BOOK2003
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 《2002|2003− 1011122004



2003年1月

谷岡一郎『「社会調査」のウソ』文春新書
「社会調査」の過半数はゴミであり、それが参照され引用されて新たなゴミを撒き散らす。著者は左派系の団体などのアンケート調査に対して厳しいが、これらは、承知のうえでプロパガンダの手段として利用している。見るほうも、そのように受け取る。いちばんタチの悪いのが政府系の調査と、それを鵜呑みにするマスメディアではないだろうか。ともあれ、さまざまな調査報告を見る眼(リサーチ・リテラシー)を養うには手ごろな書である。2003.01.05

井上ひさし『宮澤賢治に聞く』文春文庫
賢治は人間の手本である、と著者はいう。科学、宗教、労働、芸能─この四つを一人の人間の中に詰め込んで「輝く多面体」にしたのが賢治だ。タイトルは、賢治との擬似対談の1章から。「聖化されるのはいやです」の一言を書きたかったのであろう。あまりにも熱狂的なファンが多いから。2003.01.16

村上龍『おじいさんは山へ金儲けに』幻冬舎文庫
日本の昔話をアレンジして「投資」について考える材料を提供する。話そのものは面白く読んだが、「投資」についてはよくわからない。副題は「時として、投資は希望を生む」となっている。不運を嘆くばかりでなく、知識をもて、という寓話。2003.01.19

保岡裕之『メディアのからくり』ベスト新書
約9割の人が新聞を信頼し、7割が「新聞は公平な報道をしている」と考えているという。実際には公平でも中立でもないことが多い。おおくのマスメディアは政府の権力に対峙する「第4の権力」としてのジャーナリズムの本分からはなれ、メディア産業として産業界・経済界と一体化している。「(湾岸戦争の)敗者は、サダム・フセインだけではない。マスコミもまた敗者なのだ」という元米国高官の言葉が示すように、あるいは、9・11テロ事件以後の米マスコミの醜態にみられるように、政府の広報機関に堕している。批判的に情報を読み解き、能動的・主体的に情報にかかわっていく能力=メディア・リテラシーを提唱する。インターネットが、ひとつの有力な手段になりうる。2003.01.25

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2003年2月

杉山知之『デジタル書斎の知的活用術』岩波アクティブ新書
ノウハウ書ではない。著者の日常を反省もふくめて紹介している。たとえば‥パワーポイントは、アイデアプロセッサ的に使うと有用。一方で表現の細部に凝りすぎて時間を浪費しがち。一般に、ソフトは「たまに使う」のがもっとも効率が悪い。などなど。2003.02.01

田中長徳『デジカメだからできるビジネス写真入門』岩波アクティブ新書
著者はプロの写真家であり、当初は歯牙にもかけなかったデジカメを、いまは銀塩カメラと半々くらいで使っているという。画像データを扱うための道具として、「作品」からメモまで、割り切った使い方をアドバイスする。2003.02.02

二宮厚美『構造改革とデフレ不況』萌文社
不況の分析から始まる。ついで、戦後日本経済が大量生産・加工貿易・輸出主導から貿易摩擦をへて大企業の多国籍企業化&米主導グローバリゼーションへの追随へと移り変わる歴史を概観する。竹中平蔵ひきいる新自由主義改革は「経済危機・財政危機・生活危機の悪循環」をさらに加速している。投資が3、消費が7の日本の内需構造を欧州の2:8に、そして企業依存型福祉が崩壊する中で、持続可能な「平和・福祉・環境国家」を目指す。2003.02.11

三井弘『首は健康ですか?』岩波アクティブ新書
首が健康でないので、こんな本を読む。頚椎ヘルニアには10年来悩まされている。やはり手術は最後の手段か。2003.02.11

日垣隆『情報の「目利き」になる!』ちくま新書
メディアリテラシーを高めるQ&A、と副題にある。それなりの業績のある若手フリージャーナリストなのだろうが、自意識の強さに閉口する。最後の2章がおもしろい。2003.02.18

