BOOK2008
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 《2007|2008− 1011122009



2008年1月

石井陽一『民営化で誰が得をするのか』平凡社新書
「共産主義が自殺し、冷たい戦争が終焉すると、民主主義・資本主義圏は過剰に自信を取り戻した」。新自由主義は「新」というより原理主義への復古であり、市場競争原理・民営化・規制緩和を旗じるしにする。さらには「改革」という錦の御旗を振る。「米国は自国の民営化には不熱心で、よその国にやらせることに熱心であった」が、それにすすんで迎合する連中が政権を握っていた。世界の状況を検討し「89年のベルリンの壁崩壊が一つの分水嶺になっている」「財政事情が民営化推進の一番の動機になっている」。郵便、JR、高速道路など「構造複雑化」には意味はなく、やがて統合されるだろう、と予測する。2008.01.27

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2008年2月

NHK取材班編『ワーキングプア』ポプラ社
高い評価を得たNHKスペシャル「ワーキングプア」の書籍版。なんだか世の中が変だ。あたらしい形の「貧困」がひろがっているようだ。当初は「日本の貧困」という仮のタイトルがついていた。この日本で「貧困」と定義づけるには抵抗がある。そうこうするうちに「ワーキングプア」という言葉に出会い、それをタイトルとし、テーマとして取材を進めたという。働いても働いても報われない人々が増えている。「競争原理」のもとで、あたかも彼ら彼女らは努力が足りない怠け者であるかのごとくに見なされる。しかし、取材を通して、とても真面目に精一杯の努力をしている人ばかりだという現実に、むしろ戸惑う。決して大金持ちになって贅沢三昧しよう、なんて夢見ているわけではない、最小限の「普通の生活」を望んでいるだけ。それなのに、想像を絶する苦労が報われない。あがいても、その境遇から這い上がれない。人間の尊厳が失われアキラメが蔓延していったら、日本の社会に未来はない。2008.02.28

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2008年3月

堤未果『ルポ・貧困大国アメリカ』岩波新書
「教育」「いのち」「暮らし」という、国民に責任を負うべき政府の主要業務が「民営化」され、市場の論理で回されるようになったとき、はたしてそれは「国家」と呼べるのか?▼ 貧困層に提供される「フードスタンプ」や学校での給食制度‥そのメニューは「ジャンクフードのオンパレード」であり、貧困層ほど肥満が多い。給食は大手ファストフードチェーンのマーケットになっている。調理器具さえ持ち合わせていない貧困層にとって、フードスタンプで手に入れる食品はジャンクフードになってしまう。 サブプライムローンがそうであるのと同様、ファストフードも貧困をマーケットにしている。▼ 第3章は医療にスポットをあてる。05年米国の個人破産204万件のうち半数以上が高額な医療費の負担が原因だった、という。しかも、医療保険(民間)に入っている人がかなりの割合を占める。高い掛け金をとりながら、いざというときには支払いを渋るのだ。米国の公的医療であるメディケア、メディケイドの状況も詳しく伝えている。なんと国民の6人に1人がメディケイドの世話になっているという。米国の入院日数の短いことを「美談」のごとく賞賛し、日本に持ち込もうとする輩がいるが、気は確かか? 1日40〜80万円もの請求がくれば「日帰り出産」が増えるのもあたりまえだ。▼ 「学資ローン」もまた、貧困層を食い物にする。軍も、貧困層をターゲットにする。貧困からのがれようと軍にはいったあげくに、「350万人のホームレスの3人に1人が帰還兵」、「イラクにおける米兵の死者の5%が自殺」という現実がある。 弱者を食い物にする「貧困ビジネス」が最も効率よく利益を生み出す。戦争さえもが「貧困ビジネス」の好餌になっている。▼ 無節操に市場原理を貫徹してきた結果、何がおきているか。日本はアメリカのすぐ後を走る第二走者だ。市場主義の暴走を止めないばかりか助長してきたマスメディアの罪を著者は批判する。全く同感。▼なお、著者は最近、HIV訴訟で知られる参議院議員の川田龍平氏と結婚し話題になった。2008.03.31
関連URL: マガジン9条 この人に聞きたいマガジン9条 特別対談著者のブログ

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2008年4月

武田邦彦『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』洋泉社
エキセントリックな物言いは好きになれないが、アンチテーゼとして、これくらい言わなきゃ聞いてもらえない、ということもあるのだろうか。「リサイクルしてはいけない」と著者は言う。「リサイクル」の美名のもとに、利権の構造が出来ている、という指摘は当たっているところも多いだろう。かといって焼却・廃棄で片付くものではない。ダイオキシンの毒性はきわめて低い、という指摘はどうだろうか。論拠にしているデータが、逆に「低く見積もりたい」動機をもった立場から出ていないか。「北極の氷」の話はしつこすぎる。2008.04.18

