BOOK2007
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 《2006|2007− 1011122008



2007年1月

内橋克人『悪夢のサイクル』文藝春秋
タイトルの「悪夢‥」は「規制緩和という悪夢」で予見したとおりに市場主義がバブルと破綻を繰り返し、人間の生活を荒廃させていく、という意味である。90年代半ば以降の日本は、規制緩和を旗印にした新自由主義の政策に引っ張られてきた。それが無批判に受け入れられた要因を、@規制緩和=官僚支配&既得権の打破とする錯覚、A諮問機関=中立という幻想、B無批判に報じるマスコミ、C小選挙区制の導入、を挙げている。新自由主義(新古典派経済学)の始祖・フリードマンがアメリカで成功を収めるサクセスストーリー、チリとアルゼンチンでの壮大な「実験」の顛末、日本における「シカゴ・ボーイズ」の「活躍」ぶりを紹介する。規制緩和から市場制御への転換を主張する。一日あたり1兆ドルにもおよぶ投機のためのITマネーへのトービン税課税を支持する。最後の章で「愚か者の勇気は野蛮なだけであり、勇気のない賢さは屁にもならない」というケストナーの言葉を紹介している。2007.01.10
本書で紹介されている「市場の独裁に抵抗する反グローバリズムのNGO」⇒ATTAC Japan


林信吾『反戦軍事学』朝日新書
この人の文体は軽いが内容は重い。軍事オタクが反戦を説くというのはなかなか価値がある。ともすれば軍事オタクは好戦的傾向に陥りがちだ。「戦争とは勝たねばならぬものではなく、やってはならぬものなのだ」という結論に達した見識は立派。「戦争に反対する人ほど正しい軍事知識を身につけて欲しい」と注文をつける。なお、著者は「護憲」派ではない。非核化や専守防衛を明文化すべし、との立場である。2007.01.19

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2007年2月

田中修『たのしい植物学』講談社(ブルーバックス)
植物の不思議な性質を、おもにミクロレベルの話題をとりあげて解説している。2007.02.28

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2007年3月

柳宗民『柳宗民の雑草ノオト』ちくま文庫
60種の「雑草」をとりあげる。著者は植物学を修めた「園芸研究家」である。「園芸」の敵となる雑草ではあるが、その草たちに心を寄せる。名前の由来や、種の特徴などについても詳しく解説している。2007.03.31

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2007年4月

野村進『千年、働いてきました』角川
日本には数百年つづく老舗の製造業が多い、という。意外なことにヨーロッパには、さほど多くはない。職人のアジア→「削る文化」、商人のアジア→「重ねる文化」と図式化する。デジタル化が進んでも「丹精」する文化を大切にしたい、という。しかしながら、文化的背景というよりは、国が滅ぶような戦乱の歴史がなかった、ということのほうが影響しているのではないか。2007.04.13

田中修『雑草のはなし』中公新書
馴染み深い身近な雑草の、とくに植物生理を紹介している。アスピリンで開花する植物や、日照時間を正確にとらえて開化する植物など、興味深い話が紹介されている。寒さにあうと菜っ葉がおいしくなる、というのは糖度を増して凍結を防ぐ生理現象なのだそうだ。2007.04.15

長嶺超輝(ながみね・まさき)『裁判官の爆笑お言葉集』幻冬社新書
タイトルからは揚げ足とりのふざけた内容を想像するが、ごくまともな内容。著者は7回の司法試験落第のあと、裁判傍聴に通い、ライターをしている。たぶん、憧憬ややっかみも混じっているのだろう。ごく最近の体験で、法曹の世界には、金のためなら専門知識を駆使して合法ぎりぎりの欺瞞を行い、正義などとは無縁の輩もいることを知った。この書は、きれいごとすぎるように思える。2007.04.27

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2007年5月

藤沢周平『早春』文春文庫
表題の「早春」は現代小説で、ほかに「深い霧」「野菊守り」の時代小説2編と随筆を含む。心身ともに疲れきったとき、藤沢の小説を読む。少し癒される。2007.05.20