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2003年3月

アンドリュー・デウィット/金子勝『反ブッシュイズム』岩波ブックレット
「ブッシュがバカなのは、世界中の誰もが知っているアメリカの国家機密だ」。しかし、ブッシュの「明るい」性格がアメリカでは人気を集める。知性と資質に欠けた指導者が圧倒的な軍事力を握るのは、きわめて危険なことだ。いっぽうでブッシュは「貧乏人が貧乏なのはキリストへの信心が足りないからである」というようなキリスト教超右派に近い心情を持ち、市場競争を説きながら本人は縁故で成功した。こうしてみると、わが国の小泉首相はブッシュの先輩格と言える。2003.03.03

ハンセン病訴訟勝訴1周年記念シンポジウム実行委員会『お帰りなさい!』桂書房
シンポジウムの内容を収録している。藤野豊氏の講演は、ハンセン病の歴史を簡潔にまとめている。「国辱」という観点から、最初は放浪患者が隔離され、次いで全患者隔離へ、さらには監禁・断種・虐殺といった「日本型隔離」へ。戦後も、世界の流れに抗して、なかなか隔離政策を放棄しなかった。こういう政治の姿勢は、ハンセン病に限らない。社会保障あるいはもっと広く公共サービスに共通する「この国のゆがみ」のキーワードは「人権」ではなかろうか。2003.03.08

FUGAFUGA Lab.『ブッシュ妄言録』ぺんぎん書房
ブッシュの妄言・失言を集めたもの。帯には「世界一危険なバカ」とある。たしかに、知性のなさは際立っているが、指導者には、ほんとうに知性は必要だろうか。必要だとすればブレーンを選び使う見識だろう。「バカ」をうまく操っているブレーンたちが問題だ。2003.03.18

福島清彦『ヨーロッパ型資本主義』講談社現代新書
アメリカ型社会を目指す「構造改革」に対して、日本のメディアは、あまりに無批判に追従している。著者は野村総研の主席エコノミスト。アメリカ、ヨーロッパでの12年間の研究生活が土台になっている。「欧米」と並べて言及されることが多いが、「欧」と「米」では「天と地ほど違う」という。アメリカ流市場原理主義に対して、ヨーロッパ流福祉国家路線、その二つの対立が21世紀の主要テーマになる。日本では紹介されることの少ない視点からの議論は傾聴すべき。この本はイラク戦争前に書かれたものだが、ヨーロッパ(EU)こそが打撃の標的だったのではないか、と考えさせられる。脱亜入欧という言葉がある。アジアの亜が原意だが、亜米利加の亜として復活させよう。2003.03.23

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2003年4月

寺島尚彦・大塚勝久『さとうきび畑』小学館
ざわわ・ざわわ・ざわわ、で始まる長い長い曲「さとうきび畑」を主題にした写真+文集。作曲者の寺島氏はもとより、この曲を歌った歌手たちも文を寄せている。1967年に発表され、うたごえ喫茶などでひろく歌われた。最近、ふたたび歌われるようになっている。2003.04.02

田中淳夫『里山再生』洋泉社
「森を守れ」が森を殺す!』の著者。相変わらず市民運動などの情緒的な面について冷たい。第4章「人が里山にできること」では、各地での新しい取り組みが紹介されている。かつて、人々の生活にむすびついて維持されてきた里山が、いまは放置され、里山から原生林になっていく。里山に、いかにして人を戻すか、がテーマ。2003.04.05

江川紹子・森住卓『イラクからの報告』小学館
フォトジャーナリスト森住卓氏の写真をふんだんに使った、ルポ。なぜアメリカはイラク攻撃にこだわるのか。さほど脅威になっているとも思えない貧乏な国だ。たしかに善良ではなさそうなサダム・フセインを理由に、善良な国民を不幸にする。地下に宝(石油)を眠らせていることが悲劇の源なのだろうか。サダムを倒せば終わり、というアメリカの目論見は、たぶん外れるだろう。2003.04.06

川村享夫『誰も気がつかないブッシュの世界戦略』ダイヤモンド社
著者は早稲田大学大学院教授で、国連幹部職員の経歴がある。米大統領とユダヤ財閥とのかかわり(政治献金の25〜30%がユダヤ人の寄付)、ブレーンであるネオコン(新保守主義者)のエネルギー戦略、中東でのサウジの危険な状況、などなど。結構、思い切ったことが書かれている。2003.04.08

