数字でウソをつくな!(その7)
公共事業と社会保障の投資効率
Last Update 1998-07-09
自分自身が役員を務める団体(全国保険医団体連合会)が発行したパンフレットを俎上に乗せるのは、まことに心苦しい。が、厳正に見ていきたい。まず、表Aと表Bを見比べてほしい。
《A》
《B》
《A》は全国保険医団体連合会発行のパンフレット『みんなの力でストップを』、《B》は自治体問題研究所『社会保障の経済効果は公共事業より大きい』から引用した。
《A》は《B》をもとに作成された表であるが、どこが違っているか、気づかれただろうか。社会保障の波及効果を示す数値がすべて2倍になっている。表Bには入っていないが「雇用効果」も2倍になっている。
もうひとつ重要な違いがある。《A》では「1兆円の税金」となっており、《B》では「1兆円の需要」となっている。すなわち、社会保障に1兆円の税金を投入することは、2兆円の需要と等しいから、数値を2倍にしたというのである。
このことは、もうすこし説明が必要だろう。たとえば、西暦2千年にスタートする介護保険においては、半分が公費(税金)でまかなわれ、のこりの4割を保険料、1割を自己負担でまかなうことになっている。つまり制度の仕組みとして公費(税金)の2倍の需要に対応するようになっている。現在の社会保障についてみると、医療保険全体ではおよそ4分の1を公費でまかなっているが、福祉関係は「措置」が大部分を占めているので、公費の比率が高い。ひっくるめて社会保障全体として見ると、公的年金を除いて、公費負担が半分ほどになる。
だから、国は1兆円の税金を投入することによって、約2兆円の投資と同じ経済効果を上げている−−と言える。しかし、「1兆円支出すれば2兆円分の効果」と言い切ってしまうのは早計だ。医療保険と福祉部門では事情がまったく異なる。
そこまで小細工をしなくとも、すでに公共事業の投資効果は低下し、社会保障が上まわりつつある。『社会保障の経済効果は公共事業より大きい』の試算でも、対GDP効果では社会保障が公共事業を上まわっている。(表C)
《C》
公共事業で見落とされがちな視点をここで強調しておきたい。
それは、「環境への負荷」である。
公共事業に多大な投資を行っていながら、日本の生活環境はいっこうに改善されない。日本の社会的基盤整備が遅れていることを、さらなる公共事業への投資の理由づけにする政治家がいる。これは本末転倒の議論である。
日本の公共事業は、生活と直接かかわらない道路・工業団地・橋梁・港湾・ダムといった巨大プロジェクトが中心である。いっぽうで下水道などは「受益者負担」として住民から建設費用の一部を徴収するのが普通である。「町の福祉施設の改築のために1億円の補助を申し出ても相手にされない。100億円規模の土木事業でなければ見向きもされない」と、ある町長が語っている。
このように、住民の生活の場ではなく、山や川や海に巨大開発プロジェクトを策定するのが日本の公共事業の特徴であり、その結果、諌早湾や長良川河口堰にみられるように自然環境を破壊している。
いまひとつ。公共事業が「建設・土木」中心であることが、大量の廃棄物を生みだしている。埋め立てされる廃棄物の半分以上は公共事業由来であると推定される。(中山徹『公共事業依存国家』)
廃棄物の問題は、それにとどまらない。阪神淡路大震災によって、建築物の解体による大量の廃棄物が問題になった。すべての建築物・建造物は、やがて老朽化し、解体される日がやってくる。ダムなどの解体は非生産的な大事業となるだろう。これら解体とそれに伴う廃棄物処理は環境に対しても、経済に対しても大きな負荷になるにちがいない。
公共事業は「建設国債」という形で未来に負債を残しているばかりではなく、自然環境に対しても巨大な負債を残していることを忘れてはいけない。
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