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2007年6月

フランク・パヴロフ『茶色の朝』大月書店
君が代不起立で停職処分となっている河原井純子さんの交流会で紹介されて購入した。「時の流れに身をゆだね」「心地よく」日常を過ごしているうちに、国家がいつのまにか全体主義に染め上げられていく。フランスでは茶色はナチスを連想させる色であり、この絵本は、まさに極右政党が台頭してきた1998年に出版された。その後、2002年の大統領選挙で極右のルペン候補がシラク大統領と決選投票になる。そんな社会情勢の中で、この本がベストセラーとなった。勇ましいことを叫ぶばかりの政治家に、一抹の不安を感じつつ、喝采を送ってしまう。日本もまた、茶色になりつつある。

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2007年7月

藤沢周平『時雨のあと』新潮文庫
時代物の短編人情小説集。疲れた心を洗う水のようなもの。2007.07.20

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2007年8月

手塚治虫『「戦争漫画」傑作選』祥伝社
手塚がいかに平和と自然環境を大切にしたか、直接的に表現した作品集。07.08.15

中野次郎『患者漂流』祥伝社
米国で大学教授や公職を務めた経歴から無理もないかもしれないけれども、日本の医療者を軽く見る視線が気になる。米国の医療にも問題は多々あるはずだ。07.08.31

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2007年9月

バーバラ・エーレンライク(曽田和子訳)『ニッケル・アンド・ダイムド』東洋経済新報社
▽タイトルは5セント硬貨と10セント硬貨を意味する。日本語的に言えば「二束三文」「びた一文」といったところだろうか。著者は、ちょっとしたきっかけで、貧困社会に「潜入ルポ」を試みることになった。フロリダ州でウエイトレス、メイン州で掃除婦、ミネソタ州でスーパー店員。 時給6ドル前後でこき使われ、なんとか収入に見合う住まいを探し・・とても明日のことや将来のことを考える余裕はない。アパートを一人で借りることが「ぜいたく」視される。なにしろ野外生活者(ホームレス)になるまいとすれば、収入の50%以上を家賃に充てなければならない。 ▽結論。 「額に汗して働いているにもかかわらず、自分一人の生活を維持するのさえままならないというのは、どこか間違っている。とんでもなく間違っている。賃金が低すぎ、家賃が高すぎるせいだということは‥‥一目瞭然である」(終章)。 ▽トリクルダウンがあるから格差は問題ない、と新自由主義者は主張する。たしかに、広い屋敷をもつ金持ちがいなければ、貧困層にハウスクリーニングの仕事が回ってこない。そして貧困にあえぐ人々がいなければ、汚れ仕事を引き受ける者はおらず、金持ちの生活をよりリッチに彩ることができない。皮肉なことに、経済成長とともに地価や賃料が上昇し、下流社会は「貧困の犠牲ではなく、繁栄の犠牲になる」。 ▽「(中流の上の)私たちが持つべき正しい感情は、恥だ」‥「生活できないほどの低賃金で働いている」人びと(ワーキングプア)に思いを致すことを求めている。 2007.09.05

生田武志『ルポ・最低辺-不安定就労と野宿』ちくま新書
著者は自ら日雇い労働者になって「釜ヶ崎」の問題に取り組み、いま、ホームレスの問題に取り組んでいる。野宿者が減少している、と政府は発表した。が、公園などからテントが追い払われ、見えにくくなっているだけで、「ネットカフェ難民」「マクドナルド難民」に示されるように、住む家のない人はけっして減少してはいない。若者の間では「日雇い」以上にシビアな「スポット契約」が普及している。日本全体が「釜ヶ崎」化している、と著者は言う。定住すべき棲家のない人をホームレス(英語のhomelessの本来の意味)とするなら、その数は政府の言う数字を数倍上回るだろう。若者や女性のホームレス化が顕在化したとき、はたしてこの国、この社会は対応できるのだろうか。2007.09.13

