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数字でウソをつくな!(その5)


 「医療費過剰請求3千億円」は本当?
Last Update 1997-12-05

 97年10月末、新聞各紙が「医療費過剰請求3222億円」などと報じた。これは厚生省が与党医療保険制度改革協議会に提出した資料にもとづくものである。内訳をあきらかにせず、総額のみを提示することにより、歪曲したイメージを植え付けようとする意図が窺われる。

 3千億円ナニガシは「請求点数」から「確定点数」を差し引いた数字である。H7年度の資料では下記のとおり。厚生省は、これをすべて「査定」として説明した。

 社会保険(支払基金)
 1,254,806,982 - 1,236,033,180 = 18,773,802  (A)

 国民健康保険(国保連合会)
  1,215,057,615 - 1,201,607,659 = 13,449,956 (B)

 {(A)+(B)}×10=3222億円

 このたび、不完全ではあるが厚生省が再提出した内訳の資料を入手できたので、検討してみる。
 減額された3222億円の内訳は下記のとおり。

         社会保険     国保      合計
 資格関係分   963億   671億   1634億
 一次審査分   283億   312億    595億
 再審査分    658億   362億   1020億



 「資格関係」は保険証が変更になったりしたものが正しく記載されていない場合であり、診療内容とは全く関係がない。これが半分を占める。
 日本には5千を超える保険者があり、転職・転勤や転居によって保険証が変更になる。混乱に拍車をかけるのが、国保の「さかのぼり加入」であり、持参した保険証と資格のある保険証が一致しないことがある。

 資格関係を除いた分を「診療内容にかかわる査定」と厚生省は説明したようである。しかし、これにも問題が多い。

 一次審査分には「返戻」が含まれる。これは別に分類されるべき項目である。たとえば、生年月日や性別の記載が不備だったり、受診日数の記載が不備だったりといった事務的な記載ミスが多く含まれ、レセプトがまるまる返却されるので、見掛け上の金額が膨らむ。そのほとんどは訂正のうえ再度請求される性質のものである。

 一次審査における、返戻以外の減額分すなわち「減点査定」について。ここでも記載上の間違いによるものが少なくない。残りは、診療側が必要と考えて行った診療行為を審査側が必要ないと判断するために生じている。昨年結審した京都の「不当減点復活訴訟」では、まさにその点が争われ、病院側の全面勝訴となった。もしも、すべての医師が自信をもって裁判にまで持ち込むならば、ひっくりかえるものが相当あるだろう。しかし、裁判にかかる労力と費用を考えると行動をおこせないのが実情である。

 保険者からの再審査請求による査定(再審査分)が最近急増している。健保組合などの保険者が「レセプト点検業者」に歩合で委託し、チェックを強化しているためである。その内容については更なる詳しい検討が必要である。というのも、ほんらいは「返戻」や「査定」とすべき内容のものが、一次審査を通ってしまい、保険者からの再審査請求によって査定されるケースが多いのである。
 健保組合が鬼の首でも取ったかのように言い立てている「過剰診療」のなかには、レセプトコンピュータへの入力時にキーを押し間違えたとしか思えないケースがある。過小になるような間違いも当然あるが、これらは無視される。
 健保組合などは一次審査の不十分さを批判する。それは当たってはいるが、彼らの期待とは異なり、一次審査でチェックされれば、請求−確定の差額はむしろ減少するだろう。



 厚生省から追加資料の発表があったあと、とんでもない事実が判明した。一次審査と再審査が異なる県にまたがる場合、査定額で集計するのではなく、請求額で集計されていたのである。額は600億円にもなるとみられている。「資格関連」、「返戻」の扱いに加えて、これでは査定額の水増しと言われても仕方がない。

 このように3千億円の差違の中には不当に集計されているものが多く含まれている。これらの事実が明らかになったあとも、マスコミは以前の報道を訂正しようとしない。

 請求額と確定額に差があることは、保険の請求・審査にかかわる事務処理がきわめて煩瑣であり、そのための誤りが多く発生していることと、診断・治療には見解の相違がつきものであることをあらわしているのであって、それをあたかも不正であるかのごとくに言い立て、医療担当者への不信を煽るために使うのは見当はずれなのである。

    1997−12−05 小熊



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