数字でウソをつくな!(その34)
かくも見事なタテワリ計算
1μシーベルト/h で 1ミリシーベルト/y
2011年8月26日、文科省から「福島県内の学校の校舎・校庭等の線量低減について」という表題の通知が出された。
夏休みが終わったあとの校庭・園庭の空間線量率については 1μSv/h未満を目安とする。これによって「学校において児童生徒等が受ける線量は1mSv/年以下となる」…としている。「学校において」であって、「学校外において」受ける線量は含まれていないことに注意。
文科省の計算では屋外で1μSv/hの空間放射線量率のとき、内部被ばくを含めた学校における年間の被ばく線量は0.534mSvになるという。この計算にはいくつかの前提条件がある。
(1)通学日数は年間200日とする
(2)学校での滞在時間は6.5時間とする
(3)うち屋内に4.5時間、屋外に2時間とする
(4)屋内の低減係数を0.2とする
(5)自然放射線として年間0.67mSv相当分を控除する
(6)内部被ばくの総被ばく線量に対する寄与率を10%とする
1x2+1x4.5x0.2=2.9 1日(6.5時間)の空間放射線からの被ばく
2.9x200=580 1年間(200日)の空間放射線からの被ばく
0.0765x6.5x200=99.45 1年間(200日)のバックグラウンド
580-99.45=480.55 人工放射線部分(μSv/y)
480.55x1/9=53.394 内部被ばくの見積もり
480.55+53.394=533.94 (μSv/y)「学校での」人工放射線による
=0.534mSv/y 年間被ばく線量
■目標値について
4月19日の「3.8μSv/h」を指標とした通知の計算方法とはかなり異なったものになっている。驚かされるのは、さすが「縦割り」というか、学校の敷地を一歩出たら関知しないという基準だ。1mSv/y という、ICRPの基準値とまぎらわしい目標値を設定しているが、あくまでも学校にいる間に限定した被ばくである。
■低減係数
前回と同じく「沈着した放射性物質のガンマ線による被ばくの低減係数」を参考にして、今回は「ブロックあるいは煉瓦造り」の「低減係数 0.2」を採用している。この「低減係数」については、非現実的な仮定に基づいていることを前頁で指摘した。おそらく、同じ屋内でも、場所や条件で大きく異なるはずだ。ぜひ現実の使用状態で実測し検証してほしい。
ほんらい、緊急時にごく短期間の「室内退避」を想定したもの。
■バックグラウンド
今回はICRPの方法に従い、原子力安全研究協会の数値を使用して自然放射線を控除している。計算してみると、0.0765μSv/h となり、一般に簡易計算で使われている 0.05μSv/h よりは大きな値になる。
■内部被ばく
今回、内部被ばくの見積もりを入れているのが目を引く。薬事・食品衛生審議会および原子力安全委員会の資料から、被曝線量全体のうちの寄与率が10%(内部被ばく線量=外部被ばく線量x1/9)と見込んでいる。「安全側に立った」数値だとしているが、内部被ばくの推定については、まだまだ確たる手段がない。1割程度の見積もりでいいのかどうか疑問がある。
ためしに、学校外の分を概算してみる。
妥当性には目をつむって、いままでの文科省の計算法を準用してみよう。
(1)登校日は16時間を木造屋内、1.5時間を屋外とする。
(2)休校日は16時間を木造屋内、8時間を屋外とする。
(3)バックグラウンドは0.0765μSv/h とする。
(4)内部被ばくは寄与率10%とする。
1x1.5+1x16x0.4=7.9 登校日の空間放射線からの被ばく
7.9x200=1280 〃 1年分
1x8+1x16x0.4=14.4 休校日の空間放射線からの被ばく
14.4x165=2376 〃 1年分
0.0765x17.5x200=267.75 登校日のバックグラウンド
0.0765x24x165=302.94 休校日の 〃
1280+2376-267.75-302.94=3085.31 人工放射線
3085.31x1/9=342.812 内部被ばくの見積もり
3085.31+342.812=3428.122 (μSv/y)「学校外での」人工放射線による
=3.428 (mSv/y) 年間被ばく線量
文科省方式の計算でも「学校内学校外」の分をあわせると、おおよそ4mSv/y となる。
あの怪しげな「低減係数」を取り払えば、10mSv/y 近くになる。
数字をこねまわすのに付き合うのはもうウンザリだ。
「ただちに影響がでることなない」かもしれないが、いずれは影響が出るだろうし、そのとき、放射線が原因かどうかは立証のしようがない。出来るかぎり被ばくを軽減するとともに、これからの若い世代が困難な病気になったとき、放射線障害かどうかにかかわらず、きちんとした医療が受けられ、生活が保障されるよう、社会保障の底上げをしていくしかない。また、体内にがん細胞が現れたとき、それに打ち勝つような免疫力・体力の増強に努めて欲しい。
原発の安全神話にだまされ、こんにちの事態をまねいた世代の責任として何をなすべきか、自問しつづけなければならないだろう。
2011-08-27 UP