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数字でウソをつくな!(その13)

ふたたび「老人金持ち論」のウソ

 
「とやま保険医新聞」1999.9掲載(予定)


 7月26日、毎日新聞の社説は、「資産も収入も相当ある高齢者もいる」と主張している。どのような年齢層であっても収入や資産の少ない人もいれば多い人もいる。あたりまえのことである。ことさらに言うのは、老人は金持ちだと印象付けたいためであろう。
 社説は「65歳以上高齢者の年間平均可処分所得(手取り収入)は441万円」--と数字を引用している。これの出処は国民生活基礎調査(10年調査)である。「65歳以上の者が世帯主になっている世帯の一世帯当たり平均可処分所得」である。世帯の所得を個人の所得のごとく扱っているのは単なる誤植だろうか。
 よく使われる「高齢者世帯」は、「65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯をいう」と定義される。施設入所者は含まれない。(*)
 「高齢者世帯」でさえ経済的に自立した老人を抽出していることがあきらかなのに、「高齢世帯主世帯」では更に高所得寄りに間口を広げ、老人の実態から大きく外れる結果になっている。たとえば、10年調査の「高齢者世帯」の年間所得は323万円、「高齢世帯主世帯」だと4割近くも所得が多く集計されるのである。
 さらに社説は、「60歳以上の無職世帯の1世帯平均貯蓄高は2千万円を超える」--と、もうひとつの数字を引用している。これの出処は総務庁の「貯蓄動向調査」である。「世帯主が60歳以上の世帯」が調査対象であり、「60歳以上の高齢者」ではないことに注意。貯蓄は世帯主の年齢とともに増加し60歳付近にピークがある。負債は30〜40代にピークがある。貯蓄−負債が2千万円超という意味である。

総務庁編『高齢社会白書』平成10年版より

 この統計の問題点はグラフを見れば一目瞭然である。二こぶラクダのこぶの谷間に平均値がくる。大きな経済格差が存在することを問題にするならともかく、平均値で高齢者全般をうんぬんするのは論外だ。マスコミ人の数字への鈍感さは絶望的である。

    (*) 従来は「65歳以上の夫と60歳以上の妻の二人暮らしか、そのどちらかの一人暮らし、ただし18歳未満の未婚の子どもと暮らす世帯を含む」と定義されていたが、平成9年調査から変更された。


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