用モデルを「殻の保障」、柔軟性を重視しながら生活保障を図るスウェーデンのそれを「翼の保障」と称した。 ▽内容が多すぎて、読み進むのがしんどい。1章ごとに独立した1冊の本にしてもいいのでは?と思う。

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2010年2月

武良布枝『ゲゲゲの女房』実業之日本社
書店で平積みになっていたのを手に取った。著者は水木しげる(武良茂)の妻。水木の強烈に個性的な生き方とは対照的に夫につき従う古い時代の女性の典型ともいうべき生き方。NHKのテレビドラマになるとのこと。

藤沢周平『静かな木』新潮文庫
表題の短編のほか「岡安家の犬」「偉丈夫」を収める。佐高信は藤沢周平と司馬遼太郎を対比させるが、どちらも好む無節操もあっていいのでは・・

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2010年3月

堤未果『ルポ貧困大国アメリカU』岩波新書
2年前のルポの続編。オバマの登場でアメリカは「チェンジ」したのか、が全体のテーマだ。▼第1章は学資ローンを取り上げる。公的な教育援助として始まったはずの「サリーメイ」が、いつのまにか民営化され、学歴に夢を託す若者たちを相手に暴利をむさぼり、若者たちを貧困に陥れている。規制緩和された金融資本は、弱者を食い物にする。▼第2章は年金を中心に老人福祉を取り上げる。公的年金よりも企業年金がウエイトを占め、それが重荷になった経済界の主導で確定拠出型年金「401K」が取り入れられた。それらは老後の格差を拡大し、財政的にも行きき詰まりつつある。▼第3章は医療。この章は、ボランティアによる無料診療のイベントの光景からはじまる。いちばん人気なのは歯科だという。保険の契約が縮小され、歯科にかぎれば無保険者は3人に1人だという。ずらりと並んだ椅子で歯科治療を受けている写真が掲載されている。アフリカではない、アメリカで実際に起こっていることなのだ。医療費の3分の1は民間保険会社が手にする。医師が請求した医療費の20%が「却下」される。多くの医療関係者が、中間で儲けをむさぼられる民間保険ではなく、公的保険に夢を抱いていた。しかし、保険会社などによる金に糸目をつけないネガティブキャンペーンはすさまじい。▼第4章は刑務所。民営化が驚くほど広がっている。軽度の犯罪でも、どんどん刑務所に送られ、アメリカは全世界の「刑務所人口」の25%を占める。派遣やパートよりも安上がりな労働力を提供し、成長分野として投資家の注目を浴びている。どうやら新奴隷制度とでも言ったほうがよさそうだ。▼選挙に熱狂し勝利に導き、それで冷めてしまう。洋の東西を問わず、よくあるパターンだ。「オバマを動かせ(Moving Obama)」というスローガンを紹介している。あとがきの最後の一行は「民主主義はしくみではなく、人なのだ」。

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2010年4月

橋本厳『医療費の審査』清風堂書店
絶版になっている本を書棚からひっぱりだしてきた。この3月から厚労省で「審査支払機関の在り方に関する検討会」なるものがスタートした。昨年の「事業仕分」を受けたものだ。医療機関からの請求は審査したうえで支払われる。いまは、保険者が「削り屋」と契約して、請求された医療費を削るのにやっきになっている。マスメディアはこうして削られた医療費を、あたかも不正や過剰であるかのごとくに報じるが、実態は全く異なる。ごく些細な書類上のミスを探し出して、実際に行なわれた医療を「査定」する。そもそも意図的に不正を働こうとする輩は、書類上でわかるようなヘマなことはしない。もし、事務的な記載のミスを訂正する権利が医療側に認められたら、減額「査定」よりも増額になるケースのほうが多いかもしれない。

