BOOK2023  
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 《2022|2023- 1011122024



鈴木穣『厚労省』新潮新書
著者は東京新聞論説委員、厚労省の取材経験が長い。サブタイトルは「劣化する巨大官庁」〜厚労省は国家予算の3分の1を使い3万人超の職員が働く。 ▼かつて、コレラや結核のために感染症対策が大きなウエイトを占めていたが、徐々に縮小されたところに新型コロナが発生し、大慌てで補強されている。 ▼安倍長期政権下で詰めの甘い官邸「主導」が目立った。2014年設置の「内閣人事局」は官僚人事に対する官邸の力を決定的にした。一方で、若手官僚の政策を考える能力、やる気が低下している。 ▼1961年、国民皆保険・皆年金が成立。日本の社会保障制度は、英国「ベヴァリッジ報告」を参考に、社会保険を基礎にした。現在、社会保障費の9割が社会保険制度のもとにある。 (2023.01)


山本康正『情報の選球眼』幻冬舎新書
著者は東大〜銀行〜ハーバード大〜グーグルなど、目まぐるしく渡り歩いて、現在は「ベンチャー投資家」とのこと。 「情報」とはいうが、それは投資のための判断材料という位置づけなので、どこかしっくりこない。メディアリテラシーの原則としては共通することもあるので、少しは参考になるけど。 ▼もう40年ほどたつだろうか、一時期、株式投資にはまっていた。300万ほど稼いだけど、やめることにした。日々、株価をチェックし、経営情報や市場情報をチェックする。会社四季報を手許に置き、日経新聞を購読し、経済雑誌などもときどき目を通す・・・こんなことをやるのにくたびれた。 ▼そんなわけで、株を処分し、証券会社のカントリーファンドなるものを買って運用を任せた。ところが、バブルがはじけてほぼ紙きれ状態になってしまった。以来、投機には目を向けないようにしている。 (2023.02)


向井嘉之、金澤敏子、高塚孝憲『神通川流域民衆史』能登印刷出版部
昨年解散した「イタイイタイ病を語り継ぐ会」の中心メンバーらが出版。金澤さんから案内を受け、入手した。 ▼飛騨高原郷の鉱山は16世紀末から17世紀初頭にかけて金銀山、江戸時代には金銀銅鉛の産出で活況を呈した。江戸時代には幕府直轄領。 明治になって安値で鉱山の権利が買いたたかれた。「酒一升、塩マス1本の金でヤマをとられた」〜M22年、三井組が全山統一。小説「山の民」(江馬修)がこのころの状況を描いている。 ▼富国強兵、殖産興業とともに三井財閥が栄えた。日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、日中戦争、太平洋戦争…と採鉱が盛んになり、鉱害が広がる。おもに農業被害が注目され、運動がおきた。 ▼戦後、S23「神通川鉱毒対策委員会」、S41「イタイイタイ病対策期成同盟会」成立。S43 イタイイタイ病裁判提訴、「イタイイタイ病に関する厚生省見解」発表。イタイイタイ病を公害病と認める。S46 イタイイタイ病裁判第一次訴訟判決,全面勝訴 ▼2013(平成25)神通川流域カドミウム被害団体連絡協議会」(被団協)と三井金属鉱業が全面解決合意書の調印。カドミウム腎症を公害病と認めず、一時金の支給で幕を引いた 神岡鉱山のカドミウム排出は改善されたが、かつての操業で生じた滲出物や廃棄物の中に莫大な量のカドミウムが存在する。まだまだ終わっていない。 (2023.03)
PS.「江馬修」(えま・なかし)の名前に見覚えがあって、書棚を探してみたら、「山の民」が見つかった。1966年理論社刊、全4巻、第2刷となっている。大学に進学した頃、読んだらしい。


日野行介 (ひの こうすけ)『原発再稼働』集英社新書
サブタイトルは「葬られた過酷事故の教訓」、著者 は元毎日新聞記者。 ▼新知見にもとづき基準不適合と認められる場合に運転を止める法的権限「バックフィット命令」や避難計画、ヨウ素剤の扱いなどについて、政府・行政側の隠蔽をしつこく暴いていく。取材経緯についての自慢話が多く食傷気味になる。 (2023.04)


