BOOK2009
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 《2008|2009− 1011122010



2009年1月

神谷秀樹(みたに・ひでき)『強欲資本主義ウォール街の自爆』文春新書
著者は「投資銀行家」である。「ウォール街にいると、まことに人間の強欲さが手に負えないところまできていると痛感する」(序章)。金融は実業の脇役だったはずが、逆転してしまった。合法でさえあればフェアであるかどうかは問題ではない。アメリカの「モノ作り」が衰退し、マネーゲームで稼ぐ「金融立国」へ向かった。GEは家電部門を売却し、いまや金融会社である。「金融工学」などで進歩したかに見える金融の世界には「強欲」が蔓延している。ファンドマネージャーにとって、企業の長期的な持続発展は目にない。株の売買、あるいは会社そのものの売却といった目先の利益で動く。1980年の米国企業CEOと労働者の賃金格差は42倍だったのが、2005年には262倍に拡がった。貧困層を商売のタネにしたサブプライムローンは、いくら上手にとりつくろっても、無理を通し続けることはできず、ついに破裂した。アメリカの浪費に日本の輸出が依存してきた。日本の経済は、これ以上「発展」をめざすのではなく、縮小して安定(均衡)を探っていくべきだ、と提言する。著者は反体制主義者ではない。「万人のためになる資本主義」を求める、善良な保守主義者である。2009.01.19

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2009年2月

岩田正美『現代の貧困』ちくま新書
日本では格差が問題視されるようになった最近でも、「餓死するような貧困はない。だから格差も問題ない」という議論がまかり通る。他の先進国と異なり、貧困の研究がまったく放置されてきた。かつて社会主義への反論をするために行った調査が、貧困が広く存在していることを確認することになった、という歴史(英・ラウントリー)は興味深い。人は人生の中で3回貧困に陥る危険がある、という。すなわち、子供として育てられている時期、子供を育てている時期、仕事からリタイアした時期、である。このモデルが近代国家の社会保障設計の基本になった。 ▼「貧困」を定義するとなると結構やっかいである。絶対的貧困は肉体の最低限の維持、というイメージで語られがちだが、はたしてそれでいいのか。ラウントリーらは「マーケット・バスケット方式」と呼ばれる方法で、生存に必要な最小限の費用を算出した。タウンゼントはこれを非現実的として、「社会のメンバーとして生きるための費用」とした。たとえば「お茶」は、栄養的には無価値だが、社会的には必需品、と考える。これが相対的貧困の定義の始まりとなる。ただし一般的には相対所得貧困基準をもって相対的貧困と称されることが多い。とはいえ、どこで線を引くか、というのはなかなか難しい。現代の社会では「マクドナルド・プロレタリアート」と呼ばれるような、新しい貧困の形がある。就労しているにもかかわらず貧困といわざるを得ないような状況にある「ワーキングプア」である。 ▼ホームレスの定義も難しい。「ホーム」と呼ぶに値しないところに住んでいる隠されたホームレスがたくさん存在する。その数は180万人前後と推定される。 日本の社会保障は「保険主義」に偏りすぎている。正規雇用を前提とした保険制度である。保険による救済と生活保護との間におおきなギャップがあり、貧困の問題は、そのはざまに存在する。とくに住居の確保のために、生活保護から住宅扶助を分離して拡充することを提唱している。
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2009年3月

吉岡充・村上正泰『高齢者医療難民』PHP新書
吉岡氏は介護療養病床を有する病院の理事長、村上氏は元大蔵官僚で厚生労働省への出向の経験もある。厚生労働省は平成18年、当時の医療療養病床25万床・介護療養病床13万床を平成24年度までに医療療養病床を15万床に削減し、介護療養病床を廃止する、という「医療制度改革」計画を発表した。財政優先の医療政策が、ひじょうにわかりやすい形で示された。が、マスメディアは無関心。国民の間にも事の重大さが伝わっていない。吉岡氏は介護療養病床の当事者なので、やや我田引水のところもあるが、それを割り引いても、現場の状況はきわめて深刻である。村上氏は逆に政策立案の当事者である。「在院日数の短縮」という方針はたてたものの、病床削減などという「数値目標」は当初なかった、という。氏は経済財政諮問会議とそれを推進した小泉・竹中路線に責任を求めている。が、官僚にも、また小泉劇場を賛美し続けたマスメディアにも、大きな責任があるはずだ。
→当HP「数字でウソをつくな」を参照していただきたい。


