地域雑誌「新川時論21」第17号 (2000年10月)

書評欄

「都子聞こえますか」
「都子聞こえますか」   大山 友之著 新潮社刊

 オウム(アレフと改称)による坂本弁護士一家殺害事件は、発生(89・11・4)から10年余、魚津市の僧ヶ岳林道で都子さんの遺体が発見されてから5年がすぎた。
 この本は、都子さんの遺体に対面して「この姿(かたち)、見届けた!」と語りかけた大山さん(都子さんの実父)が、法廷に通いつめ、真相究明に立ち向かった記録である。
 大山さんに初めてお会いしたのは一昨年(98年)9月26日。慰霊碑を訪ねた「真相を究明する会」のメンバーと新川時論同人の懇談会の席だった。
 「さがす会」の活動のなかで、警察が「失踪」としたことへの無念、遺体発見ののち「真相を究明する会」に衣替えした経緯など、話を伺った。本誌では、9号から12号にかけて大山さんの手記を連載した。
 ふたたび大山さんと会ったのは、昨年(99年)8月18日、僧ヶ岳林道の慰霊碑であった。その日、慰霊碑前でバイオリニスト・松本克巳さんらによる追悼演奏が行われた。
 林道に入る前はどしゃ降りで、どうなることかと心配したが、ほどなく雨があがり、僧ヶ岳に鮮やかな二重の虹がかかった。光の粒々が演奏にあわせて舞うように見えた。
 慰霊碑の裏に刻まれた都子さんの詩を読んだときの驚きは、忘れることができない。そこには赤・だいだい・きいろ・そらいろ…と虹の色に托して、人と人の心を結ぶことを願う言葉が記されていた。都子さんの言葉が虹を呼んだとしか思えない。
 慰霊碑は97年9月7日に除幕された。遺体が発見され収容されたのは2年前の95年9月7日である。その日、ふもとの村では、線香やロウソクを手にした村人たちが沿道に並び、都子さんの遺体を見送った。
 大山さんの著書のなかで、虹のエピソードとともに「”形にない”メモリアル」として紹介されている。
(小熊 清史)



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