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数字でウソをつくな!(その4)


 「その3」にひきつづき、水野肇著『医療・保険・福祉改革のヒント』(中公新書)をとりあげる。 この本の中で「日本の年金は平均20万円以上」の高額であるとし、ごていねいに、デンマークは夫婦でたったの10万円、と比較してある。どうやら日本は「ひとり20万円以上」であるらしい。 手厚い福祉が無料か低廉な費用で受けられるデンマークと、その対極にある日本と、年金で比べるのはどうかと思うが、それはひとまず措いておく。

 少し事情のわかる人なら「平均20万円」はありえない、と気付くはずである。著者も年金を受給する年齢のはずだが、年金などはアテにしなくてもいい生活をしていらっしゃるのかもしれない。

 いったいどこから「平均20万円以上」などという数字がでてくるのか。謎を探ってみることにした。

 まず、厚生省の発表した「平成7年度社会保険事業の概況」で全体像を見る。年金支給総額を年金受給者数で割り算してみると、厚生年金で平均10万円、国民年金で平均4.4万円と出た。水野氏の引用した数値とは余りに違いすぎる。よほど特別の操作をしなければ20万円にはなりそうにない。

 もしかしたら「ひとりあたり」と思わせておいて、世帯あたりの額なのかもしれない。

受給者(万人)

受給総額(億円)

一人月額(万円)

国民年金

1475

77456

4.4

厚生年金

1362

163958

10

共済組合

359

75451

17.5

福祉年金

40

1608

3.4

合計

3236

318473

8.2


 平成7年度社会保険事業の概況(厚生省)より

  「老人は金持ち」論の根拠にするために「高齢者世帯の所得」という統計が利用(悪用)される。これは「65歳以上の夫と60歳以上の妻の二人暮らしか、そのどちらかの一人暮らし、ただし18歳未満の子どもと暮らす世帯を含む」世帯を抽出し、経済的に自立可能な者を主な対象とした偏った統計である。これではないか、と見当をつけて、電卓を叩いてみた。

 厚生省「国民生活基礎調査」から、高齢者世帯の所得内訳を拾ってみると、公的年金による所得は世帯あたり月15万円である。20万円にはほど遠い。どうやらこの統計を使ったのでもなさそうである。


 国民生活実態調査(厚生省)より

 94年の平均所得は332.2万円

 332.2×0.551÷12=15.25

 これは弱った、迷宮入りかと諦めかけたが、経済企画庁編「国民生活白書」を開いたら平均年金月額が19.9万円というグラフが目に入った。93年度の数字だから、現在は20万円以上になっているはずである。


 平成8年版
 国民生活白書(経済企画庁)より

 グラフは「平均年金月額」となっている

 解説を読んでみると「平均的な高齢者夫婦の厚生年金」であり、退職した夫の厚生年金(基礎年金部分を含む)と妻の国民年金を合計したものだ、と記してある。つまり、「平均」ではなく、「平均的」の意味であり、実際には平均とかけはなれた「モデル」だったのである。念のため付け加えるなら、「ひとりあたり」ではなく「夫婦モデルの年金」であった。白書のグラフには、誤解を誘うかのように、「平均年金月額」とハッキリ書かれている。

 さて、これで謎は解けた。

 それにしてもお粗末な・・・・・

 

    1997−10−14 小熊


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イヌホオズキ(花言葉=うそつき)