日下公人『人間はなぜ戦争をやめられないのか』祥伝社新書
1996年に刊行された『人間はなぜ戦争をするのか』をもとに、二度の改題・改筆・再構成・加筆などなどを経てできた書とのこと。著者は日本財団特別顧問。右寄りな人なのかな?と身構えそうになるが、それはそれとして読んでみることにする。1030年生まれ。「卒寿を越した」と本文にある。 ▼「唯物史観」では、すべてが必然ととらえるが、「個人」の要素を度外視できない。 近衛文麿、東条英機、蒋介石など、個人を取り上げて、歴史を動かした経緯を示す。 歴史は必然ではない〜どこかで、誰かが、決断した…と評する。 そういう視点も必要だろうし、面白いが、個人が歴史を大きく動かすとしても、やはりそのためのバックグラウンドが必要だろう。 ▼20世紀になって新しいタイプの戦争が出現した〜「イデオロギー戦争」である。 正義のための戦争であり、最終決着は無条件降伏である。「落としどころ」が難しくなる。 ▼戦争は、始めるときに、どこでやめるか、どんな時どのように方向転換するか、などなど考えるべきであり、それを「戦争設計」と著者は言う。たしかにそういう視点は必要だろうが、考えずに突き進んでしまうのが人間のサガなのだろうか。 (2023.05)


楾大樹(はんどう・だいき)『檻の中のライオン』かもがわ出版
著者の講演会があり、そこで購入した。 ライオン=権力、檻=憲法。絵本のような憲法入門書。 ▼講演会では、すごい早口で戸惑った。最近、感音性難聴の傾向があるため、余計に聞き取りにくい。その点、本は自分のペースで読めるからストレスにならない。とはいえ、むかしと比べるとスピードはぐっと落ちた。 ▼緊急事態条項(国家緊急権)について。緊急時に立憲主義を一時停止する条項を創設するという憲法改正案。 「内側から鍵を開けられるような檻」と評する。ナチスドイツが作った「全権委任法」を手本にする政治家らがいる。憲法を変えずにやるところがすごい。 ▼特定秘密保護法(2013.12)を「檻にカーテンをつける」と評する。 (2023.06)


和田秀樹『70代から「いいこと」ばかり起きる人』朝日新書
著者は1960年生まれだから60代前半。肩書は「高齢者専門精神科医」。本の帯には「本当の健康寿命」は80歳以上、70歳過ぎても伸びる「知識力」、「幸福度」のピークは82歳以上…と「加齢の効用」を掲げている。 ▼歳とともに落ちていく能力と、そうでないものがある。知能には「流動性知能」「結晶性知能」があり、後者は衰えず、むしろ成熟する、とのこと。 ▼「幸福のUカーブ」幸福度の最低は49歳、最高は82歳〜「エイジングパラドックス」 ▼湯川れい子の「幸せの法則」 … 「」=会いたい人に会いたい 「」=行きたいところに行きたい 「」=うれしいことがしたい 「」=選ばせてもらいたい 「」=おいしいものが食べたい ▼とにもかくにも楽観論。そうは言ってもねぇ…  (2023.07)


庭田杏珠、渡邉英徳『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』光文社新書
庭田杏珠は2001年生まれ、広島出身の現役東大生。渡邉英徳は情報学環教授 ▼おびただしい数の白黒写真をカラー化している。 いくらAIで処理するとはいっても、衣類や建物の色など、処理しきれない部分が沢山ある。 当事者と、対話しながら修正を加えていかなければならない。 そういう作業が、あたらしい発見を引き出す。著者らはそれを「記憶の解凍」と呼んでいる。 (2023.08)


小野寺拓也、田野大輔『検証ナチスは「良いこと」もしたのか?』岩波ブックレット
ナチスは当時のドイツ国民の支持を得ていた。近年インターネット上では、「ナチスは良いこともした」と声高に主張したがる人が増えている、とのこと。 ▼正式名は「国民社会主義ドイツ労働者党」。「社会主義」という言葉が入っているが、全体のための奉仕・義務という意味で用いられた。 ▼労働者支援、家族支援、環境保護政策、健康政策などなど、それなりに成果をあげたが、それらはナチズムのオリジナルではなく、以前からあったものや他国で試みられたことなどを取り込んでいる。 ▼成功した政策の例:アウトバーン建設(公共投資)、余暇活動を廉価で提供、格安ラジオ受信機、国民車VW、動物保護、自然林の保護、禁酒・禁煙運動、がん撲滅運動 ▼受け売りの政策を大規模かつ迅速に、しかも誇大な宣伝を駆使して実行した。それは、国民のためというより国家のためだったが、一定の成果をあげ、ドイツ国民の支持を得た。 (2023.09)