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2009年4月

大井玄(おおい・げん)『「痴呆老人」は何を見ているか』新潮新書
05年、厚労省の通知によって「痴呆症」は「認知症」と呼び名が変わった。ほんらい障害の一部である「認知」機能を総称にもってくることへの違和感は、専門家ほど強く感じたはずだ。/沖縄県での調査によると、あきらかな「老人性痴呆」は約4%で、他地域と変わらないのに、幻覚・譫妄などの周辺症状を示す人、さらにうつ状態の人もゼロだったという。都市部では約半分に周辺症状が見られ、4分の1以上にうつ症状がある。/痴呆老人によくみられる「偽会話」から「心を通わす」ことの重要性へ、文化論・人間論に発展する。すなわち、情報的コミュニケーションよりも、しばしば情動的コミュニケーションが世の中を動かしている。/ 重い言語障害のある痴呆老人が、いっときではあるが突然ハッキリとしゃべるというエピソードが紹介されている。母でも同じような経験をしたことがある。
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2009年5月

城山三郎『指揮官たちの特攻』新潮文庫
神風特別攻撃隊第一号の関行男大尉、玉音放送後に最後の特攻として宇垣纏中将とともに出陣した中津留達雄大尉。この二人は兵学校の同期であった。遺族にも取材し、二人の人生にスポットをあてながら、自らの海軍兵学校入学のエピソードを交えて、特攻そして戦争を考える。ばかげた戦術、むこうみずな戦略、しかしその背後にある不条理を容認し推進する社会のあり方こそが問題なのだ。城山は、この書では言っていないが、「大儀」という言葉(社会現象といったほうがいいか?)をキーワードとしている。

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2009年6月

城山三郎『硫黄島に死す』新潮文庫
硫黄島で戦死したオリンピックメダリスト・西中佐。「特攻くずれ」が殺人事件をおこし死刑になるまでを描いた「基地はるかなり」。捕虜を「実敵刺殺」した満州の小部隊が壊滅する「草原の敵」。疎開のために乗船した船が撃沈され村から女がいなくなった「青春の記念の土地」。はげしいシゴキを経て宝塚海軍航空隊予科練習生が淡路島へ向かう途中で空襲を受ける「軍艦旗はためく丘に」。ほか2編。

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2009年7月

むのたけじ、黒岩比佐子『戦争絶滅へ、人類復活へ』岩波新書
本名「武野武治」、93歳の老ジャーナリストのインタビュー。19歳で新聞社に入り、終戦時は朝日新聞記者であった。新聞の戦争責任を感じ、辞職。1948〜1978、秋田で週刊新聞「たいまつ」を発行した。この新聞のことや「むの」の名は知っていたが、実際に著作(口述ではあるが)を読むのは、はじめてだ。「戦争をやめさせた反戦運動はない」「これからは女の時代だ」「希望はある、絶望のど真ん中に」・・・

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2009年8月

トム伊藤『マイクロソフト戦記』新潮新書
いまや世界標準(Defact standard)となったウィンドウズの甘い汁を存分に吸いまくっているマイクロソフト。もちろん最初から標準であったはずはなく、いくたの紆余曲折があった。著者は、もう一歩のところで挫折して姿を消したMSXの中心にいた。MSXの頓挫は、急激な円高とゲイツvs西の対立による。MSXを支えていたのはハード・ソフトとも日本の技術だった。ウィンドウズが標準になりえたのは「幸運」だと言う。もうひとつつけくわえるなら「えげつなさ」かもしれない。昔のCPUやら今は消え去ったソフトなど、懐かしい名前がわんさと出てくる。

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2009年9月

原寿雄『ジャーナリズムの可能性』岩波新書
“新聞界のドン”渡邊恒雄・読売新聞会長&主筆による「自民・民主大連立工作」(2007年)をまずとりあげる。1994年の読売「改憲試案」もそうだが、すでにジャーナリズムの枠をはみ出した者を、トップに据え続けていることがおかしいのだ。また、その依拠する新聞を購読しつづける国民にも問題がある。戦争報道への政治の介入に大きなウエイトを置いているが、小泉劇場への加担について論及されていないのは片手落ちだ。

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2009年10月

堤未果『アメリカは変われるか?』大月書店
雑誌に連載された短い文章を集めたもの。細切れのエピソード集のような感じを受ける。幅広くかつ深くつっこむ情報収集力はさすが。9.11以後のアメリカに幻滅し、いったんはアメリカを離れた著者は、ふたたびアメリカに目をむけ、歴史の教訓を得ようとしている。国民の無知と無関心が最大の問題、という。

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2009年11月

金丸弘美『田舎力』NHK出版
いわゆる町おこし村おこしのルポである。「ヒト・夢・カネが集まる5つの法則」とサブタイトルがついている。「発見力」「ものづくり力」「ブランドデザイン力」「食文化力」「環境力」の5章からなり、各地の実例を紹介している。なお、著者は男性である。

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2009年12月

佐高信『小泉純一郎と竹中平蔵の罪』毎日新聞社
毒舌が踊る。「小泉単純一郎」「郵政米営化」「電波芸者」「厄人・厄所」などなど。ところでタイトルの小泉&竹中に関する部分は、6章あるうちの1章の、そのまた一部だけで、肩透かしを食った・・

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ダイモンジソウ(大文字草)