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数字でウソをつくな!(その32)

医療難民&介護難民    

 


堺市で、長期入院していて退院の勧告に従わず医療費も支払わない患者が公園に置き去りにされた、との報道があった。マイケル・ムーア監督の映画「シッコ」の世界が、ついに日本でも現実になったか、と驚いた。

この事件に関連して、ある新聞には、医師会の調査によれば、療養病床削減によって「医療難民が6万人発生する」という記述があり、別の新聞では「介護難民が6万人」となっていた。療養病床が23万床も削減されれば6万人程度の「医療難民」が発生してもおかしくはない、という感触があるが、この食い違いは単に「医療」と「介護」の取り違えだけではないように思える。

数字の出処は日本医師会が2006年10月に発表した「療養病床の再編に関する緊急調査」である。

調査対象は医療型療養病床であって、介護型は対象となっていない。医療区分Tの患者は4割強(約10万人)であり、これらが医療療養病床削減のために退院対象になるものと見なす。
「病状不安定で退院の見込みがない」と判断された患者は医療区分Tのうち3割を占めたが、そのうちの「リハビリが必要」「認知症が重度」等を除外して「医療区分1の約2割(約2万人)は医学的管理・処置が必要で医療の必要性が高い」としている。このほとんどが胃瘻または経鼻経管栄養の処置を受けている。
「病状面からは医療的に安定してきて退院可能であっても、在宅・施設の受け入れ体制が整っていない人が約4割」(約4万人)‥これが「介護難民」化すると見る。

これらの調査を踏まえて日本医師会は、「医療難民2万人、介護難民4万人が発生する」と発表した。

療養病床 療養病床

新聞報道の「医療難民6万人」「介護難民6万人」は、いずれも誤りであった。

ところで医師会の調査であるが、ずいぶんと控えめな結論だな、と驚く。たとえば、「退院の見込みがない」との3割の回答を、さらに絞り込んで2割に見積もっている。医療的処置が必要ではあるが在宅でも可能、という判断であろう。
医師会の言う2万人に該当しなくとも、医療が必要なケースが多い。必要な医療的処置をすべての人が在宅で受けることができるだろうか。在宅医療に取り組む医師は全国津々浦々に必要充分な程度に存在しているわけではない。
条件(訪問診療、訪問看護、介護サービス、家族介護)が揃えば在宅でも可能かもしれないが、そうでなければ、どこかにしわ寄せがいく。多くの悲劇が発生するだろうことは想像に難くない。
「在宅でも既存の介護施設でも受け入れが困難なほどに医療の必要度が高い人が、控えめに見ても約2万人放り出される」という深刻な事態が起ころうとしている。

また、介護療養病床について、まったく無視しているのもどうかと思う。医療療養病床と同程度とすれば、介護療養病床からの「介護難民」が6〜7万人は見込まれるはずである。しかも、これらは要介護度4〜5の重度要介護者が大部分を占めるであろう。

厚労省は、老人保健施設や有料老人ホームへの転換を進める、としているが、遅々として進んでいない。医療法人による老人福祉施設への転換については断念するに至っている。

そもそも、療養病床の入院・入所者には純粋に医療だけが必要とか介護だけが必要というケースはほとんどなく、組み合わさっているのが普通である。医療難民、介護難民に分けること自体に無理があるというものだ。


概念図


2007-11-20 UP 


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