シニアライフ情報センター『終の住まいの探し方』岩波ブックレット
旧来の福祉制度の名残があったり、介護保険の限界があったり、と錯綜している。それらを整理するのに手軽な手引きではある。しかし、これぞ、という終の住まいを見出すのは難しい。金さえあれば、滝上宗次郎氏の言う『「終のすみか」は有料老人ホーム』ということになるだろうが、それだって地方にはない。2003.04.09

富永健一『社会変動の中の福祉国家』中公新書
著者は社会学者であり、厚労省「社会保障・人口問題研究所」にも関与している。副題は「家族の失敗と国家の新しい機能」。近代産業社会の高度化にともない、人間の福祉を担ってきた「家族」が機能を喪失し、代わって国家が担わざるをえなくなった。日本型「イエ社会」を過大評価した日本型福祉社会論はすでに破綻した。新自由主義者(市場主義)は、家族(親族)社会の失われた部分を、外食産業のように商品化できると考える。が、環境・福祉といった公共財は市場では調達できない。1〜4章は学説の紹介・比較や歴史的考察。5章が日本の社会保障を扱う。「後発産業国型」日本はヨーロッパ先進国に追いつくことをめざす「官僚主導型」の一環として福祉国家化も進めてきた。軸足がしっかりしていないために、いま、アメリカ型の市場主義に引きこまれつつある。2003.04.16

ドロシー・キャンシラ(中野次郎=訳)『HMOに娘は殺された』集英社
著者の娘ジェニーは、21歳で激しい腹痛に見舞われて、膵臓疾患と診断されて以来、たびかさなる手術・入院を繰り返したあげく29歳で亡くなった。しかも、葬儀の席で、父親(著者の夫)が急死。「8年間にわたる誤診、不必要な手術、そして医師の無視と無能力の末に─」と著者は怒る。原題は DEATH BY HMO 。「HMOは、慢性患者を多数扱うと、損する仕組みになっている‥‥治療し続けるより、死んでもらって訴訟に負けたほうが経済的な損失が少ない‥‥」。訳者(医師)は、あとがきの中で、アメリカの医療政策を模倣しようとする日本の政治を強く批判している。2003.04.16

吉崎達彦『アメリカの論理』新潮新書
アメリカ・ウォッチャーとしての「企業秘密」は「アジアやイスラム世界に対しては、わざと偏見を持つ」ことと「日本の新聞をあまり読まないこと」だという。ブッシュ政権と政策シンクタンク「PNAC」とは深く関わっている。PNACが多くの重要なポストに人を送り込んでいる。というより、PNACがブッシュJrを見出し、担いだと言ったほうがいい。「世界でもっとも危険な指導者が、もっとも危険な兵器を持つことを放置できない」‥‥ブッシュ大統領が02年3月18日に記者団に語った言葉であるが、それは、そのままアメリカに当てはまる。2003.04.17

鈴木厚『日本の医療に未来はあるか』ちくま新書
前著に比べると実証的な記述が格段に多くなった。が、やはり、どこか感情的なところがあって、読者の共感を得られるか心配になる。怒るのは、ごもっともなのだが‥‥。2003.04.20

高橋伸彰『優しい経済学』ちくま新書
前著『数字に問う日本の豊かさ』の頃、著者は官僚だったが、現在は立命館大学教授。水を得た魚?のように、するどく政府を批判している。 日本の経済力はイギリス、フランス、ドイツの三カ国合計に匹敵するほどになった。その巨大な経済力を分配すること、競争ではなく協力することによって、豊かさを手にできるはずだ。80年代後半、「成長」から「豊かさ」へと人々が目を向けはじめた矢先にバブルが発生した。汗水流して働くよりも、こざかしく土地や金を転がす者が報われ、人の心は貧困になった。いま、成長をめざして痛みに耐えろという。GDPが増えれば人は幸せになるのか? 著者の目指すところは「改革なくして成長なし」ではなく、「成長しなくても豊かさあり」である。「コップ1杯の水」のたとえはわかりやすい。─「のどが渇いて死にそうだけれどコップ1杯の水に対しては10円しか払えない貧しい人よりも、二日酔いで頭が痛いので1000円払ってもよいという金持ちのほうが市場では優先される」。「困っている人の側に立たず、困っていない多数派の視点で」、改革が推し進められている。努力した人が報われる、などと言うが、金儲け以外のためにいくら努力しても、報われない社会に向かっている。2003.04.23