永井幸寿『憲法に緊急事態条項は必要か』岩波ブックレット
自民党の改憲政策のなかで、緊急事態条項は重要な位置を占めている。 ▼日本国憲法は国家緊急権に関する規定を有していない。 しかし、非常事態への対処は災害対策基本法等により定められている。 また、衆議院が解散中は参議院の「緊急集会」が代用できる。 ▼自民党の緊急事態条項案(国家緊急権案)は、ナチスの国家緊急権より危険、と評している。 ナチスの「全権委任法」は、ワイマール憲法を変えずに「国家緊急権」を容易に使用できるようにした。 ▼著者は改憲に反対の立場だが、逆に国家緊急権の発動を制約するような改憲が必要なのかもしれない。(2023.10)


半藤一利『昭和史の人間学』文春新書
自称「歴史探偵」の著作から昭和時代の人物評を抽出して編集したもの。取り上げた人物は66人に及ぶ。 ▼評価する軍人として、陸軍から永田鉄山、石原莞爾、板垣征四郎など、海軍から米内光政、山本五十六、井上成美などを挙げている。 ▼「残念な軍人」として、本庄繁、東條英機、瀬島龍三、伏見宮博恭王などを挙げている。 ▼政治家では〇は石橋湛山、高橋是清、鈴木貫太郎など。×は近衛文麿、松岡洋右。 (2023.11)

阿部恭子『高学歴難民』講談社現代新書
著者は犯罪加害者家族を支援するNPOで活動している。それをテーマにした著作がいくつもあるが、この本では「高学歴」を対象に考察する。 ▼学歴以外何も評価されず、勝ち組になったつもりが負け組になって、学歴が称号でなく「烙印」になりうる。 ▼窃盗、脅迫、ストーカーなど、犯罪者に。 普通の仕事にはつけなくて裏の世界でバイトをかさねる。 司法試験「三振」(受験資格は3回まで)して家族に依存=MBA(みじめ・ぶざま・あわれ)。 学ぶ意欲はあるが、働く意欲はない。などなど、いろんなケースが紹介されている。 ▼就労支援で中年男性高学歴難民が嫌がられる理由。  肉体労働が続かない、事務処理能力が低い、コミュニケーションができず独断で進めてしまう、相手にミスがあれば過剰に攻める、集中力に欠ける、就労意欲が低い‥‥など。 (2023.11)


姫野桂『ルポ 高学歴発達障害』ちくま新書
著者じしんが障害をかかえ、ADHDの薬や双極性障害の薬を飲みながら、フリーライターとして生活している。精神障害者保健福祉手帳2級を取得し「楽しく暮らすことができている」とのこと。 ▼第2章では「高学歴発達障害が抱える不条理」と題して10件の具体例を紹介する。勉強ができても仕事ができない。悩みつつ、発達障害にたどりつく。しかし、サポート体制は十分ではない。 ▼3章〜5章は大学教職者や精神科医などのインタビュー。ADHDやASDの人は、かつては職についていた。今の時代は仕事の内容の変化や時代の規範の変化により、「まっとうな人間」の基準が高まり、生きにくい社会になった。 ▼「ニューロ・ダイバーシティ」(脳の多様性)という考え方がひろまりつつある。…とはいうものの、まだまだ課題が多い。 (2023.12)

樋口恵子『老いの地平線』主婦の友社
サブタイトルは「91歳 自信をもってボケてます」。ボケない、と気張るのではなく、「歳なりにボケている」と開き直ったほうがいい、とのこと。 ▼面白いキャッチフレーズが多発する。 「青年よ大志を抱け」「中年よ妻子を抱け」「老年よ財布を抱け」、小石や段差につまずいて転ぶのは70代。黙って立っているだけで転ぶのが90代‥「転倒適齢期」、などなど。 ▼倒れて半年くらいで亡くなるのは1割くらい。 ピンピンのあと「ヨタヨタヘロヘロ」の「ヨタヘロ期」がある。 ▼最後のほうで上野千鶴子との対談。女性の非正規雇用がBB(貧乏ばあさん)を生む。 (2023.12)




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ダイモンジソウ(大文字草)