時論-5  

地域雑誌「新川時論21」第5号の紹介



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巻頭言  病巣は深く暗い 〜 バブルは総括されたか   中田哲二

 バブルの頃、新川地方の頂点に位置していたJR魚津駅前(堀内食堂前)の土地の路線価の推移(一平米当たり)を見てみよう。
 一九八六年 一〇万六千円
   八九年 一五万円
   九二年 三〇万円
   九七年 二一万円
私は、バブルの原点は、田中角栄の日本列島改造論にあると思う。「土地は絶対に値上がりし、必ず儲かる」との土地神話を生み、土地成金を夢見て、勤労意欲を軽視する拝金主義の芽を育てた。
 歴代自民党政権は、中曽根民活路線を中心に、拝金主義をより一層煽る役割を果たした。NTT株放出、国鉄清算事業団の用地や国有地の払い下げ、リゾート法の成立などは、その一端であろう。
 異常な地価高騰は、最初は大都市や一部リゾート地などが中心であったが、しだいに全国に波及する。狂乱地価に、株式、為替、債権のトリプル高など、1989年、バブルは頂点に達した。多くの企業はその本来の事業を忘れ、「財テク」にのめり込んだ。6大企業グループを中心に株式の相互持ち合いが極端に進んでいる株式市場を背景に、いま問題の証券会社と組んで、銘柄の品薄化による高株価を仕組み、株式の時価発行・転換社債・ワラント債の発行をし、市場の大衆投資家などから多額の資金を集めた。1989年だけでものその資金の総額は、実に24兆円を超えるとされる。
 その金の過半は、設備投資などに回されることなく「財テク」資金と化した。88年に発覚したリクルート事件の賄賂の手段は、公開間近の「株」であり、政官財のみならずマスコミ界をも汚染していた、この事件は、まさにバブルの一つの象徴であった。
 政治銘柄とされる株が乱高下したり、中曽根康弘氏の三菱CB事件など債券や株をめぐる政治家の疑惑が報道された。政治家の株や土地がらみの巨額脱税事件もあった。
 歪んだ「愛社精神」にマインドコントロールされた犯罪がいくつも発覚した。〇〇博等と称する地方自治体などが主催するイベントは、開発優先の公共事業とともにバブルに随分「貢献」した。バブル期の事件は、複雑かつ多岐にわたり、思い起こすだけでも大変だ。
 ついに1990年秋、バブルは当然のごとく破裂した。その病巣は、深くて暗い。その全貌は専門家でもなかなかつかみきれるものではない。現在に至っても癒えることはなく、多くの悲劇を生み出している。
 世に投機的資金が存在する限り、バブルの発生は常に考えられるが、今回のそれは日本経済の中枢を巻き込み社会のすみずみにまで深刻な影響を与えている。銀行、住専などのノンバンク、ゼネコンや生保等の不良債権など切りがない。
 バブルの真の総括は、バブルに雪崩のごとく加担し、バブルを許した日本社会の体質に、最終的には迫るものでなければならないと考える。
残念ながら、火の玉となるという橋本行財政改革には、バブル総括の視点が弱く、むしろ後退感すらある。規制緩和論にいたっては、またしても経済効率優先の匂いがしてならないのである。

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 新川元気人 − 富田ゆうじ・はるこ夫妻 −    谷口恵子
 だれもが自然との対話を忘れることはできない。一生を通して、どれだけ自然と関われたか、どんな風に関わってきたかが、その人の幸せのバロメーターになっているような気がする。“モモ”とか“時間”もその延長線上で語られていた。

 マイステージ

 富田ゆうじ、はるこ夫妻は、生地の海と田園が絶妙に融け合う閑静な場所に、ゆうじさんの建具工場とはるこさんの茶店MY・STAGEを同居させながら、家族生活を営んでいる。
 言葉に尽くせぬ文化の香りが漂い、混沌としたエナージーを感じる、有望な類稀な富山の一級地がここにあるといっても過言ではない。
 外国人との定期的な集い、民芸、イベントへの協賛、環境保護への助っ人、学術芸術への積極的な場の提供、ときには音楽、ときには画廊と発表発展に日々忙しい。
 人々は集まり、そしてその糧を得る。はるこさんのコーヒーも料理もおいしいが、ゆうじさんの話術も包容力も、みんなを元気にする。二人とも、人々を受け入れ、まとめ、個性を生かした独自の表現に向かう力を引き出してくれる達人なのだ。
 MY・STAGEにいると、自分がいま何をしたいのか、何をしなければならいのかが、ただ話をするように、ひとりでに心の底から感じられてきて、志を新たに帰って行くのである。