吉村昭『漂流記の魅力』新潮新書
吉村氏の漂流ものの小説は、いくつか読んだことがある。「神昌丸」の大黒屋光太夫らがロシアからはじめての生還を果たした翌年(1793)、石巻から江戸に向かう途中で「若宮丸」(16人乗組)が遭難した。異国で死ぬもの、洗礼を受けて留まるもの、内部での確執があり、曲折をへて、世界一周して4人が日本へ帰った。2003.04.24

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2003年5月

五十嵐敬喜・天野礼子『市民事業』中公新書ラクレ
公共事業批判の五十嵐、ダム批判の天野。天野氏が各地の取り組みを取材し、五十嵐氏がコメントを加えている。自然破壊につながる公共事業を、自然保護または自然回復の「緑の公共事業」に転換するのはいいが、財政破壊から目をそらさないでほしい。介護保険の樋口恵子みたいに体制側に取り込まれることを危惧する。2003.05.01

池上直己『医療問題(新版)』日本経済新聞社
旧版(9906)が大幅に書き改められている。著者の主張にすべて同意できるわけではないが、少なくともここに書かれている事実関係や問題点は押さえたうえで医療を論じる必要がある。2003.05.10

山平重樹『ヤクザに学ぶ交渉術』幻冬舎アウトロー文庫
ヤクザに学んで何かの交渉をしようというのではなく、ヤクザのような人間から身を守るために読んだ。そういう業界に入ったら出世できそうな人間が、意外と身近にいたりするものだ。一読、なるほど、と感心させられるが、やはり自分には真似できそうにない。こういう類の連中とは関わらずにすめばそれに越したことはない。2003.05.14

梅田卓夫『中高年のための文章読本』ちくま学芸文庫
ちかごろ文章を書くのが億劫になって、書き始めても、なかなかまとまらない。「文章読本」のたぐいを読んでもあまり役に立たないことは分かっていても、つい手を出してしまう。中高年は、知識・教養などの「既成概念」のために創造的な表現ができない。文章表現の目標を@自分にしか書けないことをAだれにもわかるように書く、と定義する。2003.05.15

宇沢弘文『社会的共通資本』岩波新書
難しげなタイトルである。それは、ゆたかな社会を支える社会装置と定義され、自然環境、社会的インフラ、制度資本の三つのカテゴリーに分けられる。制度資本のなかで、とくに大切なのは教育と医療であり、無批判に市場原理を持ち込むのは間違いだと指摘する。第1章は経済学史を概観し、2章以降は各論。著者は大学を退職した後で医学部へ入りなおそうとして家族に反対されて思いとどまった、と何かで読んだことがある。ともあれ、第5章は医療に充てられている。「医療を経済に合わせるのではなく、経済を医療に合わせるべきであるというのが、社会的共通資本としての基本」という正論は、職業的倫理性への信頼が前提となっている。2003.05.19

船越亮二『散歩が楽しくなる樹の薀蓄』講談社+α新書
写真が載っていない(ところどころに線画が入る)ので、読んでいてもいまいちピンとこない。園芸関係の樹木の特徴や由来に詳しい。2003.05.27

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2003年6月

小山内博『生活習慣病に克つ新常識』新潮新書
朝食は食べる意味はなく、むしろ有害だという。食後すぐに働き始めるのは消化器を傷める。ほんとうの空腹にいたらずに、ブドウ糖が供給され、蓄積一方になるから肥満の原因とも。朝食を抜き、昼食も軽くすることで、インシュリンやグルカゴンが働く体質に改善せよ、と。その他、冷水浴による副腎強化、体幹筋トレーニングなどを説く。2003.06.02

金子勝・丸川珠代『ダマされるな!』ダイヤモンド社
昨年、テリー伊藤との対談形式の経済入門書がでたが、こんどはテレビ朝日女子アナとのメール対談。金子氏が書いた本は文章が難解で、敬遠したくなるが、こういう形式のものは読みやすい。日本の政治には、「風が吹くのは桶屋のせいだ」式の無責任・無策・無茶苦茶な論法がまかり通っている。なお、著者らは東大経済学部の先輩後輩の関係である。2003.06.03

