数字でウソをつくな!(その16)
「開業医の月収18%増」!?
「とやま保険医新聞」(99.12)掲載(予定)
予算編成と診療報酬改定のタイミングを見計らったように「医療経済実態調査」(99年6月調査)の速報値が公表された。マスコミは「開業医の月収235万円、伸び率18%」と報じている。さっそく毎日新聞(99.12.9)はこの数字を社説でとりあげ、診療報酬の引き下げを主張している。
235万円、18%--これは医科有床&無床診療所の合計数値(収支差額)であり、歯科診療所は4.9%増である。いずれにしても現場の実感とはずいぶん違う。
比較の対象は97年9月の調査である。健保本人二割、薬剤一部負担金などの負担増で受診率が急減した月だ。いっぽうの6月は、歯科や眼科・耳鼻科では学校検診後の受診で年中で一番の繁忙期である。もっと単純なところでは、前回にくらべて今回調査月では診療日数が2日多い。これで比較するほうが無理である。
通常は6月に調査を実施するが、97年は健保改定のために手が回らないという厚生省側の事情で9月に実施された。前述のとおり負担増のために8月に駆け込み需要(?)があり、その反動もあって、9月には急激な受診減がおこった。異常値とみなすべきである。
下記のグラフは、90年代の医療経済実態調査の数値を示す。大幅な収入増があるといえるかどうか、一目瞭然だろう。歯科に至っては、前回の異常値を除外すると、過去最低の収支状況である。
今回の調査結果(速報値)の発表は異例のスピードで行われた。前回までは1年ほど経って、診療報酬の改定作業が終わってから発表されるのが常だった。そのタイミングには、きわめて意図的なものを感じざるをえない。
なお、マスコミは収支差額を「月収」とあたかも手取り収入であるかのごとくに扱っている。これも無茶な話だが、ここでは詳述しない。
【後日談】
99年12月1日の速報値発表から1週間後の12月8日、全国保険医団体連合会は速報値に反論する文書を発表した。独自の試算による補正を行い、「一般診療所の保険診療収入は前回に比べマイナス0.6%、歯科診療所はマイナス4.2%の収入減」と主張した。
次いで10日、日本医師会も独自の試算による補正値を発表し、「無床診療所でマイナス3.7%、一般病院でマイナス5.1%」と主張した。
15日、これらの反論にこたえる形で厚生省も補正値を発表した。「一般病院=3.8%(75.9%)、無床診療所=4.4%(15.7%)、歯科診療所はマイナス6.2%(4.9%)」と補正している。
これらの違いは、日数の違いをどう補正するかによっている。保団連、日医のそれは収入では日割り計算し、経費については、固定費はそのまま用い、変動費を日割り計算したもの。固定費と変動費の区分けの違いが数値の違いにつながっている。一方、厚生省の計算はもっと手が込んでいて、収入の補正は単純な日割りではなく、ある種の係数を乗じている。人件費も、パートの比率のデータから、変動部分と固定部分に分けている。
15日の朝日新聞の扱いは面白い。社説では「18%」の数字を引いて論陣を張り、紙面の記事では厚生省の補正値に触れ、「補正しても増えている」と報じている。他の全国紙は「補正」の発表を無視し、報道していない。
18日の東京新聞(=中日新聞)社説は、厚生省の補正値にもとづいて歯科の減収に間接的に触れ、「歯科を除き医科はいずれも収入が増え」ているとしている。 20日、毎日新聞はふたたび社説でとりあげ、こんどは補正値「4%」を引用しつつ、「診療報酬を上げる理由はない」と主張している。
サラリーマンの給料は減っているのに医者の収入を増やす理由はない、というのが各紙の共通した論点。しかし、診療報酬が賃金水準の上昇に取り残されてきたという過去の歴史には触れようとしない。
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17日、中医協は結論を出さないまま、審議を打ち切った。自民党は18日朝から日医や健保連との協議を行い、実質0.2%の引き上げで「政治決着」した。19日、記者会見した日医・糸氏副会長は「われわれの惨敗だ」と語った。
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