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2008年5月

秋草鶴次『十七歳の硫黄島』文春新書
飛行士にあこがれ、高等小学校卒業後、予科練を受験、第二志望の通信科に進み、海軍へ。17歳で硫黄島へ赴任。もはや「いつ全滅するか」という前途しかない状況。そんな中で、「玉砕」後、3ヶ月間、傷つきながら彷徨い、生き残った。 阿鼻叫喚の壕のなかで「一日も早く死にたいなどと本当に心から思っている人は一人もいないだろう。助けが来てくれる、内地へ帰れるよと言葉をかければ、嘘と知りつつ誰もが微笑を浮かべた」。 指揮系統が失われた敗残兵の群れの中では、兵器を持っているものが強者、持たぬものが弱者という「秩序」が生成され、自決ならぬ「他決」も起きる。 作戦がどうとか指揮がどうとか言う前に、戦争とはこういうものなのだ。くれぐれも「玉砕」の一語で片付けてはならない。2008.05.30

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2008年6月

門倉貴史ほか『貧困大国ニッポン』宝島社新書
「貧困」「格差」が流行りである。便乗した出版物も多い。「100人の証言」と銘打ったこの本は、比較的まともな部類だろう。フリーターやホームレスばかりではない。正規職員という、一見「勝組」の若者も、「結婚できない」に象徴されるような、将来への不安を抱えている。いったいこの国はどうなっていくのだろうか。もっとも悲惨なのは老人たちだ。2008.06.28

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2008年7月

湯浅誠『反貧困』岩波新書
著者はNPO法人「もやい」の事務局長を務める。「まえがき」で「一度転んだらどん底まですべり落ちていってしまう『すべり台社会』」だという。教育、雇用、福祉・・さまざまな「セーフティネット」をすり抜けて、最後に「自分自身からの排除」に至り、「死ぬしかない」という思いにとらわれる。彼らは自助努力が足りないのではなく、自助努力にしがみつきすぎたのだ。いわゆるネットカフェ難民は、政府の区分ではホームレスに該当しないという。すなわち「ホームレスとは、都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者をいう」(ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法)。貧困が戦争への免疫を低下させる。普通の人が普通に生活できる社会は、放っておいて出来るものではない。

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2008年8月

2008年9月

2008年10月

東京新聞社会部編『あの戦争を伝えたい』岩波書店
戦争体験のエピソード50余編からなる。それぞれが1冊の本になるような内容である。ともすれば「無名」の兵士、「無名」の市民として、数だけで語られがちだが、戦死者・戦場死者には、それぞれに「名前」があり、生きてきた歴史があり、関わりあった人びとがいる。抽象化され美化されがちな「特攻」兵士たちも、「死にたくて死んだ特攻隊員は一人もいない‥‥この国が将来、特攻隊が必要になるような事態になってはならない。しかし、気持ちの上では皆が守りぬきたい、という国にしてほしい」。元特攻隊員の言葉である。2008.10.02

『日本の論点』編集部編『常識「日本の論点」』文芸春秋
「日本の論点」は、いつの頃からかわが家の書棚に常備してある。このところ開く機会がないけれども、どういう論者がどういう議論を展開しているか、調べるのに手ごろである。例えば竹中平蔵が大臣にまで「出世」する以前に、「日本の論点」に、市場原理の忠実な使徒として率直な論を展開していて、なるほど、と納得させられる。ところで、この冊子は、何が論点になっているかをコンパクトにまとめてあって、それなりに興味深い。中立的に論点を紹介するのは難しいことだろうが、自分の考え方がどのへんにあるのかを知る物指みたいな感覚で通読した。2008.10.25

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2008年11月

本田宏(編・著)『医療崩壊はこうすれば防げる!』洋泉社
8人の医師が医療のさまざまな分野で現状を訴え、解決策を提案する。従来、医師は、本業に全力投球のあまり自分の領域に閉じこもり、社会的な関心が薄かった。もとより能力の高い人たちだから、社会に目をむけるようになれば、なまじな文系学者より迫力がある。経済学者たちが医療に目をむける傾向が近年あった。それは経済全体の中で、医療費に感心が高まったためだ。中にはとんでもない議論をする連中も居る。社会に目をむけはじめた医療人の今後に期待したい。2008.11.07

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2008年12月

伊藤周平『後期高齢者医療制度』平凡社新書
多くのことが仔細に書き込まれていて、すらすら読める本ではない。医療、福祉に関係のある職種の人にとっては大いに参考になるが、まったくの門外の読者には読み進めるのがしんどいかもしれない。2008.12.31

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大文字草

ダイモンジソウ(大文字草)