岡光序治『官僚転落』廣済堂
平成8(96)年12月、収賄で逮捕され失脚した厚生事務次官(当時)の手記である。馬鹿にされるのが関の山(序文)と自嘲しつつ、犯意がなかったことを縷々述べている。3章以降は「自分史」。大学時代に部落研やセツルメントにかかわっていたという。60年安保、6・15のデモでは樺美智子さんのすぐそばにいた。それなりに志があったと言えるだろう。自分の母親が寝たきりになって、介護に直面した。みずからが企画立案の先頭に立っていた介護保険が、想定していた姿とあまりに違うことを率直に語っている。エリート官僚の生い立ちと転落の読み物として面白い。最後のあたりで「事務次官をほんのもう少しのあいだだけやらせてもらいたかった」と未練をもらす。折りしも今年6月4日、岡光氏らの上告が棄却され、実刑が確定した。2003.06.05

呆け老人をかかえる家族の会愛知県支部『はい、こちら痴呆電話相談です!』日本評論社
さまざまな相談事例をQ&A形式でまとめたもの。ところどころにコラム風の解説がはいる。身につまされる話がいっぱい。2003.06.08

光田重幸『草花ウオッチング』日本放送出版協会
NHK教育テレビ「趣味悠々」シリーズのテキスト。放送内容とはだいぶ違うが、草花を見分けるときのポイントを、学問的な基礎の上に立って解説している。2003.06.12

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2003年7月

小林雅一『隠すマスコミ、騙されるマスコミ』文春新書
最新のメディアリテラシー関連書。著者は米国での9年の記者経験を有する。冒頭に30年間に40回以上もマスメディアを騙して誤報・虚報を流させ、それをアートと誇るスカッグス氏を紹介する。信頼性より娯楽性を重視する昨今のマスコミが陥る失敗の例が盛りだくさん。2003.07.03

横山寿一『社会保障の市場化・営利化』新日本出版社
構造改革は、グローバル化する経済の中での競争力強化のために、「高コスト構造の是正」と「新産業の育成」を課題とし、規制緩和を主な手段として、あらゆる公的サービスを市場化・営利化しようとしている。第5章は、国民経済と社会保障の関係を歴史的に検討している。構造改革期に至って、社会保障の役割を評価する動きが見られる、という指摘には虚を突かれた感じがした。それは今後も需要の拡大が見込まれる社会保障を「産業」として市場に引き出そうという動きである。社会保障の人権原理から市場原理への転換とも言えよう。終章で、人権の保障を基礎に置いた非営利原則の「バージョンアップ」を提唱する。2003.07.12

デイリー・ヨミウリ編『へんな国、困った国ニッポン』中公新書
日本で暮らす外国人たちが遭遇するさまざまなトラブルをルポしている。失業率が高まるいっぽうで非合法またはそれに近いかたちでの外国人労働力に頼らなければ成り立たない産業がある。労働現場の格差をなくすこと、外国人を合法的に受け入れること、を同時にすすめなければならないだろう。2003.07.12

暉峻淑子(てるおか・いつこ)『豊かさの条件』岩波新書
いま、人権と民主主義が悪者視され、アメリカ型グローバリゼーションへの適応が最優先され、生活のあらゆる局面で不安が高まっている。「人間らしい平和と福祉を望む声は、肩身の狭い願望になった」と嘆く。失業・ホームレス・不登校・いじめ等には「競争原理」が影を落としている。歴史をふりかえると、「競争がなくても人間は生きられたが、共同の支えなしに人間は生きられなかった」。著者はディーセント(decent)な労働、ディーセントな生活、と言い、あえて日本語に訳していない。(ILO駐日事務所は「人間らしい」としている)。最後に、「新自由主義の市場経済」に対して「人間の連帯経済」を提唱する。2003.07.15

