〈メニューへ戻る〉
数字でウソをつくな!(その27)
「軽度」は軽症?
04年初頭からマスメディアは介護保険見直しを繰り返し報じている。介護保険法の附則第2条において、「施行後五年を目途としてその全般に関して検討が加えられ、その結果に基づき、必要な見直し等の措置が講ぜられるべきものとする」と定められ、その期限(平成17年)が迫ってきた。
03年5月以来、厚労省社会保障審議会・介護保険部会は、16回の会議を開催し、04年7月30日に「介護保険制度見直しに関する意見」をとりまとめた。
報道は、この審議会からの発表に沿ったものである。たとえば‥
〈1〉「要支援」「要介護1」の高齢者を従来の在宅サービス対象から外し、代わりに「介護予防サービス」を新設する〈2〉施設入所を重度の要介護者に限る――などが柱で、急増する介護給付費を抑制するのが狙い。04.01.05読売新聞
この間の風潮で気になることがある。要支援と要介護1は「軽度」であって、軽症の風邪のように、気の持ちようひとつで他人の助けを借りなくてもやっていけるはずだ、という思い込みが広がっている。そもそも自分ではできないことがあるから要介護の認定をしているわけで、話の前提がまちがっている。
軽度の要介護者に対しては‥‥自助努力による生活の質の向上をめざすことが求められる。(社会保障審議会介護保険部会委員・日本経団連専務理事 矢野弘典氏の第11回部会に提出された意見書より)
要介護度は1〜5の数字で示されるが、それは病状や障害の程度の重症度を表わすものではない。その人が必要とする介護を提供するために要する時間の長さを基準にしてランク付けを行っている。したがって、症状が進行して経口摂取が経管栄養になると、要介護度が下がるというような現象も生じる。いずれにしても、助けがなければ日常生活に支障がでる状況にあることを示している。このことは「要支援」にもあてはまる。これら要支援・要介護の人たちは、国際的な基準では「障害者」にほかならない。なお、リハビリの重要性と介護の必要性を、いたずらに混乱させるような議論がみられるが、それについては別項で触れたい。
「要介護認定等基準時間」による区分(平成15年省令第42号)
「軽度」要介護者の在宅介護サービスを制限する一方で、施設入所を「重度」に限定しよう、という議論がなされている。制度発足時には要介護度1以上なら「先着順」とされ、限られた施設に希望が殺到した。のちに「重度」を優先する、とされた。こんどは段階的にハードルを引き上げて重度(4,5)だけにしようとしている。下記グラフは介護老人福祉施設入所者の要介護度を示す。審議会資料には「介護保険施設の入所(院)者の重度化が進んでいる」とコメントが添えられている。グラフの左側を見れば、それでもまだ4割以上を「軽度」「中度」が占めているわけで、この人たちが施設から在宅に戻されたとき、どのような悲劇が起こるか考えるに、さほど高度な想像力は必要ないであろう。
審議会委員を務める某福祉系大学学長は、制度発足時、介護保険証1枚あれば日本中どこへ行っても安心、老後はばら色、歳をとるのが待ち遠しくなります、などと
ピンぼけな著書
を出した御仁である。想像力が欠如しているのかもしれない。
2004-09-08 UP
《PageTop》
《もどる》