 共演の醍醐味

 そんなこんな動きの中から、二人の対人間愛、演劇活動も自然と結び付けられてくる。一人よりは二人の方が、より有意義でより楽しい、という人間の感性の当然というのか至福を求めて、二人は労力を惜しまない。
 互いのキャラクターが、ある時は年輪になり、ある時は脱皮へと、負けず劣らず作用し合っているのが、すごいと思う。

 エンデの問い

 ミヒァル・エンデ原作の「モモと時間ドロボー」に掛ける二人の取り組みがまた素敵だ。脚本のはるこさんは、モモを読み込むことで、大胆なキャラクターの補充を加え、モモをさらに立体化し、私たちの生活次元から入りやすく解りやすいモモにして語り掛けている。
 モモはどんな生活をしていて、どう時間ドロボーと戦って行くのか、そして、新たなモモは見いだしていけるのか。「これは、ぼく自身の問題でもある」と語る演出のゆうじさんの目が、やさしく、鋭かった。

 作る愉しみ

 自分の時間を持つことは自分の考えを持つことでもあり、個性への栄養にもなる。そこで作るということは、より動物的に植物的に安らぐことができる。本当の孤独と本当の自分と本当の生活を求める姿勢、それを探る努力は、きっと健気な人の姿を写し出して行くことだろう。
 愉しみを作り出している人物に出会えた。 (谷口恵子)

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 ゴミとダイオキシンを考える

   ゴミ焼却は自然環境の火葬だ  ─ それでもゴミを燃やしますか

小熊清史・田中光幸   

 ダイオキシンに対する関心が高まっている。8月30日、富山市で市民集会が開かれ、「止めよう!ダイオキシン汚染・関東ネットワーク」事務局長・藤原寿和氏の講演を聞く機会を得た。折りから新川広域圏でも新しいゴミ焼却炉が建設されようとしている。身近な問題として考えてみよう。


 史上最強の猛毒物質

 ダイオキシンの毒性はサリンの2倍、青酸カリの千倍以上であり、史上最強の猛毒物質といわれている。正式名称は「ポリ塩化ダイベンゾダイオキシン」。図に示すように、二つのベンゼン環(亀の甲)が酸素を介して結びつき、そこに塩素がついたものだ。塩素のつきかたが75通りあって、それぞれ毒性が異なるが、一番強力なものを代表にして、毒性をもとに換算した量(TEQ=毒性当量)で測る。大気中や土中の濃度の単位はng(ナノグラム=10億分の1グラム)やppb(ピーピービー=10億分の1)である。気の遠くなるような小さな単位だが、それだけ毒性が強いことを示している。
 他にも毒性の高い類似物質がある。ダイベンゾフランは仲間が135種類あり、ダイオキシンとあわせて「ダイオキシン類」と総称される。そのほかにコプラナーPCB、四塩化ビフェニレン、四塩化アゾベンゼン、六塩化ビフェニルもダイオキシンと類似した毒性を持つ物質である。とくにコプラナーPCBについては、排出量が多く、ダイオキシン類に入れるべきだと言われているが、政府機関の文書で「ダイオキシン類」と言うときには含まれていない。
 昭和43年、九州で発生したカネミ油症事件やベトナム戦争での「枯葉作戦」による人体被害などは、ダイオキシンによるものだ。カネミ油症では、多くの人が治りにくい皮膚炎に苦しんだ。ベトナムではベトちゃんとドクちゃんに見られるような先天異常が多く発生している。生殖毒性(奇形・不妊・異常出産など)のほか、免疫毒性(アレルギー)、発がん性がおもな慢性毒性である。

 日本は焼却炉大国

 カネミ油症はPCB(合成油)の副産物、「枯葉作戦」は農薬の不純物としてダイオキシンが混入したものだった。こんにち、ダイオキシンの主な発生源はゴミ焼却炉である。塩素の存在する条件でプラスチック類が燃やされたときに発生する。日本で1年間に生成されるダイオキシン類(ダイオキシンとダイベンゾフラン)は約6kgと推定され、そのうちの8割から9割は都市のゴミ焼却場で発生する見られている。日本には先進国のゴミ焼却炉の三分の二が集中しているという。そのため、日本のダイオキシン汚染は世界の最高レベルにある。
 ダイオキシン類は脂肪に溶けやすく、生物の体内に蓄積されやすい。大気や水を介して、魚介類に蓄積され、家畜に蓄積され、それを食べる人間に蓄積される。日本人の母乳中のダイオキシン類濃度は世界一といわれ、日本の母親たちを戸惑わせている。
 ゴミに限らず廃油などの焼却によってもダイオキシン類が発生するが、とくに、低温で不完全燃焼したときに発生しやすい。簡易焼却炉や野焼きはたいへん危険である。逆に排出ガスが高温(200〜600度)だと、ガス中でダイオキシンが生成される。電気集塵設備はそれを助長する。焼却以外に、塩素系薬剤を使った漂白工程でも生成され、紙や製紙廃液にも含まれ、女性の生理用品(漂白されたコットン)による中毒事故が米国で起きている。