ノーム・チョムスキー『メディア・コントロール』集英社新書
著者は言語学の世界的権威であり、反戦理論家である。第一次大戦当時、米国の「クリール委員会」は、組織的な宣伝活動により、平和主義の世論を半年たらずで熱狂的な戦争賛成に転換させた。これが「民主国家」によるメディアコントロールの嚆矢だという。大衆扇動において大切なのは「誰も反対しようとしないスローガン、誰もが賛成するスローガンなのだ。それが何を意味しているのか、誰も知らない」。「火星から来たジャーナリスト」というテキストでは、火星でしか報道されないであろう事実を、皮肉をこめて列挙している。言論統制はない。しかし、情報が表に出てこない。最後に、辺見庸氏との対談のなかで、アメリカ批判するまえに日本を見つめよ、「鏡を覗いてみることです」と諭す。2003.07.16

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2003年8月

内橋克人『もうひとつの日本は可能だ』光文社
市場原理主義に警鐘を鳴らしつづける内橋氏の近著。「人間存在にとって不可欠な公共財のすべてを、貪欲な利潤追求の対象に変えてしまうような」いまの世界に対して、「もうひとつの」選択を主張する。第1章、宇沢弘文との対談(抄)のなかで、市場原理主義の教祖・フリードマンの人間性(金の亡者ぶり)が暴かれている。第2章では「規制緩和」を自社のビジネスチャンスとして猛進するオリックス・宮内氏の二枚舌ぶりが暴かれる。第3章では「市場原理にとって邪魔な宗教原理」の排除が中東問題の背景にあることを指摘する。国防バブルからイラク復興ビジネスへ、米国の経済は戦争に救いを求めている。第4章(最終章)は「新たな発展モデル」を探る。著者は「FEC自給」を繰り返し主張している。(F=食糧、E=エネルギー、C=ケア)2003.08.03

伊藤惇夫『政党崩壊』新潮新書
著者は自民党を皮切りに新進党、太陽党、民政党、民主党の事務局を渡り歩いた人物。民主党では01年まで事務局長を務めた。88年、リクルート事件が発端となった「政治改革」は、さまざまな変遷を経て現在に至る。所詮は永田町という隔絶された世界での「陣取り合戦」の繰り返しだった--裏面史は面白いが、こうやって政治が動いていくのかと思うと虚しい。2003.08.06

佐高信『佐高流経済学入門』晶文社
副題に「私の出発点」とある。名の知れた経済学者たちを「斬る」のを期待したが、様子が違う。辛口評論家の原点を示す意図で編まれたものらしい。大学の卒論も収める。2003.08.17

工藤恒夫『資本制社会保障の一般原理』新日本出版社
いきなりレーニンの言葉が引用されていて驚かされる。国民の生存権を社会的に保障するのが社会保障と呼ぶことのできる段階である、と規定する。資本主義の歴史と、その中から必然的に生み出された「生存権」のありようを緻密に分析している。「自己責任」が原則とされる経済体制のなかで、その原則を修正する形で存在する社会保障には、さまざまな限界がある。自助から社会的扶養へ、それは財政的には企業負担分と公費負担の増加というトレンドになっているが、先進国中で日本だけは例外だ。企業負担(保険料の企業負担)を重視するが、少々荒っぽくないか? 2003.08.28

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2003年9月

フランツ・ルツィウス(山下公子=訳)『灰色のバスがやってきた』草思社
「構造改革」と、その重要な位置を占める社会保障改革の進展、そんな時代の流れのなかで「灰色のバス」の話を思い浮かべていた。じつは、この本は初版(91年)ころに入手し、開かないまま「積読」になっていた。ナチスドイツのT4計画。25万人もの障害者を、当初はユダヤ人と同じようにガス室へ送り、のちに「人道的配慮」から、医師の手で薬殺(安楽死)するようになった。価値のない人間を抹殺し、それによって国家財政に寄与したという試算も残っている。あまりにおぞましい内容であることが予想され、読み始めることをためらっていた。ともあれ、物語は1300人近い障害者を収容する施設に「患者移送」の命令が伝えられたところから始まる。危険を覚悟で抵抗する人々の努力は、ことごとく打ち砕かれる。2003.09.04

