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数字でウソをつくな!(その31)

さすがの四段論法    

 


地元地方自治体の審議会の資料に「医師の対応がほとんど必要のない、いわゆる社会的入院の方が約半数を占めています」という記述があった。療養病床削減を説明する一節である。市町村職員を集めて行われた県の講習会で、そのように説明されたという。都道府県の担当者も、厚労省の講習会で、そのように説明されているはずである。上から下へ教育されている。

厚労省「将来像」
厚生労働省「療養病床の将来像について」より

2005年(平成17年)12月、厚労省は「療養病床削減」の方針を打ち出した。
2005年当時の介護療養病床13万床と医療療養病床25万床、計38万床を、2011年度末までに介護療養病床を廃止し、医療療養病床を15万床にまで削減するという思い切った方針である。

その根拠とされたのが同年11月、中医協に提出された「慢性期入院医療実態調査」である。この調査はみずほ情報総研株式会社に委託され、平成17年9月、実施された。

この調査のうち、「医師による直接医療提供頻度」の項目が、医療の必要のない社会的入院が半分を占める、という論拠とされている。

中医協資料の当該部分を下に示す。

 中医協資料


この調査項目の設問は下記の通り



「医師による直接医療提供頻度」とタイトルがついているが、正確には「医師による指示見直しの頻度」である。

すなわち「指示見直し」の頻度であって、医師が診察していない、という意味ではない。もちろん「医療的処置が必要ない」という意味でもない。病状が重くても、それなりに安定していれば「見直し」は必要ではなく、「週1回」におよばなければ「ほとんど必要ない」に区分される。 チューブ栄養で、酸素吸入して、カテーテルで導尿し、点滴を受けていても、それで安定していれば「6」に〇をつけるしかない。

「指示の見直し」が「直接医療提供」に言い換えられ、さらにメディアが報道する段階では「医療の必要度」と言い換えられている。医療が必要でないのに入院しているから「社会的入院」だという。
一度に結論を出すと「論理の飛躍」になるが、4段に分けるとすんなり通ってしまう。あきれると同時に、官僚の有能さに心底から感心する。


 ■さすがの四段論法■

 「医師による指示見直しの頻度」
   ↓
 「医師による直接医療提供頻度」
   ↓
 「医療の必要度」
   ↓
 「社会的入院」



なお、医療経済研究機構の調査では、「患者の状態」の設問で、「容態急変の可能性は低く福祉施設や住宅によって対応できる」と回答されたものは30%弱であった。「入院医療の必要性が低い」と言うなら、こちらの数字を使うのが正当であろう。

厚生労働省「療養病床の将来像について」収載



2007-11-06 UP 


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