 厚生省の調査では安心できない

 この春、厚生省が行ったゴミ焼却場の調査では、1854施設のうち105カ所で排出ガス中のダイオキシン類濃度が基準を上回っていた。さいわい、富山県内の施設は入っていない。が、安心するのは早い。今回の調査は「緊急対策の判断基準」によっており、大甘の基準なのだ。すなわち、ダイオキシン類の排出濃度1立方bあたり80ng(当量)という基準は、ただちに炉を停止するなどの緊急対策をとるためのものであり、今後5年間に達成を求められる「恒久対策の基準」では、新設は0.1 ng、既設でも1〜5ng(炉のタイプにより異なる)以下にしなければならない。この条件をクリアしているところは少ない。
 この調査では定常運転時の排ガスを測定しているが、燃やしたり止めたりする炉(バッチ炉)の場合、燃やしはじめに数倍多くのダイオキシン類が出ることから、連続運転に切り替えることが求められている。今後、バッチ炉の新設は補助金の対象外となり、事実上認可されないであろう。連続運転するためには、すくなくとも日量100トンのゴミを集積する必要があり、広域圏での対処が求められる理由になっている。

 固形燃料化の試み

 福光町の「南砺リサイクルセンター」ではゴミの固形燃料化(RDF)を行っており、ユニークな試みとして岩波新書『ゼロエミッションと日本経済』にも紹介されている。石灰などを加えて固形化し、燃やすときにダイオキシン類が発生するのを抑えている。できた固形燃料は貯蔵・輸送が容易になるので、事業用の燃料として再利用が可能になる。従来のゴミ焼却炉一辺倒の方式からは一歩進んだ方式である。
 とはいうものの、最後は燃やすことになる。厳重な管理が必要である。

 三枚橋の炉は大丈夫?

 新川広域圏の焼却炉は魚津市上野と朝日町船川新の2つあるが、いずれもバッチ炉である。平成11年の完成をめざして朝日町三枚橋に新たに建設されている炉は、現在の2つの代替になる予定であり、准連続方式とはいうもののバッチ処理である。たまたま、厚生省の新しいガイドラインが出される以前から建設に着手していたので、かろうじて認可されるようだが、ダイオキシン類の排出については新しい基準(0.1 ng当量/立方b)をクリアすることが求められる。ところが、発注済みの炉は古い基準(1.0 ng)で設計されているため、急遽対策が必要になってきた。
 いま考えられているのは、第一に、ゴミの均質化(撹拌)や燃焼温度の管理、塩素系ゴミの削減(分別)などによってダイオキシン類の発生を抑えること。第二に、活性炭の粉末を集塵器に吹き込むことによる吸着除去と、フィルターの追加である。このために、余分な建設費用がかかり、また、運転開始後もランニングコストを押し上げることになる。

 コストは増え続ける

 厚生省は、ダイオキシン排出を削減する5年きざみの計画を提示している。5年後には86%、10年後には98%、20年後には、99・6%を削減する予定。排出ガスだけでなく、飛灰(煤)や焼却灰も含めた目標である。
 灰もやっかいな代物だ。ダイオキシン類ばかりではなく、有害な重金属なども含まれる。灰の無害化のために、高温で焼き固める溶融固化や加熱急冷による脱塩素化処理が将来導入されることになる。そのためには大規模な設備投資が必要になり、このことも「ゴミ処理の広域化」を進める理由になっている。
 最終廃棄物も、いままでのような簡便な埋め立てはできなくなる。遮水シートだけでは不十分であり、浸出水集排水施設を備えなければならない。しみ出てきた水を集め、煮物のアクをすくうように浮遊物質を分離し、それを沈殿や濾過によって、濃縮する。その先は ─ 終わりがあるのだろうか。
 いずれにしてもゴミ処理コストの増大が加速することは避けられない。大量生産・大量消費・大量廃棄という経済システムの後始末を市町村に押し付けられても、もはやさばききれないのだ。

 発想の転換を 

 人間は、火を使う動物だが、上手に使う動物とはいえないようだ。サルに戻って反省しよう。
 集めて燃やす、という現在のゴミ処理の基本方式は、かつては最も安上がりで衛生的と考えられていた。しかし、ダイオキシン問題を契機に、コストが高く有害と考えられるようになってきた。根本的な解決は、ゴミを少なくし、リサイクルを徹底し、燃やさないようにすることだ。現に欧米ではそうしている。いま、収集・焼却・埋め立てにかけている費用をもってすれば不可能ではない、という意見がある。── それでもゴミを燃やしますか?

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