城山三郎・内橋克人『「人間復興」の経済をめざして』朝日新聞社
米国追随の経済政策を厳しく批判する城山氏と、「人間」主体の経済を主張しつづける内橋氏の対談集。もっぱら城山氏は聞き役である。「構造改革」路線を批判することでは一致しているが、この二人のスタンスは若干違う。内容は内橋氏の近著『もうひとつの日本は可能だ』と共通する部分が多い。2003.09.07

C・Wニコル『森から未来をみる』日本放送出版協会
「ケルト系日本人」ニコル氏のNHK人間講座テキスト。日本人となって、自然保護に注力する今にいたる自伝的内容である。世界を駆け巡っての体験に基づいた説得力のある内容だ。2003.09.18

柴山哲也『戦争報道とアメリカ』PHP新書
よく言われるように、ベトナム戦争では「米政府がメディアに負けた」が、湾岸戦争では政府がメディアに勝利した。イラク戦争では、さらに一歩すすんで、メディアを従えた。従わないメディアは「誤爆」の標的にされた(戦闘終結宣言までのジャーナリストの犠牲は17人)。後半はネオコン(=ネオリベラル)の実態と、そのメディア支配について詳述している。アメリカがイラク統治の手本にしているのが日本占領であり、その日本はアメリカのネオコンの意向を先取りする形で追従する。メディアは「侵攻」(朝日、毎日)、「進攻」(読売)、「進撃」(共同)と報じたが、おしなべて「観客客観主義」であった。2003.09.19

稲垣栄洋『身近な雑草のゆかいな生き方』草思社
身近な雑草50種をとりあげ、その生存戦略を、さまざまなエピソードを交えて紹介している。ややイネ科の比率が高いかなという印象を受けるが、日ごろイネ科の雑草を見過ごしているせいかもしれない。2003.09.23

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2003年10月

原克『悪魔の発明と大衆操作』集英社新書
「われわれはメディア大衆である‥われわれは、行儀の良い視聴者でありリスナーなのだ」という書き出しから、メディア文化史を予想したが、科学技術史にウエイトが置かれている。「悪魔の発明」としてとりあげるのは「ラジオ」「テレビ」「パンチカード」である。パンチカードは意外な印象を受けるが、それは国民をマスとして分別支配するための強力な手段となり、ドイツではユダヤ人狩とその後の処理に活躍した。2003.10.02

三木義一『日本の税金』岩波新書
税制の全体像と課題について詳述している。軽減税制によっても消費税の逆累進解消にはならない、「課税最低限」統計のまやかしなど、示唆に富む。「近代の税制は、人頭税から間接税を経て、所得税へ」負担能力による公平の道を辿ってきた。いま、消費税によって公平の概念は変質しつつある。なにせ細かい制度や数字の解説が多く、読むのに疲れる。2003.10.08

田中修『ふしぎの植物学』中公新書
光合成の発見から、乾燥とのたたかい、紫外線への対応、生殖など、植物の生理を平易に解説している。花の観賞より、畑仕事をする際に参考になりそうだ。ヒマワリの隣に植えた白菜が育たなかったのは抑制物質のせいだったのか・・ 2003.10.13

東谷暁『やはり金融庁が中小企業をつぶした』草思社
「プロもアマチュアも少年も、同じグラウンドで野球をしろ」というような原理主義的金融行政は、結局は中小零細企業への貸し渋り&貸しはがしを生んだ。東京商工リサーチは02年の倒産件数を1万9千件余と発表しているが、「廃業」はその4倍ある。新しい会計原則は、企業売買に都合のいい清算価値を元にしたもので、これは「鹿鳴館金融政策だ」。丹念に取材して書かれている。2003.10.15

植松黎『毒草の誘惑』講談社+α文庫
さまざまな毒のある植物や麻薬の原料となる植物を訪ね歩く。研究ではなく、好奇心の赴くままに。スズランやキョウチクトウのように、ごく身近に強い毒性をもった植物がある。著者はときにそれらを「毒見」する。いっぽう、地球の裏側までコカの生えているところを見に行く行動力にはあきれる。2003.10.17