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2010年5月

沖藤典子『介護保険は老いを守るか』岩波新書
2000年4月、「介護の社会化」をかかげて介護保険がスタートした。が、財政的な動機からの「適正化」がはかられ、多くのひずみが生じている。05年改正での「予防給付」導入による「軽度」者の受給制限。同年10月から、いわゆる「ホテルコスト」の自己負担化。06年度からは生活援助の制限強化。09年度から単価がアップしたのに上限が据え置き。さらにコンピュータソフトの改変により判定の軽度化が問題になった。現場を見ない役人や学者は、とんでもない方向をうちだす。不正をなくすための「指導・監査」が、かえって現場を混乱させている。

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2010年6月

日野秀逸『沢内・生命行政に学ぶ』日本生活協同組合連合会医療部会
「自分たちで生命を守った村」として知られる岩手県沢内村(現・西和賀町)の事跡を解説したブックレット。ともすると「乳幼児医療費無料化、老人医療費無料化」のさきがけという一面が強調されがちだが、そこに至る村民の健康と暮らしを守る活動が重要だ。人口6千人の村に4人の保健婦を配置し、一人当たり医療費は大幅に減少した。(県平均+30%→−20%)また、除雪や耕地整備により経済状況を底上げした。「生命行政」とも称される深沢村政は、行政のありかたの根本を指し示す。

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2010年7月

本田桂子「その死に方は、迷惑です」集英社新書
前半は、さまざまなトラブルの例をあげて遺言書等の必要性を強調する。私が経験した「争続」は、おそらく当事者の人間性を考えると、それだけでは防げなかっただろう。 遺言書、財産管理等の委任契約書、任意後見契約書、尊厳死の宣誓書、これらを「遺言書+生前3点セット」として推奨している。 「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「遺言執行者」などを解説し、著者は「公証人」などの活用を勧めるのだが、けっこうハードルは高いし、いい事尽くめとはいかない。

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2010年8月

張本勲『張本勲 もう一つの人生−被爆者として、人として』新日本出版社
幼少時の右手の火傷によるハンディを乗り越えての野球、在日韓国人、被爆者としての一面。もっと直情型の人かと思ったが、けっこう理路整然とした本になっている。

産経新聞大阪社会部『生活保護が危ない』扶桑社新書
生活保護は「最後のセーフティネット」と言われる。日本は、該当するはずの貧困層が保護される比率の極めて低い国だ。いま、フリーターやニートと言われている若者が年を重ねていけば、やがて生活保護制度は破綻する。役所の「水際作戦」と不正不当な受給者と、両極端ばかりを取り上げるマスコミは、問題の所在をむしろ不明確にする。

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2010年9月

堀準一『歯と脳の最新科学』朝日新書
内容的にはそれほどま新しいものはないが、偏りがなくオーソドックスともいえる。しかし、「東大生の歯医者さん」を前面に、自慢話が鼻につく。東大には歯学部がない。東大医学部の歯科口腔外科には東京医科歯科大学出身者が多いので、チェックしてみたが、同窓会名簿に著者の名はない。

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2010年10月

鍛冶俊樹『戦争の常識』文芸春秋
著者は元航空自衛官。兵器や軍隊組織などを解説する。世界の軍事費はGDP比2.6%、日本は1%。軍人の比率は一桁違う。…と日本が「軍事」を軽視していることを批判する。

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2010年11月

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2010年12月

加藤陽子『それでも日本人は「戦争」を選んだ』朝日出版社
「高校生に語る近現代史」という内容。序章で、9.11後のアメリカと支那事変の頃の日本の共通点を語る。すなわち「戦争」ではなく「勧善懲悪の物語」だ。日清、日露の戦争突入は、かならずしも国民や多くの政治家が望んでいなかった、という。列強の思惑に操られた側面を強調する。第一次世界大戦のパリ講和会議の際にケインズが「アメリカ人は折れた葦です」と語ったとか。いっぽう、1931年東京帝大の学生のアンケートでは88%が「武力行使すべき」と答えている。なにせ史料を細かくとりあげて、当時の世相を分析する。読むのに疲れる。

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ダイモンジソウ(大文字草)