〈メニューへ戻る〉

数字でウソをつくな!(その12)

薬価差は「差益」ではない

 
「とやま保険医新聞」1999.7掲載


 99年2月18日、主要全国紙に健保連・日経連・連合の連名で意見広告が掲載された。その中で「年間1兆円を超える薬価差益」を槍玉にあげている。また4月15日の毎日新聞社説では、薬剤費は年間約8兆円、医療費全体の3割近くを占め、薬価差益が約1兆円としている。
 これらは根拠のある数字なのだろうか。
 大雑把な計算をしてみよう。97年度の国民医療費を約27兆円として、3割が薬剤費とすれば8兆円。それに厚生省調査による「乖離率」(97年=13.1%)を乗じると、たしかに1兆円になる。
 これは正しい数字なのだろうか。
 OECDヘルスデータでは薬剤比率を20%(97年)としている。こちらのほうが正しい。その理由は別の機会に検証したい。今回は、もうひとつの「乖離率」のほうを検討してみよう。
 薬価改正は次の算式による。

 改正薬価=加重平均値(税込み)+現行薬価×R幅

 したがって薬価の改定率にR幅(率)を加えた数値が調査時の乖離率(薬価差)となる。なおR幅は旧薬価に乗算するので、薬価に含まれるR幅の比率は補正が必要となる。たとえば96年度のR幅は11%、改定率が6.8%なので、11÷0.932=11.8%が薬価の中のR幅部分となる。

 グラフで補正R幅と乖離率の関係を示した。「差益」という場合には流通コスト等を差し引くのが常識であり、「適正な薬価差」とされるR幅分を除外すべきである。97年の数字をあてはめると、「薬価差」が7千億円、「差益」が1700億円弱になる。
 「差」は「差益」ではない。「薬価差益1兆円」は、誤った数値を掛け算すると、とんでもない結果になるという格好の見本である。


《PageTop》   《もどる》