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2003年11月

田中康夫ほか『市民がつくる公共事業』岩波ブックレット
田中知事のほか佐和隆光氏、山口二郎氏らのディスカッション。田中氏は司馬遼太郎氏の「功罪」として「この国のかたち」に苦言を呈する。司馬氏は、もちろん公共事業でできる「形」のあるものを指して言ったわけではないが、のちに保守政党が、このことばを捻じ曲げて使うようになった。2003.11.16

甲野善紀『古武術からの発想』PHP文庫
武「道」ではなく武「術」にこだわる。「道」として、精神論あるいは哲学の装いのもとにあいまいにされているものを明らかにする姿勢が面白い。が、話は抽象論、哲学論になりがちだ。2003.11.20

藤沢晃治『「分かりやすい説明」の技術』講談社
このところ立て続けにプレゼンテーションをする機会があり、たまたま書店で見かけて買ってきた。書いてあることは、著者も言うように「あたりまえ」のことばかりだが、ともすれば、あたりまえのことをないがしろにしてしまう。テクニックだから、なかには「騙し」と紙一重のものもある。2003.11.24

養老孟司『いちばん大事なこと』集英社新書
多能な「脳科学者」である。いままでの多作なあれこれの書とは趣が違う。はじめて環境問題について発言する。著者が昆虫採集を生きがいにしているとは意外だった。環境問題は最大の政治問題だとの信条を抱きつつも、「環境原理主義」の存在が、発言を控えさせていた、という。小気味よいテンポで話が進む。「月までロケットが飛んだ、といって人間は威張っているが、飛ぶだけならハエだってカだって飛ぶ。そもそも人間はロケットの仲間か、ハエやカの仲間か」 2003.11.25

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2003年12月

飯間浩明『遊ぶ日本語・不思議な日本語』岩波アクティブ新書
文法的に間違っているが広く使われている言葉、文法的には誤りではなくても落ち着きのわるい用法、など。言葉の薀蓄。2003.12.03

松本健一『砂の文明・石の文明・泥の文明』PHP新書
土壌?に着目した文明論。「泥」の風土で農耕を生業とすることによって「泥の文明」が生まれ、「石」の風土で牧畜を生業とすることによって「石の文明」が生まれ、そして「砂」の不毛な砂漠を隊商をくんで生活する民が「砂の文明」を生む。文明論として面白いが、「泥の文明」の原点を印度に見、三島由紀夫を引き合いにだしてくるあたりから胡散臭くなる。2003.12.05

島本慈子『ルポ・解雇』岩波新書
構造改革・規制緩和の流れの中で雇用も「自由化」されようとしている。雇用形態の多様化という名目での正社員の削減、非正規社員の拡大、そして解雇の自由化だ。総合規制改革会議に巣くう新自由主義者らが企画立案し、スポークスマン小泉首相が広宣流布する。労働現場の状況は悪化しつづけている。何の保障もなく、帳簿上「物件費」として処理されている闇の派遣労働者まで存在するという。第5章、オリックスCEO、総合規制改革会議議長・宮内義彦氏との対談は必見。本音をよく聞きだしている。2003.12.08

青木雄二『青木雄二のナニワ資本論』朝日文庫
マルクス、エンゲルス、ドストエフスキーなどを引きながら、資本主義社会のゼニをめぐる矛盾・人間疎外を面白く描く。漫画(イラスト)が3ページに1枚の割で挿入されていて、読むのに飽きが来ない。2003.12.11

小川忠『原理主義とは何か』講談社現代新書
イスラム原理主義を敵視するアメリカ政府自身が、原理主義の特徴を強めている。キリスト教原理主義、イスラム原理主義から日本型原理主義まで幅広く扱う。なにぶんにも固有名詞が洪水のように出てくるので、宗教史の素養のない身には読むのが辛い。第1章(概論)、第7・8章だけでも読む価値がある。戦前日本の原理主義は「散漫な原理主義」と名づけられ、その牽引車的役割を担ったのはマスメディアだという。今も昔も変わらない。2003.12.19

矢部三雄『森の力』講談社+α新書
陸地の3割が森林、日本の森林面積は7割で、ブラジルやフィンランド並で世界トップクラスだという。森林国日本だが、世界の130ヶ国から木材を輸入している。過剰な伐採で森林が破壊される国と、放置されて荒廃する国。森林のさまざまな様相や役割を、平易に解説している。2003.12.25


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