数字でウソをつくな!(その9)
日本は平等社会か
Last Update 1999-01-09
日本は所得格差が小さく、まれにみる平等化された国である--と様々な機会に聞かされる。まずは下図をご覧いただきたい。日経新聞社『税金問題入門』に掲載されているグラフである。
同書では「日本は各国比較で際立って倍率が低く、それだけ所得のばらつきが少ないことがわかります」と解説している。
|
《図A》
各国の家計調査から、所得(年収)を累積度数により5段階に分類し、最下位(T分位)の平均値と最上位(X分位)の平均値の比(=倍率)をとったもの。 同書のグラフには、それぞれの平均値が書き込まれている。
|
この図を見て、なんとも思わないだろうか。いくらなんでも日本の値は低すぎないか。日本の美点--と、ちょっぴり愛国心をくすぐられ、信じたくなる。それを押さえて、考えてみよう。下図は、上図を金額ベースで作図しなおしたものである。
| 《図B》
グラフの上端の数字は第X分位の平均値、下端の数字は第T分位の平均値である。数字はすべて前掲書に記載されているものによった。
|
これでもなんとも思わないだろうか。日本の最貧層(第T分位)の平均年収が321万円である!!
信じられるだろうか。なぜ、こんな数字がでてくるのか。残念ながら、同書には出典が記されていない。しかし、日本の数値は総務庁の「家計調査」によることは明らかである。他国のデータについては不明であるが、同一条件のデータとはとても思えない。
ところで、「家計調査」は消費支出の動向の把握に重点をおいた調査であり、収入調査としてはトンデモナイシロモノなのである。中堅サラリーマンを抽出したことを確認するためのデータと見たほうがよい。似たような調査に厚生省の「国民生活基礎調査」があるので、比較検討してみよう。どちらが実態を反映しているか、一目瞭然であろう。
所轄 | 総務庁 | 厚生省 |
名称 | 家計調査 | 国民生活基礎調査 |
母集団 | 世帯員2人以上の勤労世帯 | 全世帯 |
収入 | 税込み (=再分配前所得) | 税引所得 年金・公的扶助も含む (=再分配後所得) |
特記事項 | 農林漁業者を除く 単身世帯を除く 自営業者は支出のみ調査 無職者は年収データに含まない 支出統計主体 | 収入統計主体 仕送り・祝い金なども含む |
図A・図Bの日本以外のデータは、そのばらつきから「再分配前」の所得ではないかと推定される。厚生省のデータは、その意味では比較が難しい。(再分配後では格差が縮小される)
しかし、手元には他にデータがないので、これを使って検討してみよう。この統計では「4分位」による収入格差が公表されているが、5分位データとは当然ながら互換性がない。で、下図のごとくに概算してみた。
《図C》
こうして得られたデータを下図に並べてみた。「家計調査」と「国民生活基礎調査」の違いが明らかである。ここで概算した「格差=10.5」という数字は「再分配後所得」をもとにしたものであり、「再分配前」はもっと大きくなるはずである。図Aの諸外国のデータと比較していただきたい。「日本は平等化社会」の幻想はもろくも打ち砕かれるのである。
| 《図D》
グラフ上端の数字は最高分位の平均年収 グラフ下端の数字は最低分位の平均年収 中央の数字は最高/最低の比(倍率)
「日経94」は前掲書のデータ(再掲) 「総務庁97」は97年家計調査の5分位データによる 「厚生省96」は96年厚生省調査の4分位データによる 「厚生省改」は5分位概算(kyonc) |
|