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数字でウソをつくな!(その11)

「老人金持ち論」のウソ

 
「とやま保険医新聞」1999.5掲載


 老人の医療費負担増、年金の給付削減など、老後を不安にする政策が不景気の大きな原動力になっている。
 その背景には「老人金持ち論」がある。「老人は身体的弱者ではあっても経済的弱者ではない」と断言した野党議員がいる。「年間の家計が三百万円、そのうちの月五千円程度の(介護保険料)負担はせいぜい二パーセント」と解説した議員もいる。医療保険福祉審議会の報告書には「老人は弱者ではない」というフレーズがたびたび登場する。どうやら厚生省によって議員たちが洗脳されているようだ。
 これらの根拠は厚生省統計情報部「国民生活基礎調査」であるらしい。

 平成9年の調査によると、高齢者世帯の平均年収は316万円、中央値は約250万円。最頻値は150万円付近。およそ7割の世帯が平均以下になる。金持ちになる確率(貧乏になる確率)は均等ではないのだから、偏った分布になるのは当然であり、平均値は意味をなさない。そもそも、「平均以下」の層をどうするかが社会保障の基本のはずだ。
 もっと重大なゴマカシがある。
 「高齢者世帯」の定義は、65歳以上の夫と60歳以上の妻の二人暮らしか、そのどちらかの一人暮らし、ただし18歳未満の未婚の子どもと暮らす世帯を含む──すなわち、子に扶養されている高齢者は除外され、経済的に自立可能な者を主な対象としている。該当するのは全高齢者の約4割にすぎない。
 この統計の平均値を、あたかも高齢者全体を代表するかのごとく扱うのは二重の意味で大マチガイである。



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