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2007年10月

手塚治虫『「戦争漫画」傑作選U』祥伝社
先に出た傑作選の第二巻。先の太平洋戦争やベトナム戦争に題材をとった作品集。帯に「こんな戦争は、もう二度とごめんだ。巨匠の歩みはここから始まった」とある。2007.10.06

伊藤憲一『新・戦争論』新潮新書
「人類の歴史が始まって以来最大かつ最重要の変化がいまこの地球上で起こりつつあります」という言葉から始まる。戦争とは、「約1万年前にいくつかの社会的条件が満たされた発生した社会現象の一つ」であり、領土・人民・主権を備えた「独立的政治単位」(広義の国家)間での暴力行為の発動、と定義する。1万年の戦争の歴史を「地域覇権戦争期」「世界分割戦争期」「世界覇権戦争期」の3つに分ける。それは混沌から均衡へ向かう。核兵器の登場により、大国間の戦争は非現実のものになった。米国が「核秩序保安官」として秩序を支配していることによって「不戦の時代」がもたらされている。加えて、現代の世界経済は領土拡大に固執することを無意味にした。─といいながら、「イラク戦争」を「戦争ではない」とし、米国を擁護するのはいかがなものか。中世的と著者のいう世界秩序の頂点に立つ米国に対して甘すぎる。2007.10.09

大沢久子『今から考える終の棲家』平凡社新書
高級な「介護付有料老人ホーム」は入居費が5千〜8千万円、毎月の支払いが30万円以上かかるという。とてもそんな資金はない。このところの医療費圧縮行政のおかげで、老後の資金をだいぶ取り崩してしまった。ホームどころではない。療養病床でさえ、月30万円はあたりまえで、施設・スタッフのととのったところだと、50万円近くかかるという。かといって、自宅で一人暮らしまたは高齢者二人暮しもまた、生活の維持に困難が多い。グループハウス・グループリビングという新しい試みを紹介しているが、NPOなどのボランティア的な活動に支えられていて、経営的に安定したものと言い難く、広まるとは思えない。2007.10.18

田中優『地球温暖化/人類滅亡のシナリオは回避できるか』扶桑社新書
二酸化炭素の増加・温暖化は、すさまじいスピードで進行している。第1章、第2章を読むと、絶望的な気分になる。第3章の「ピークオイル問題と戦争」は、説得力がある。アメリカ新保守派の戦略は、まさにエネルギー資源確保にある。4章以降は省エネのアイデアを紹介している。技術的には「ほぼすべてのアイデアが出揃っている」という。2007.10.30

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2007年11月

川崎昌平『ネットカフェ難民』幻冬舎新書
著者は高学歴ながら無職のニート。経済的「格差」をあまり実感していない自称「怠惰な現代人」。ある日、思い立ってネットカフェ難民として「自立」する。ネットの日雇いバイトを利用しながら1ヶ月の生活をレポートしている。2007.11.01

井上紀子『城山三郎が娘に語った戦争』朝日新聞社
「指揮官たちの特攻」を執筆中に妻が死亡。それを境に「残された者のつらさ」を痛感し、戦争のことを語り始めたという。「経済小説」という新しい分野をつくりあげた城山だが、その原点は戦争であり、「大義」をふりかざす上層部への怒りであった。2007.11.04

アル・ゴア『不都合な真実』ランダムハウス講談社
元大統領候補のゴア氏は、ノーベル賞を授与されたが、ほんとうに政治的野心が裏にないのかどうか、気になる。もうひとつ原子力に対する意見がはっきりしない。いずれにしても、地球温暖化についての「写真集」として、よく出来ている。2007.11.19

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2007年12月

青沼陽一郎『オウム裁判傍笑記』小学館文庫
タイトルからは茶化しているみたいだが、内容は真面目。オウム裁判をめぐる証言の数々は笑い飛ばしたくなるほど常軌を逸している。裁判は、内容に踏み込むことが出来ず、ただ体裁を繕うことしかできなかった。「裁判は真相を明らかにする場だと信じていた」という大山さん(都子さんの父)の失望が、すべてを語っている。2007.12.24


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大文字草

ダイモンジソウ(大文字草)