介護保険の導入前夜のころ、「高齢者(世帯)の所得は年300万円を超えている」と広く宣伝され、負担増は問題に ならない、との主張の根拠とされた。当時、厚生省の官僚が議員や労働団体などを行脚し「ご説明」と称して情宣活動に努めた。その「成果」である。 当時、「ご説明」資料を入手し検討した結果、次の2点を、ことあるごとに指摘してきた。 1)分布が偏っており、平均以下が7割近くになる統計から平均値で判断することは誤りである。 2)「高齢者世帯」の定義からいって、自立可能な高齢者を母集団とした統計である。当該統計の対象となるのは高齢者全体の4割にすぎない。これをもって高齢者の所得を推し量ることは誤りである。
下図は国民生活白書13年版に掲載されているグラフである。タイトルは「平均以下に多く集まる高齢者世帯の所得」となっている。また、ジニ係数を算出して「高齢世帯の間では所得格差が大きい」とも記している。 |
介護保険導入当時の論拠が誤っていたことを認めざるをえなくなったのである。しかし、「世帯員1人あたりでは大差ない」というあらたな議論を持ち出している。 下記の表は、その例を示す。これをどうみるか。 「高齢者世帯」の定義を思い出してほしい。すなわち、自立可能な高齢者は世帯を営み、そうでない高齢者は扶養可能な世帯に所属している、ということを示しているにすぎない。 |
世帯当り年間所得 | 世帯員数 | 1人当り所得 | |
全世帯 | 626万円 | 2.85人 | 220万円 | 高齢者世帯 | 329万円 | 1.5人 | 219万円 |
厚生労働白書(平成13年版)は、とりわけたちが悪い。 総務省統計局の「全国消費実態調査」を引用して、『全世帯の平均水準を100とした場合、世帯主が65歳以上の世帯の‥(中略)‥世帯人数当りでは102.48となっており‥‥高齢者の経済力は現役世代と遜色ない水準にある』と主張している。 そもそも「消費実態調査」は、「標準的」世帯の消費動向を調査するのが目的であって、所得実態を把握するためには設計されていない統計である。すなわち、ここでいう高齢世帯とは、正確には「高齢者夫婦世帯」であり、単身者は含まれない。もっとも所得水準が低い層を形成する一人暮らしの高齢女性は除外されているのである。 「国民生活基礎調査」という自前の立派な統計をもちながら、他官庁の調査を持ち出すなど、なんともいじくらしい。 |